研究課題/領域番号 |
23K03410
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
関澤 一之 東京工業大学, 理学院, 准教授 (00820854)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2027年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2026年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 中性子星 / 内殻(インナークラスト) / 超流動 / バンド理論 / 時間依存密度汎関数法 / バンド計算 / 状態方程式 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は,中性子星内殻における核物質の結晶構造が中性子の有効質量に及ぼす影響を定量的に明らかにすることである.近年,中性子星内殻に存在する核物質の結晶構造に対するバンド理論計算により,ある密度領域において中性子の有効質量が裸の質量の10倍以上になり得ることが指摘された.このことは様々な中性子星の物理の解釈に影響を与えるため,物議を醸している.本研究では,課題代表者が先行研究で開発した時間依存密度汎関数法に基づく自己無撞着なバンド理論に超流動性を導入し,大規模並列計算コードを開発・応用することで,中性子星内殻におけるバンド構造効果を微視的な計算によって定量的に明らかにすることを目指す.
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研究実績の概要 |
中性子星の内殻(インナークラスト)と呼ばれる領域では,中性子過剰原子核のクーロン格子がドリップした超流動中性子の“海”の中に浸されたような状況にある.原子核のクーロン格子(結晶構造)とドリップした超流動中性子が共存するこの系は,固体中の電子が置かれた状況に類似している.物性物理学の分野では,固体の千差万別の物性を記述する理論として,「バンド理論」と呼ばれる方法が用いられている.バンド理論は,結晶構造のような周期ポテンシャル中の粒子の性質を量子力学的に記述する理論である.中性子星内殻も,原子核のクーロン格子とドリップした超流動中性子が共存しているため,バンド構造効果の解明が望まれる。 本研究は,中性子星内殻におけるバンド構造効果を完全自己無撞着で微視的な枠組みに基づいて明らかにすることを目指したものである.本研究の初年度には,我々が2022年に提案した時間依存密度汎関数法に基づく時間依存バンド理論に超流動性を取り入れる拡張に取り組んだ.我々は,中性子の超流動性を記述する準粒子波動関数に対し,結晶構造の周期性を正しく取り入れる方法を確立させ,スラブ状(1次元的)核物質に適用した.その結果,バンド構造効果によって中性子の有効質量が減少する「反エントレインメント効果」が生じ,また,超流動性はその効果を数%強めることが明らかになった.この結果は,自己無撞着でない他のモデル計算の結果と異なる傾向を示す,興味深い成果である.この成果をまとめた論文を学術誌Physical Review C誌に投稿し,2024年5月8日付けでアクセプトされ,掲載が決定している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要欄に記載したように,我々は,時間依存密度汎関数法に基づく時間依存バンド理論を超流動性を取り入れるように拡張し,並列計算コード開発し,スラブ状核物質に適用することを実現させた.この点については,当初の計画通りで,順調に進展していると言える. また上記の成果に加え,我々は,既に理論的枠組みを「有限温度」・「有限磁場」に拡張することに成功している.この拡張により,ゼロ温度において超流動状態にあった中性子が,温度を上昇させていくと約1MeVの温度で常流動へと転移する過程,そして,スラブ状核物質の結晶構造が溶けて一様核物質となる過程,さらには,磁場を強くしていくことで次第に核物質にスピン偏極が生じていく過程等の様々な“相転移”現象を記述することが可能となった.このような相転移現象を,完全自己無撞着なバンド計算で記述したのは本研究が初めてである.それに加え,ニュートリノ・スラブ散乱断面積(あるいは“不透明度”)の分析コードも開発した.これらを合わせることにより,超新星爆発によって形成される“熱い”原始中性子星が,ニュートリノの放出によって冷却されていき,超流動・超伝導転移が起こり,クラストが形成される,といったような,中性子星の進化の過程を微視的な理論に基づいて理解することができるのではないかと期待している. このような計画以上の進展があったため,「(1)当初の計画以上に進展している」と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の次なる課題は,2次元(棒状)・3次元(球状)核物質の結晶構造を記述できる計算コードを開発することである.理論的枠組みとしては1次元系で用いたものと同じであり,2次元・3次元系への拡張も問題はない.また,計算コードの拡張自体も,すべきことは明確である.しかし問題となるのは,高次元に計算コードを拡張することによる計算コストの増大である.本研究では,GPUを用いた並列計算コードを開発し,この問題を克服することを目指している. 2024年度(第2年度)には,まず,現在までの進捗状況欄に記載した,有限温度・有限磁場の分析を1次元(スラブ状)核物質に対して行い,1次元系の分析を完了させたい.それと並行して,2次元系を記述するGPU並列計算コードの開発を進める. 2025年度(第3年度)には,前年度に引き続き2次元系の並列計算コードの開発に取り組み,計算コードの完成を目指す.そのコードを用いて2次元(棒状)核物質の分析を行い,結果を論文にまとめたい. 2026・2027年度(第4・5年度)には,並列計算コードを3次元系を扱えるように拡張する.2次元系で経験を積んでいると期待できるため,適切なアルゴリズムやチューニングを行って計算コードの高速化を図りながら,実装を進める.3次元(球状)核物質は原子核の体心立方格子に対応し,バンド構造の分析が多少複雑になることが予想されるが,物性物理・固体物理の分野での知見を調べ,活用することによって,分析を完了させる.これら一連の成果をまとめ上げることで,中性子星内殻の性質を,任意の温度・磁場のもとで,バンド構造効果を取り入れながら微視的に分析した結果を一つの「表」にまとめることができ,他の研究者が参照できる重要な成果となると期待している.
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