研究課題/領域番号 |
23K03456
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分16010:天文学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松本 琢磨 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 特任助教 (50728326)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 太陽遷移層 / 太陽コロナ / 紫外線放射 / 非平衡電離 / 解適合格子 / 太陽風 / 数値シミュレーション / 極端紫外線 |
研究開始時の研究の概要 |
太陽コロナを加熱し太陽風を駆動する機構についてこれまで様々な理論が提唱されてきた。近年では大規模な数値モデルで再現した太陽大気を解析することで、理論の妥当性を評価する試みが始まってきた。しかしながら太陽大気の加熱機構を観測的に特定することは非常に困難である。そこで本研究では数値モデルを非平衡電離プラズマの物理と組み合わせた新しい加熱機構診断方法の開発を目的とする。具体的には、1)非平衡電離を考慮したシミュレーションコードを開発し、2)衝撃波や乱流で加熱された大気からの極端紫外線放射を推定する。本研究により、将来の極端紫外線観測からコロナ加熱機構に対する強い制限を課すことができると期待される。
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研究実績の概要 |
太陽の彩層とコロナの間には、厚さが約0.1Mm以下で、遷移層と呼ばれる極めて薄い層が存在する(コロナの圧力スケール長は約100Mm)。この層では、温度帯によっては、C IVやN V、O VIなど、LiやNaに似たイオンからの紫外線輝線が放射される。太陽コロナからの紫外線放射については、基本的には電離平衡を仮定した理論を使用して観測をよく再現できるが、遷移層からの輝線に関しては、数倍の過大または過小評価がなされることが知られている。 この知見を踏まえ、2023度は、彩層とコロナの間で起こる蒸発や凝縮過程に伴う電離平衡からの乖離に注目し、太陽大気のMHDシミュレーションと同時に、電離の時間発展(移流、電離、再結合)を解くシミュレーションコードを開発することを目標とした。初めに、非平衡電離の効果を導入した1次元のMHDシミュレーションを行った結果、蒸発に伴いLi-やNa-likeイオンの異常な増光が観察された(Matsumoto 2024, ApJ)。さらに、この計算から、非平衡電離の効果を正確に取り扱うには、大局的なコロナの動的現象(約100 kmスケール)と、遷移層での移流(約1km以下)を同時に解くことが必要であることが明らかになった。したがって、最初に想定していた単純な格子を用いた2D MHDシミュレーションでは、遷移層での非平衡電離を解くのが困難であると判断した。 そのため、解適合格子を使用して遷移層構造を空間的に分解する方針に転換し、研究を継続することにした。現在は、解適合格子上で1Dから3DまでのMHDシミュレーション、一様重力、grey近似輻射輸送、潜熱を考慮した状態方程式、Super Time Stepを用いたSpitzer熱伝導、電離の時間発展式を実装し、そのデバッグとテスト計算を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023度は、太陽遷移層からの異常な紫外線放射を解明する糸口として、非平衡電離を伴う1次元MHDシミュレーションコードの開発と数値実験を行い論文として発表した(Matsumoto 2024 ApJ)。この研究では、太陽光球で対流運動によって励起されるアルフベン波が太陽大気を100万度まで加熱しコロナを形成するという既存のシミュレーションモデル(Moriyasu & Shibata 2004) を採用した。このモデルに新たに非平衡電離を計算するモジュールを追加し、コロナの形成・崩壊に伴い、電離平衡からずれたイオンが放射する紫外線がどのように観測できるかを議論した。モデル中には長期的な蒸発・凝縮過程や、衝撃波と伴う短期的な温度・密度変動が含まれる。その結果、蒸発時には観測と整合的なLi-, Na-likeイオンからの電離平衡で予測されるよりも異常な増光がみられた。また、逆に凝縮時にはLi-, Na-likeイオンからの異常な減光がみられた。しかしながら、短期的な変動である衝撃波に伴う密度・温度変動では、短期的には電離平衡からのずれがみられるものの、時間平均すると平衡からのずれはほぼ消えてしまうことも判明した。これらのことから、Li-, Na-likeイオンの異常な増光・減光は彩層とコロナとの間の質量輸送に関連していることが示唆される。したがって本研究を進めることで、Li-, Na-likeイオンの紫外線観測から、質量輸送の情報が間接的に得られることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に行った1次元計算から、非平衡電離計算には非常に薄い遷移層を十分に空間分解して移流計算を解くことが必要であることが明らかになった。しかしながら、分解すべき最小空間スケールが0.1km程度以下であるのに対して、太陽コロナの構造は数万km程度となっている。したがって、当初想定していた単純な格子を用いた多次元 MHDシミュレーションでは、遷移層での非平衡電離を解くのは計算コストの観点から困難であることが判明した。 そのため本研究では、必要な個所に必要な空間分解能を動的に割り当てることが可能な解適合格子を使用して遷移層構造を空間的に分解する方針に転換した。過去の研究では1次元計算に対して解適合格子を適用し計算の実行速度を向上させる試みがなされてきたが、これを多次元に拡張した例は少ない。現在は、解適合格子上で1Dから3DまでのMHDシミュレーション、一様重力、grey近似輻射輸送、潜熱を考慮した状態方程式、Super Time Stepを用いたSpitzer熱伝導、電離の時間発展式を実装し、そのデバッグとテスト計算を進めている。 2024年度ではこのコードを用いて表面対流層からコロナ上空までを含めた2次元MHDシミュレーションを行い、遷移層を空間分解しつつ非平衡電離を解くことに挑戦したい。多次元化することで遷移層のうねりに伴う視線方向の重なりなどの効果によって、どれくらい紫外線強度が変化するのかを定量的に評価したい。また、2028年打ち上げ予定のSolar-Cの観測に向けて、紫外線放射synthesisの研究も進めていく予定である。
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