研究課題/領域番号 |
23K03328
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 久留米工業大学 |
研究代表者 |
井野 明洋 久留米工業大学, 工学部, 教授 (60363040)
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研究分担者 |
鬼頭 聖 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (30356886)
木村 昭夫 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (00272534)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 超伝導体 / ディラック線ノード / バンド分散 / 角度分解光電子分光 / 複合アニオン化合物 / ディラック速度 / 超伝導 / リン正方格子 / 電子構造 |
研究開始時の研究の概要 |
ディラック電子が運動量空間で線状に連なった線ノード半金属が注目を集め、その超伝導化への挑戦が盛んに行われています。本研究では、リンの正方格子をもつ超伝導物質群を対象に、存在が予想される線ノード型ディラック電子の直接観測実験を展開します。ディラック線ノード超伝導体の種類を一気に増やして、電子構造の系統的な変化を明らかにすることで、より速いディラック電子やより高い超伝導転移温度を実現するための指針を探ります。得られる知見は、マヨナラ粒子などの新奇量子現象創出への道を開くとともに、超高速低消費電力デバイス開発の手がかりとなることが期待されます。
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研究実績の概要 |
ディラック電子が運動量空間で線状に連なった線ノード半金属が注目を集めています。その超伝導化への競争が白熱する中、超伝導体ZrPSeにおいてディラック線ノードが発見されました。そこで本研究では、リンの正方格子をもつ多様な超伝導物質群を対象にディラック線ノードの直接観測実験を展開し、電子構造の系統的な変化を明らかにすることで、より優れた特性をもつディラック線ノード超伝導体を実現するための指針を探ります。 令和5年度は、ZrをHfに置換した超伝導体HfPSeがディラック線ノードをもつことを、紫外線および軟X線を用いた角度分解光電子分光による直接観測で実証しました。これは、線ノード半金属ZrSiSおよびHfSiSにおけるシリコン正方格子の代わりにリン正方格子を用いると、線ノードが保持されたまま超伝導が発現することを示しています。直接観測の結果、シリコンからリンの正方格子への移行に伴い、ディラック速度が上昇し、スピン軌道ギャップが小さく抑制されることが判明しました。これらの特性向上は、リンの原子軌道のエネルギーが低く正方格子に隣接する遷移金属の電子軌道との混成が弱まることに起因します。したがって、正方格子の面内電子軌道が主成分となるようにすれば、より高速で質量の小さい線ノード型ディラック電子が実現することが示されました。これらの知見は、今後実施される超伝導ギャップの測定結果とあわせて、物質開発の指針を与えるでしょう。また、リン正方格子は様々な元素との組み合わせで超伝導体になることが知られているため、今回の成果は、さらに多様な線ノード超伝導体の発見を導く端緒になるものと期待されます。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画で第一の目標としていたHfPSeのディラック線ノード分散の直接観測に成功しました。紫外線および軟X線を用いた角度分解光電子分光により、運動量空間における電子構造について多面的な実験データが得られ、超伝導体のZrPSeや半金属のHfSiSの線ノードの観測結果と詳細に比較できるようになりました。そして、リン正方格子をもつ超伝導物質群への理解を点から面に広げ、俯瞰的な視点を導くことができました。得られた知見を学術会議で発表し、論文原稿にまとめて学術誌に投稿しました。現在、査読と修正の作業が進行中です。 さらに、その後の目標として想定していた線ノード半金属と線ノード超伝導体の固溶体Zr(P1-y,Siy)Seの角度分解光電子分光実験も既に着手しています。試料の準備、結晶の品質、試料の劈開性などの観点で手応えが得られており、次年度以降で大きく進展することが見込まれます。 極低温超高分解能角度分解光電子分光による超伝導ギャップの測定については、実験装置に一時的な不具合が発生したため、次年度以降に延期しています。しかしながら、既に高品質な単結晶試料を準備できており、他の支障はありません。装置の復旧とともに、すみやかに測定を開始できる状態です。 以上をふまえて、本研究課題は「おおむね順調に進展している」と判断しました。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、リン正方格子超伝導体をシリコン正方格子半金属の対応物と一対一に比較することで、線ノード分散における正方格子元素の役割が見えてきました。しかし、両者の電子構造の違いは大きく、超伝導の発現を担う電子構造が運動量空間のどの部分に対応するのか、まだ特定できていません。一方で、私たちは両者の固溶体Zr(P1-y,Siy)Seの合成に挑戦し、既に複数の単結晶試料が得られています。そこで今後の研究では、まずZr(P1-y,Siy)Seにおけるリン・シリコン置換量yを変化させて、紫外線および軟X線を用いた角度分解光電子分光実験で線ノード分散の変遷を観測し、超伝導発現に直接関係する電子構造の変化を特定します。置換量yを軸として、線ノードのエネルギーやディラック速度、および、超伝導を担うフェルミ面の面積や形状の変化を、超伝導転移温度などの物性測定の結果と比較することで、線ノードを保ちつつ超伝導を担う電子構造を最適化するための処方箋を探ります。 さらにまた、超伝導の発現機構を特定する突破口となりうる実験が、超伝導ギャップの直接観測です。そこで令和6年度は、極低温超高分解能レーザー励起角度分解光電子分光装置を用いて、ZrPSeで予想される微小な超伝導ギャップの初観測に挑戦し、超伝導ギャップの大きさとその異方性やフェルミ面依存性を明らかにします。線ノードと共存可能な超伝導を担う軌道成分や発現機構の手がかりを集めます。 研究が順調に進んだ場合は、リン正方格子に隣接するZrを希土類元素のSc, Lu, Yなどで置換した超伝導体に対象を広げ、ディラック線ノードの有無を直接観測により決定します。そして、超伝導転移温度の上昇に伴うディラック線ノードの変化を明らかにします。
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