研究課題/領域番号 |
23K03371
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分14030:プラズマ応用科学関連
|
研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
眞銅 雅子 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (10345481)
|
研究分担者 |
松尾 充啓 摂南大学, 農学部, 講師 (70415298)
高木 大輔 摂南大学, 農学部, 助教 (80825654)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
|
キーワード | プラズマ農業 / 大気圧プラズマ / 種子休眠 / 発芽促進 / 成長促進 / 生長促進 / 系統分類 / エピジェネティクス |
研究開始時の研究の概要 |
プラズマを植物種子に照射すると、発芽率の向上、生長促進、バイオマス増産といった表現型変異が発現するが、表現型変異は植物種やその生理状態によって方向や強度が異なることをこれまでの実験で確認してきた。しかし、エピジェネティクスに基づく考察では表現型変異は近縁種間では同じレベルで起きるとされる。そこで本研究では、種子にプラズマを照射した際に発現する表現型を様々な植物に対して観察し、植物の系統樹のもとに整理することで、プラズマ照射効果と表現型との因果関係に介在する因子の解明を目指す。
|
研究実績の概要 |
プラズマを農作物栽培に利用するプラズマ農業技術においては、プラズマで生成される活性酸素種(ROS)が植物の発芽率の向上、生長促進、バイオマス増産といった表現型を変異させると考えられている。そこで本研究では大気圧誘電体バリア放電(DBD)プラズマ中で生成されるROSを植物種子に作用させ、プラズマの発芽促進効果について調査した。 本研究ではまず、発芽を阻害する植物ホルモンであるアブシシン酸(ABA)溶液(濃度10μMおよび100μM)または水に浸漬させる前処理を行うことで生理状態を制御した種子に、大気圧DBDプラズマ照射を行った。DBDプラズマは内径4mm外径6mmのアルミナ管内で、外部から空気を供給しながら生成した。管の出口近傍でのオゾンの濃度は300ppm程度であった。種子をプラスチックシャーレの中に重ならないように静置して蓋をし、蓋の中央に開けた穴にアルミナ管の先端を挿入して15分間のプラズマ照射を行った後、種子を純水を含ませたろ紙上に播いて4日間の発芽率推移を調査した。 ABA処理のみまたは水処理のみを施した種子は発芽率が大きく低下し、休眠状態となっていることが確認できた。一方、これらの処理を施した種子にプラズマ照射を加えると、未処理区以上の発芽率に回復した。すなわち、プラズマから供給されたオゾン等のROSが、休眠状態にある種子中のABAを抑制し発芽を促進したものと考えられる。また発芽率の上昇具合から、プラズマは種子を休眠状態から目覚めさせるタイミングを早めているのではないかと推察している。さらに種子の収穫時期によってプラズマ照射による発芽促進の度合いが異なることから、種子の生理状態が発芽におけるプラズマの効果の現れ方に大きく影響していることが示唆された。以上を2023年度プラズマ・核融合学会年会において発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
春菊やレタス、シロイヌナズナその他の植物種子に大気圧DBDプラズマを照射する実験を繰り返し、発芽促進度合いに対するプラズマ照射の効果の現れ方を調査した。全ての実験条件において3回以上の実験を繰り返し、統計処理を行うように心がけている。研究実績の欄で述べたキク科の春菊は、そもそも発芽率が低い植物であるが、プラズマ照射による発芽促進効果が現れやすいことが本実験で明らかにされた。ただし効果の現れ方は、種子の収穫時期によって、つまり種子の生理状態によって変化する様子が実験で示された。そこで種子の生理状態をABA溶液や水への浸漬によって人工的に制御する手法を試し、この方法が有効であることを見出すことができた。したがって、生理状態の性格な定量評価は未だ困難であるものの、プラズマ照射効果の現れ方について植物種ごとにあるいは生理状態ごとに分類する指標をある程度確保したところまで進捗したと考えている。春菊種子については15~30分程度のプラズマ照射が最適であることを見出したが、種子によっては同じ条件でも発芽促進の効果が見られない場合があった。そこでプラズマ生成の電力や照射時間などのパラメータを様々に変えることで照射オゾン量を変更しながら、発芽促進効果を観測する実験を始めたところである。また、プラズマ照射による遺伝子発現については、プラズマ照射の最適条件を見出してから順次開始することを考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
研究期間の2年目は、より多数の植物種子に対するプラズマ照射効果のデータベースが作成できるよう、多様な植物種子を収集してプラズマ照射を行う実験を繰り返し行う。種子は、種苗会社から購入する他、フィールドワークによる収集を適時行っており、また種苗会社からの提供を受けることも既に決定している。以上のように、試料となる種子の確保手段は整っている。種子やその生理状態によってプラズマ照射効果の現れ方が異なることは、成果の概要欄での述べたとおりであるが、今後はプラズマからのROS発生量を調整するため、電極の大きさやガス種、投入電力や照射時間などを変更し、ROS量を定量的に測定しながら、ROS暴露量と発芽率との相関を調査する予定である。さらに、これまでは発芽率の調査にとどまっていたが、幼苗にまで育成することでバイオマスや光合成活性、ストレス耐性獲得の有無、栄養素の変化なども詳細に調査する。 研究期間1年目は種子にプラズマ照射をしてから播種を行い主に発芽率の調査を行ったが、今後の新たな課題として土中の種子へのプラズマの効果についても調査したいと考えている。土中の種子にプラズマを直接照射することは難しいと考えるので、プラズマ処理水により硝酸・亜硝酸濃度を高めた水の散布を通して種子へ働きかけることで発芽を促し、また処理水を根から吸収させることで成長を促すことを期待する。様々な土中の種子について、発芽促進および発芽後の生長促進・栄養素の変化等について調べる予定である。
|