研究課題
基盤研究(C)
本研究では古くからよく知られるガンマ線の電磁的多重度測定法を、統計の限られる不安定原子核にも広く適用可能な、高効率かつ高感度な核分光手法へ進化させることを目的とする。この技術的ブレイクスルーを実現する鍵となりうるのが、宇宙観測用検出器として開発された多層半導体コンプトンカメラである。ピクセル化による高い位置分解能によって、検出器をガンマ線放出源至近に設置しつつ散乱角の角度分解能を維持し、検出効率と感度を両立することができるからである。本手法を確立することによって、幅広い原子核を対象にスピン・パリティの確定を伴う次世代の核分光研究が開拓される。
統計の限られる不安定原子核にも広く適用することが可能な、高効率かつ高感度な核分光手法の開発を目指している。この手法の鍵となるのが、宇宙観測分野で長年開発されてきたテルル化カドミウム(CdTe)半導体イメージングセンサー技術である。CdTeは原子核が放出するガンマ線の典型的なエネルギー帯域に対し高い検出効率を示し、かつピクセル型のイメージングセンサーによって数mmの位置決定精度が実現できるためである。このセンサーを用いた多層半導体コンプトンカメラは、高感度・高効率な核ガンマ線の直線偏光測定が実現できる。核ガンマ線の直線偏光測定の実証のため、理化学研究所のペレトロン加速機施設での加速器実験を実施し、鉄56の第一励起状態を生成し、多層半導体コンプトンカメラでの測定を行なった。その結果、放出される核ガンマ線のコンプトン散乱の詳細な方位角分布の取得に成功し、偏光が決定できることを実証した。本測定で得られたデータをもとに偏光計としての感度を評価した結果、その感度が非常に高く、かつ核ガンマ線の直線偏光計として実用可能な検出効率を兼ね備えていることがわかった。この結果は、生成される量が限定的な希少な不安定核から放出されるガンマ線の偏光にも本手法が適用できることを強く支持するものである。本測定で得られた結果は投稿論文として出版し、プレス発表を行なった*1。*1 : 最先端宇宙観測技術で視る原子核の姿 -原子核からの「偏光」を捉える高感度カメラ-
2: おおむね順調に進展している
2023年度は、多層半導体CdTeコンプトンカメラを用いた直線偏光測定実証実験で得られたデータを解析し、鉄56原子核の第一励起状態から放出される核ガンマ線のコンプトン散乱の方位角分布を取得することに成功した。ガンマ線偏光計としての感度を評価した結果、偏光を測定できる感度が非常に高く、かつ原子核分光実験に用いることができる高い検出効率を兼ね備えたものであることがわかった。生成量が限定的な不安定核の核分光実験にも本手法が適用可能であることを示している。また、シミュレーションデータを活用することによって、単一の検出器を用いるのみで核ガンマ線の直線偏光度も導出することが可能であることがわかった。得られた成果は投稿論文として発表し、理研・カブリIPMU・東京都市大・九大と合同でプレス発表を実施した。
2024年度は、昨年度開発した偏光測定手法をさらに発展させる予定である。具体的には、一定の寿命を持つ不安定核を対象とした核分光手法(逆運動学中でのインビームガンマ線分光、ベータ・ガンマ-ガンマ同時計測等)に、多層半導体コンプトンカメラを用いた偏光測定が活用できることを示す。2023年度の成果は本装置単独での偏光測定の実証であったが、原子核分光実験で用いられる他の検出器との相関解析を行い、本手法が適用できる範囲をより広くすることを目指す。また、安定な原子核を対象に直線偏光度の測定を計画している。核ガンマ線の直線偏光度はこれまで系統的な測定がほとんど実施されておらず、原子核反応と直線偏光度との関連を議論できる余地がある。理研でのペレトロン加速器施設を念頭に、系統的・効率的な偏光度測定が実施できるセットアップを構築し、加速器実験を実施する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Scientific Reports
巻: 14 号: 1 ページ: 2573-2573
10.1038/s41598-024-52692-2