研究課題/領域番号 |
23K03349
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13040:生物物理、化学物理およびソフトマターの物理関連
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
籔下 篤史 神奈川大学, 付置研究所, 研究員 (20376536)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2027年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2026年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 超高速分光 |
研究開始時の研究の概要 |
ヘム蛋白は生体内で様々な重要な機能を担っており、これらのヘム蛋白の機能を制御するためにはどのように機能が開始するか解明する必要があるが、その初期反応メカニズムは未だに解明されていない。 本研究は申請者が独自開発を行っている超短パルスレーザーと高速フェムト秒分光装置を用い、ヘム蛋白の初期反応メカニズムを解明する。測定対象は、電子輸送系を担うシトクロムcを含むヘム蛋白である。超短紫外パルスレーザーを開発、及びそれによる分光を行うことで、2原子分子の乖離、再結合に伴う分子構造変化やそのダイナミクスが明らかとし、ヘム蛋白の機能制御を行う医薬品開発につながる重要な知見を与える。
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研究実績の概要 |
本研究課題ではたんぱくの光反応における初期反応メカニズムを、超短パルスレーザーと超高速分光システムを開発して、それを用いて観測することにより初めて明らかにするものである。 一般的な分子振動周期である20フェムト秒よりもはるかに短いパルス幅のレーザーを用いることにより、分子構造が分子振動の周期でリアルタイムに変化している様子が可視化される。これにより光励起した反応がどのような構造変化を伴って進行するのかを明らかにすることができる。 たんぱくの光反応においては、発色団の光励起から反応が始まるが、その発色団を取り囲む環境であるアミノ酸残基の配置とその発色団への結合が、その後に続く反応に大きな影響を与えると考えられる。 たんぱくの光反応へ与えるアミノ酸残基の影響を見る研究の一環として、赤色蛍光たんぱくであるtagRFPにとその突然変異体であるtagRFP-Tに対して超高速分光実験を行った。このtagRFP-TはもともとのtagRFPに比べて9倍ほど高い光安定性が報告されている。この突然変異体が持つ光安定性は加えた突然変異によるアミノ酸残基との結合の変化が発色団の光異性化を可能にして、失活した発光性を再度活性化させるのではないかということが提案されているが、実際に光異性化がどのようにして活性化されどのようなタイムスケールで進行するのかという実験的証拠は得られていなかった。 本研究でtagRFPとtagRFP-Tの超高速分光を行い、その詳細なデータの解析を行い比較した結果、突然変異体では特定の分子振動モードが励起され、フェムト秒領域で発色団の光異性化が進むため、その光安定性の向上が得られるということが初めて明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
たんぱくの光反応へ与えるアミノ酸残基の影響を見る研究の一環として、赤色蛍光たんぱくであるtagRFPにとその突然変異体であるtagRFP-Tに対して超高速分光実験を行った。このtagRFP-TはもともとのtagRFPに比べて9倍ほど高い光安定性が報告されている。この突然変異体が持つ光安定性は加えた突然変異によるアミノ酸残基との結合の変化が発色団の光異性化を可能にして、失活した発光性を再度活性化させるのではないかということが提案されているが、実際に光異性化がどのようにして活性化されどのようなタイムスケールで進行するのかという実験的証拠は得られていなかった。 本研究でtagRFPとtagRFP-Tの超高速分光を行い、その詳細なデータの解析を行い比較した結果、突然変異体では特定の分子振動モードが励起され、フェムト秒領域で発色団の光異性化が進むため、その光安定性の向上が得られるということが初めて明らかとなった。 この実験やデータ解析に時間がかかるのみならず、結果の解釈には理論計算との対比も必要であるため、当初研究結果の発表まで時間がかかると思われたが、予想以上に研究が進展し、下記の雑誌に研究結果を発表することができた。 "Excited State Vibrational Dynamics Reveals a Photocycle That Enhances the Photostability of the TagRFP-T Fluorescent Protein", Atsushi Yabushita*, Chia-Yun Cheng, Ying Kuan Ko, Takayoshi Kobayashi, Izumi Iwakura, and Ralph Jimenez, J. Phys. Chem. B, 128, 5, 1188-1193 (2024)
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今後の研究の推進方策 |
ここでえられたtagRFPとtagRFP-Tの比較実験により、発色団周辺のアミノ酸残基の配置がそのたんぱくの機能に大きく影響を与えることが実験的に示された。これはtagRFPのみならず他の蛍光たんぱくに対しても同様であることが期待される。本年度に発表した論文の共著者であるJimenez教授のグループと共同研究を進め、さまざまな蛍光たんぱくの突然変異体に対して新しい機能発現のメカニズムを探る研究を進めていきたいと考えている。 ここで用いている超短パルスレーザーと高速スキャンフェムト秒分光システムは我々独自に開発したシステムでありきわめて独創性の高くオリジナリティの高いデータが得られるが、さらに2次元電子分光などの新しい手法を取り入れることにより、これまでの分光手法では解析が難しかったエネルギー移動や電荷移動のダイナミクスを反映した電子状態のカップリングの強さを評価できるようになるため、そのための分光システムの構築も目指したい。 特にヘムたんぱくのひとつであるシトクロムcは細胞内の電子伝達系チャンネルの機能に必須なたんぱくであり、呼吸のための電子輸送、活性酸素の除去、細胞のアポトーシスなどのコントロールを行っている。2次元電子分光法を用いてシトクロムcの光励起後の電荷移動ダイナミクスを明らかにすることで、シトクロムcがかかわっている上記の様々なプロセスをコントロールするための指針となる研究結果が得られると期待される。
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