研究課題/領域番号 |
23K03320
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮坂 茂樹 大阪大学, 大学院理学研究科, 准教授 (70345106)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
|
キーワード | 鉄系超伝導 / 反強磁性秩序 / 電子ネマティック秩序 / 構造相転移 |
研究開始時の研究の概要 |
鉄系超伝導体1111系As・P固溶母物質RFeAs1-xPxO系(R=La,Pr,Nd)においては、構造相転移(電子ネマティック秩序)を伴う、あるいは伴わない、多彩な反強磁性状態が出現し、それらのスピン・軌道ゆらぎが高温超伝導機構に密接に関係している。本研究では、構造相転移を伴わない純粋な反強磁性状態の安定性、及び、その電子状態を、輸送現象、磁化、中性子散乱、光学反射率、角度分解光電子分光測定を駆使して解明する。この研究を通して、鉄系超伝導に対するスピンゆらぎの寄与を抽出し、本系の超伝導機構に関する新たな知見を得る。
|
研究実績の概要 |
本研究では、Pを置換した鉄系超伝導体母物質RFeAsO (R=La, Pr, Nd)において出現する多彩な磁気構造に関して研究を進めている。LaFeAs1-xPxO系においては、ストライプ反強磁性、ヘッジホッグ反強磁性、ダブルQ反強磁性が、P置換量の増加とともに出現することが知られている。本年度は、Pr系、Nd系を対象として、Pを置換した様々な組成の試料を作成し、中性子散乱実験を中心に行い、磁気相図の解明を行った。La系においては、ストライプ反強磁性とヘッジホッグ反強磁性の相境界で、反強磁性転移温度は一旦、ゼロケルビン近くまで落ち込み、磁気秩序が極めて強く抑制されている。一方、本研究の磁化測定などから、Pr系やNd系では、磁気相転移温度はP置換量とともに連続的に降下していき、x=0.7付近で反強磁性磁気秩序が消失することが判明した。磁気相転移温度は連続的に降下するにも関わらず、Pr系、Nd系ともに磁気構造は、x=0.3-0.4付近で、低P濃度のストライプ反強磁性から、ヘッジホッグあるいはダブルQ反強磁性構造に変化していることが、粉末中性子散乱実験の結果から、明らかになった。これらの結果は、P置換効果により、ストライプ反強磁性からヘッジホッグ/ダブルQ反強磁性への磁気構造の変化が、RFeAs1-xPxO系において普遍的な振る舞いであることを示している。現在、Pr系とNd系において、ヘッジホッグ反強磁性とダブルQ反強磁性の磁気構造変化が、どの組成領域で生じているかを、解析中である。 この実験と同時並行で、RFeAs1-xPxO系の単結晶育成にも取り組んでいる。結晶育成法としては、NaAs/NaPを用いてのフラックス法を試みている。現在、La系において1mmサイズの微結晶が得られている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄系超伝導体においては、スピンゆらぎや軌道(電荷ネマティック)ゆらぎが、超伝導対形成機構に関与していると考えられている。また、超伝導相近傍に多彩な磁気・電荷ネマティック相が出現し、それらがエネルギー的に拮抗していることも、本系の超伝導出現と関係があると考えられている。本研究では、母物質系において多彩な磁気・電荷ネマティック相が出現するP置換したRFeAsO系を対象物質として、第一に本系で出現する3種の磁気構造が、異なる希土類元素を含む系においても出現する、普遍的な特性か否かを検証することを、目的としている。研究初年度において、Pr, Nd系においても、ストライプ反強磁性、ヘッジホッグ/ダブルQ反強磁性が出現することを、中性子回折実験により明らかにすることが出来て、当初の第一目的は達成できたと考えている。また、同時進行で進めていた単結晶育成も、手法自体は確立できており、今後、精密に結晶育成の条件をコントロールすることで、本課題研究に必要なサイズの単結晶を育成できると考えている。単結晶育成に関しても、当初の計画通り進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、中性子回折実験を主な観測手法としたため、P置換したRFeAsOにおいて出現する、磁気構造の詳細を解明できた。一方で、中性子回折においては、結晶構造相転移に関する情報を得ることが出来なかった。そこで、今後の研究の一つの大きな目標として、本系の結晶構造の詳細を明らかにすることを目的とする。本系においては、P置換に伴い最低温で直方晶相から正方晶相への相転移が生じると予想している。これは、電子構造の電荷ネマティック状態から非ネマティック状態への相転移と、密接な関係があると考えている。この電荷ネマティック、非ネマティック状態が、中性子散乱実験から決定した磁気構造変化と、密接に関係していると予想している。これらの研究を統合して、本系においてP置換量とともに、ストライプ反強磁性-電荷ネマティック状態が、ヘッジホッグ/ダブルQ反強磁性- 非ネマティック状態へと変化していることを検証する。更に、このような磁気・ネマティック状態変化は、電子構造変化がドライビングフォースとして働いていると予想している。そこで、電子構造変化をホール効果、反射率、角度分解光電子分光など、多角的な手法により解明していく。
|