研究課題/領域番号 |
23K03468
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分16010:天文学関連
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
長倉 洋樹 国立天文台, 科学研究部, 特任助教 (00616667)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2027年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | ニュートリノ / 量子運動論 / 超新星爆発 / 連星中性子星合体 / マルチメッセンジャー天文学 / 数値シミュレーション / 理論宇宙物理学 |
研究開始時の研究の概要 |
超新星爆発や連星中性子星合体では、中心領域に高温・高密度状態が実現され、大変ユニークな現象を引き起こす。一方で、これらの天体現象を駆動している物理プロセスは非常に複雑であり、様々な理論的課題が残っている。本研究では、量子運動論的ニュートリノ輸送など、新たな物理要素を取り入れた大規模な数値シミュレーションを軸にこれらの課題に取り組み、マルチメッセンジャー天文学の発展に貢献する。
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研究実績の概要 |
本課題では、超新星爆発及び連星中性子星合体中のニュートリノの量子運動論に関する研究を進めている。特に近年では、ニュートリノ自己相互作用によって駆動されるニュートリノフレーバー変換(あるいはニュートリノ集団振動)が、これら天体現象の中心エンジン付近の至る所で発生する事がわかり、注目を集めている。 昨年度我々は、スパコン富岳を用いて、超新星爆発及び連星中性子星合体環境下での、量子運動論的ニュートリノ輻射輸送のグローバルシミュレーションを世界で初めて成功させた。超新星爆発中では、ニュートリノと物質が強く相互作用している領域でもニュートリノフレーバー変換が発生し、これによりニュートリノ冷却が促進される事がわかった。一方で、フレーバー変換の影響によって、ニュートリノ加熱領域では加熱効率が数十パーセントも下がる事がわかった。これらは超新星の爆発機構に直接影響を与えるため、超新星爆発のニュートリノ輸送は、量子運動論に基づいて決定するべき事を明らかにした。 連星中性子星合体中では、ニュートリノフレーバー変換の様子が、超新星爆発中とは定性的に異なる事を明らかにした。特に、ニュートリノのフレーバーが完全に入れ替わる、フレーバースワップと呼ばれる現象が、非常に狭い空間領域で発生する事がわかった。このフレーバースワップの発生機構についても詳細な解析を行い、降着円盤のような幾何学形状を持った系でのニュートリノ放射では、スワップが一般的に起こることを明らかにした。 また、ニュートリノと物質の反応と、ニュートリノの自己相互作用が、非線形的に結合し、ある特別な環境下では、レゾナンス的にニュートリにフレーバー変換を強め、さらにその非線形フェーズではフレーバースワップが起こる事を解析的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題で取り組んでいるニュートリノフレーバー変換や、量子運動論的ニュートリノ輻射輸送の研究は、近年世界的に急速に発展している。そのため、本課題申請時と比べて近年多くの新しい発見があり、同時に様々な新たな問題も報告されている。我々は、当初予定していた課題を進めると同時にこのような新たな課題にも取り組んでおり、これにより当初の予定よりも多くの実績を上げている。 実際、本課題と関連した研究において、昨年度中に既に約10本ほどの論文が査読誌に掲載されており、その中にはPhysical Review Lettersに掲載されているものも含まれている。特に、巨視的量子運動論的ニュートリノ輸送計算においては、宇宙物理、素粒子物理、計算科学業界全体に影響を与えており、高く評価されている。 また、昨年度に行った我々の研究成果をもとに、多くの国際的な共同研究が立ち上がり、現在進行中である。例えば、超新星爆発及び連星中性子星合体中でのニュートリノ振動の発生を、AIを用いて決定する手法をドイツのマックスプランクグループと共同で開発中である。その一部の結果は既に、査読付き論文(Physical Review D)に掲載されている。また、アメリカのグループと共に、幾つかの違った手法を用いて、量子運動論的ニュートリノ輻射輸送のサブグリッドモデルの開発も行っている。その最初の論文も、昨年度中に、査読付き論文に掲載されている。 以上で述べたことを総括して、計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度行った量子運動論的ニュートリノ輻射輸送計算において、幾つかの課題も残っており、本年度はこれらの課題に取り組む。具体的には、超新星爆発モデルにおいては、空間1次元(球対称)シミュレーションを昨年度行ったが、現実的にはこれを多次元に拡張させる必要がある。今年度我々は、富岳の一般課題として1000万ノード時間の資源を確保しており、この資源を用いて多次元の量子運動論的ニュートリノ輻射輸送シミュレーションを実行する予定である。これにより、より精度が高くかつ定量的に、ニュートリノフレーバー変換の超新星爆発への影響を明らかにしたい。 また、昨年度我々は、ニュートリノフレーバー変換のサブグリッドモデルを開発し、従来のボルツマン方程式に基づいた輻射輸送シミュレーションに、ニュートリノフレーバー変換の影響を近似的に取り扱う方法を開発した。しかしこの方法は、超新星爆発中で発生するフレーバー変換の特徴はよく再現できる一方で、連星中性子星合体環境下で発生するフレーバースワップ現象を扱うことはできていない。これを成功するには、フレーバースワップが起こる条件に関して、さらに詳細な解析が必要であり、今年度は本課題に取り組む予定である。
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