研究課題/領域番号 |
23K03424
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
藤田 智弘 早稲田大学, 高等研究所, 講師(任期付) (20815857)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2026年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 宇宙論 / 重力波 / インフレーション / 場の量子論 |
研究開始時の研究の概要 |
2016年に初観測されて以降、重力波に関わる物理学は著しい発展を見せている。透過力の高い重力波を用いれば熱いビックバンの前の極初期宇宙を探れると期待が寄せられている。今後10年以内に次世代の観測が開始し、原始重力波に対する感度が100倍良くなる予定である。本研究では重力波生成の理論的可能性を精査し、原始重力波観測で果たして何が分かるのかを追求する。特に、極初期宇宙には我々のまだ知らない未知の素粒子が存在したと考えられており、それらが放出した重力波を観測することで新しい物理学を探索できる可能性がある。未知粒子と重力波の性質の対応関係を明らかにし、将来観測でどこまで測定可能かを明らかにする。
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研究実績の概要 |
従来の光を用いた観測とは異なり、重力波を用いれば熱いビッグバンのさらに前の極初期宇宙を探査できる。今後10年以内に次世代の宇宙マイクロ波背景放射(CMB)偏光観測が開始し、原始重力波に対する感度が2桁向上する予定である。しかしながら「原始重力波観測によって何を明らかにすることができるのか?」は必ずしも詳らかになっていない。 近年の研究によって初期宇宙のインフレーション期において作られる原始重力波は、従来から知られていた真空ゆらぎ重力波だけでなく、当時の宇宙に存在したある種の物質場(粒子)から放出される物質由来重力波も含まれることが分かってきた。物質由来重力波にはその源となった物質の特性が内包されるので、それを観測することで物質の情報を引き出すことができる。したがって、どのような粒子がどのような性質の重力波を放出するのかを理論的に解明できれば、重力波観測から初期宇宙の構成物質を明らかにできる。 2023年度には、早稲田大学や京都大学の共同研究者とともに、本課題で中心的なテーマとなる有効場理論による解析の研究を開始した。これまでは個別のモデルを用いて現象論的研究を行ってきたが、本質的になぜ非可換ゲージ場(だけ?)が強い重力波放出を引き起こすのかは分かっていない。理論の対称性の破れのパターンに着目して有効場理論を構成すれば、何が重力波生成の根源かを見通しよく議論できると期待される。 他方、東北大の共同研究らと大きな重力波を放出するSU(2)ゲージ場のモデルにおいてインフレーション後の発展も考慮すると、暗黒物質の生成も自然と達成されることを指摘する論文を執筆した。このシナリオではベクトル場のコヒーレント振動が暗黒物質を説明する珍しいケースである。超軽量の暗黒物質が予言され、小型卓上実験や天文観測での検証が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インフレーション期に非可換ゲージ場が存在すると観測可能なほど強い重力波を放出することが知られている。ただし、それはあくまで個別のモデルの計算によって知られているだけで、本質的になぜそんなことが起きるのかは分かっていない。有効場理論を構成することで、何が重力波生成の根源かを解明するのが本課題の主目的の1つである。本年度は京都大学で行われた滞在型研究会"Gravity and Cosmology 2024"の機会を利用して、京都大学と早稲田大学間の共同研究を立ち上げることができた。その後、京都大学から早稲田に出張に来てもらい、対面での議論も行った。まだ初年度ということもあり具体的な成果を得るところまでは至っていないが、研究を進める方針も立っており、いいスタートを切れたと考えている。来年度以降には、徐々に成果を発表できるところまで研究を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
まずは有効場理論を構築する研究を進める。一度有効場理論を扱えるようになれば、何が重力波生成の根源かを見通しよく議論できるだけでなく、全く別種のモデルを作り出す、あるいは個々のモデルに依存しない一般論を展開するなど、様々な理論研究が可能になると期待される。その後に、観測可能性のForecastなど、より次世代実験を見据えた現実的な研究に進んでいきたい。 一方、世界の研究状況に目をやると現象論レベルでも様々な研究が進行している。反作用を取り入れることでSU(2)モデルに新しいアトラクター解を発見したという報告や、可換U(1)モデルではあるものの格子シミュレーションを用いて非線形の解析を行い新しい観測的兆候を見つけたという論文などが注目を集めている。私自身も別の文脈でインフレーション中でも強いゲージ場が存在するとSchwinger効果で荷電粒子が大量に作られ、ゲージ場の発展が大きく変わることを指摘した。そのような新しい要素を取り入れた研究の可能性も考えながら、重力波研究を進めていきたい。
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