研究課題
基盤研究(C)
宇宙線反粒子測定器GAPSは、太陽系外から飛来する反粒子の検出による暗黒物質の間接探索を主目的としている。反粒子が物質中で形成するエキゾチック原子の崩壊過程を捉えることで、反粒子の同定を行う。この測定では、入射した反粒子自身とその捕獲後に生じる特性X線を同時に検出することが重要となる。本研究では、宇宙線ミューオンや放射線源を利用し、荷電粒子と付随して生じる特性X線の同時測定によるGAPS測定器の較正および反粒子同定手法の研究を行う。本研究によりGAPSの高感度化を図り、南極での気球実験によって、これまでに例のない宇宙線反重陽子の検出を試みる。
宇宙線反粒子測定器GAPSのフライトモデル組み上げ中の試験として、熱制御システムのテストおよび測定器による宇宙線ミューオン測定を行った。測定器の中核をなすシリコン検出器アレイはリーク電流の低減によるエネルギー分解能の確保のため冷却の必要があり、地上用冷却システムを用いたフライトモデル熱制御システムの長期間の運用試験を実施した。遠隔でのモニタリングシステムを導入し、熱制御システムおよび地上用冷却システムを常時稼働させて、24時間体制での監視のもとシリコン検出器アレイの長期的な冷却を行った。観測フライト時に予定する-40℃程度の温度まで冷却を行い、シリコン検出器アレイの温度応答を評価するためのデータを取得した。また、熱制御システムに用いるサーモサイフォン方式ヒートパイプの挙動を理解するための予備試験を行い、熱負荷を変えた場合の冷媒流体の流速の測定を行った。加えて、フライトモデルの断熱に用いるポリスチレンフォームの熱伝導率を気球高度と同等の真空条件で測定し、設置する断熱材の必要量を評価するためのデータを得た。また、GAPS測定器を構成するTime-of-Flightシンチレーションカウンタおよびシリコン検出器アレイによる宇宙線ミューオンの測定により、ミューオンの飛跡データを取得した。このデータを解析し、飛跡ミューオンとSi原子核の形成するエキゾチック原子崩壊から生じるX線を検出することで、X線に対する検出効率を評価する予定である。
2: おおむね順調に進展している
GAPS測定器のフライトモデル組み立て中の試験において、長期的な熱制御システムの稼働およびシリコン検出器の冷却を試すことができ、シリコン検出器アレイ全体の温度応答を評価するための基礎データが得られた。熱制御システムに用いるヒートパイプの特性評価として、冷媒圧力や熱負荷による冷媒流量や熱輸送能力の変化を測定した。また、シリコン検出器アレイの冷却を行いながら、宇宙線ミューオンの測定を行い、検出器の較正に必要なデータを取得した。
次年度は気球設備とのかみ合わせ試験の実施後、再度長期的な宇宙線ミューオン測定が行われる予定である。この測定データにより、検出器各素子のエネルギー較正を行うとともに、測定器のアライメント較正およびミューオンにより形成されるエキゾチック原子崩壊過程を利用したX線検出効率等を行う。較正用データならびにGEANT4モンテカルロシミュレーションを用いて測定器応答を評価し、粒子識別のための解析手法の改良を進める。また、その後測定器フライトモデルを南極に輸送する予定であり、年度後半には高高度気球による初回観測フライトを実施するスケジュールとなっている。フライトで得られた観測データの初期解析を行い、sub-GeV領域の反重陽子の検出を試みる。
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Journal of Evolving Space Activities
巻: 1 号: 0 ページ: n/a
10.57350/jesa.9