研究課題/領域番号 |
23K03391
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
酒谷 雄峰 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40636403)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
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キーワード | 超重力理論 / 超弦理論 / M理論 / 双対性 / コンパクト化 |
研究開始時の研究の概要 |
量子重力理論の整合的な定式化として超弦理論が提案されているが、この理論は10次元時空を必要とし、現実的な4次元時空における物理を記述するには時空をコンパクト化する必要がある。古くからの研究により、平坦なトーラスを用いて時空をコンパクト化すると、超弦理論にはU双対性という対称性が現れることが知られており、このU双対性を活用することで超弦理論の様々な性質が明らかにされた。 本研究では、ある代数に基づく手法から、トーラス以外の様々な多様体を用いた超弦理論のコンパクト化を研究する。そして、これらのコンパクト化された理論に現れる一般化されたU双対性に着目することで超弦理論の新たな構造を探る。
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研究実績の概要 |
1.一般化されたU双対性を、より幅広いクラスの時空に適用できるよう拡張した。一般化されたU双対性は、異なる空間を用いて時空をコンパクト化した際に現れる複数の低次元超重力理論の間の等価性だが、従来の研究では、コンパクト化に用いる空間は(一般化)向き付け可能なものに限られていた。本年度の研究では、T双対性の文脈で議論されていた非自明な構造群を持つ内部空間を構築する手法をU双対性共変に拡張し、generalized cosetsというある種の商空間を用いてコンパクト化した際にも一般化されたU双対性を実現できることを示した。また、一群のU双対性共変な曲率テンソルを構築した。従来の研究では、U双対性共変な一般化Ricciテンソルの定義は見つけられており、これが(2階微分の)超重力理論の運動方程式を与えることが知られていたが、4つの添え字を持つRiemannテンソルは構築されていなかった。我々の構築した曲率テンソルはRiemannテンソルを含み、これは超重力理論の高次微分補正を研究する上で重要な役割を果たすと期待している。 2.一般化されたT双対性が超重力理論や超弦理論の古典的等価性であることはよく知られているが、量子論的にも等価性が成り立つかどうかは非自明である。本年度の研究では、この点について調べるため、すでによく知られているSU(2) Wess-Zumino-Witten模型に着目し、一般化されたT双対性の下での自己双対性を調べた。その結果、従来から知られているT双対性の場合と同様、この模型でも確かに量子論的にも等価性が成り立つことがわかった。 3.T双対性共変な定式化の宇宙論への応用を目指し、相対論的粘弾性体力学のT双対性共変な定式化を与えた。また、従来から知られていた完全流体がT双対性変換の下で共変的に振る舞わないという問題の原因を明らかにし、その問題を解消する方法を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
T双対性の文脈では、generalized cosetsと呼ばれる商空間の定義は、1990年代に与えられてたが、従来の定義ではT双対性に特有の性質が用いられており、U双対性共変な拡張を見つけることは困難だと言われていた。しかし、本年度の研究では、PolacekとSiegelによる自然な曲率テンソルの構成法を応用することで、U双対性共変な一群の曲率テンソルの定義を見つけ、これらを用いてgeneralized cosetsの構築に成功した。この結果は、本研究課題で目指している超弦理論および超重力理論の非自明なコンパクト化を行う上で欠かせないものであり、これを用いて次年度の研究を円滑に進められるようになった。 また、一般化T双対性の量子論的な等価性の研究については、これまでほとんど研究がなされていない状況であったが、具体的な模型を考えることにより、一般化T双対性変換の下で分配関数が不変であることを示すことに成功し、超弦理論における一般化T双対性変換の重要性がより明確になった。 粘弾性体力学のT双対性共変な定式化の研究は、粘性流体力学のT双対性共変な定式化の研究をきっかけに始まったが、T双対性共変性を要請すると、弾性的な歪みテンソルを導入する拡張を行うことが自然だとわかり、より一般的な粘弾性体力学の定式化を行うに至った。そして、この拡張を行えば、従来から知られていた流体力学のT双対性の問題が解消されることがわかり、結果として、T双対性共変な連続体力学の構造が明確になった。 以上の進展を考慮に入れ、本研究課題は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で定義したgeneralized cosetsでは、簡単のため、空間の次元が3次元以下の場合に制限していたが、様々なコンパクト化を考えるにはこの制限を緩めていくことが重要である。そこで、次年度の研究では、次元を緩める研究を行う予定である。計算は煩雑になるが、本質的な困難は想定されないため、この課題は順調に進められると考えている。 Generalized cosetsを用いたコンパクト化を研究する動機の一つは、高次元の超重力理論の超対称性を破ることである。(一般化)向き付け可能な空間を用いたコンパクト化では超対称性は全く破られないことが知られているが、非自明な構造群を持つgeneralized cosetsでは、一般には超対称性は破られると期待される。どれだけの超対称性が破れずに残るかを調べることは非常に重要であり、この点についても詳しく研究する予定である。一般的なことを議論するのが困難だと判断した場合には、構造群がSU(2)の場合など、様々な具体例を扱い、個々の低次元理論がどれだけの超対称性を保つのか具体的に調べていきたいと考えている。 また、量子論的な一般化T双対性の研究については、SU(2) Wess-Zumino-Witten模型以外の様々な模型についても同様の結論が得られるか研究したいと考えている。 上記以外にも、双対性共変な定式化を用いた超重力理論の高階微分補正の研究、双対性共変な定式化の宇宙論への応用など、様々な関連する研究にも幅広く取り組みたいと考えている。
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