研究課題/領域番号 |
23K03339
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
川口 一朋 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (90402429)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 分子動力学 / 結合自由エネルギー / タンパク質複合体 / アミノ酸変異 / 分子動力学シミュレーション / 自由エネルギー |
研究開始時の研究の概要 |
タンパク質はたった一箇所のアミノ酸変異であっても、他のタンパク質や基質分子との結合のしやすさ(結合自由エネルギー)が大きく変わることがある。アミノ酸変異による新型コロナウイルスの感染力の変化はよく知られた例である。タンパク質複合体のアミノ酸変異による結合自由エネルギーの変化を明らかにすることはタンパク質の機能を理解し、複合体形成を制御するために重要である。しかし、多くの変異型に対して結果を得るためには多大な実験・計算コストを要する。本研究では、野生型複合体に対する分子動力学シミュレーションから、任意のアミノ酸変異によるタンパク質複合体の結合自由エネルギー変化を予測することを目指す。
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研究実績の概要 |
タンパク質複合体の構造安定性は一箇所のアミノ酸変異によって大きく変わることがあり、生体機能に大きな影響を与える。分子動力学シミュレーション(MD)を用いてタンパク質複合体の結合自由エネルギーを計算することができるが、計算コストが大きいため多くのアミノ酸変異に対して結合自由エネルギーを計算するのは困難である。本研究では、アミノ酸変異によるタンパク質複合体の結合自由エネルギーの変化のみを計算することで、この問題を解決する。 バルナーゼ-バルスター複合体に対してアミノ酸変異による結合自由エネルギーの変化量を計算した。バルナーゼ-バルスター複合体はタンパク質複合体の中でも比較的小さい複合体であり、多くのアミノ酸変異による結合自由エネルギー変化の実験値が報告されている。2023年度は、バルスターのY29A, Y29F, W38F, T42Aの4種のアミノ酸変異について結合自由エネルギー変化の計算を行った。野生型複合体に対して、300 K、1 atmで100 ns平衡化MDを行ったのち、10 nsごとにサンプリングした構造を用いてアミノ酸変異による結合自由エネルギーの変化を計算した。自由エネルギー変化の計算には自由エネルギー摂動法を用いた。計算値は実験値と比較して最大で2 kcal/molの差であり、定性的に一致する結果が得られた。また、自由エネルギー計算の初期構造によって、計算結果にばらつきが生じることを示した。タンパク質複合体のような多自由度複雑系では、一点の自由エネルギー計算ではなく、複数の異なる初期条件を用いて計算し、その平均を取ることが必要であると示唆された。このことから、本手法によってアミノ酸変異によるタンパク質複合体の構造安定性変化の予測が可能といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バルスターの4種のアミノ酸変異(Y29A, Y29F, W38F, T42A)について複合体の結合自由エネルギー変化を計算し、定性的に一致する結果が得られた。一方で、計算精度に関して以下の二つの課題が得られた。1. 統計誤差が大きい。2. 一律に計算値の方が小さい値となる。これらについて改善の余地があるものの、計算開始前から想定していたことであり今後の改善が見込める。以上より、本研究は順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
上記二点の課題について改善を進める。1.について、自由エネルギー計算の計算点数を増やすことで、計算誤差が小さくなるようにする。2. について、MDセル内のタンパク質濃度依存性について検証する。計算精度が改善されたのち、バルスターの変異型の種類を増やして計算をする。さらに、バルナーゼの変異型についても計算を行う。
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