研究課題/領域番号 |
23K03486
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分17020:大気水圏科学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
上野 洋路 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (90421875)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 海洋中規模渦 / 海洋基礎生産 / 北太平洋亜寒帯海域 / 生物生産 |
研究開始時の研究の概要 |
世界でも有数の漁場である北太平洋亜寒帯海域の生物生産には、海洋中規模渦(直径数百km、大気の高気圧・低気圧に相当)が重要な役割を果たしている。しかし、その研究の多くは個々の狭い海域での議論に留まっており、海域全体にわたる定量的な議論はなされていない。本研究では、渦追跡と衛星生物生産データを組み合わせた新たな解析手法により、どの海域で形成された海洋中規模渦がどの程度生物生産に影響を与えるのかを定量的に明らかにする。これらの解析を通じて、気候変動に伴う渦形成数・海域の変化が生物生産に与える影響を見いだし、北太平洋亜寒帯海域の豊かな生態系の維持変動機構の解明に貢献する。
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研究実績の概要 |
海洋中規模渦は直径数十から数百キロメートル規模の現象であり、北半球において高気圧性渦は時計回り、低気圧性渦は反時計回りに回転する。この中規模渦は生物生産および魚類の分布に様々な形で影響を与えることが知られている。例えば、高気圧性渦内部で等密度面が深くなることで、下層からの栄養塩が有光層に供給されにくくなり植物プランクトンの生産力は低く抑えられ、高気圧性渦中心部の植物プランクトン濃度は低くなることが指摘されている。2023年度においては、日本東方海域で海洋中規模渦が魚類分布におよぼす物理、化学、生物的影響を明らかにすることを目的として研究を実施した。 本研究では、2019年6月に北海道大学水産学部附属練習船おしょろ丸により本州東方海域において取得した高解像度水温塩分データおよび計量魚群探知機による体積後方散乱強度データを解析した。また、魚類とプランクトンの判別を行うために、2019年9月に実施した計量魚群探知機・曳網同時調査データも使用した。 データ解析の結果、表層および中層において等温線に沿った強い音響反応が存在することが明らかになった。その特徴から、高気圧性渦内では観測海域に生息する魚類の深度が深くなっていたことが示された。また、中深層において高気圧性渦内部で平均した体積後方散乱強度は、渦外部における強度よりも高い値であることが示され、渦内部では魚類の密度が高かった可能性が考えられた。渦内部で魚類が分布していた水温は渦外部と比べて高く、魚類にとって好適であったことが、渦内部での魚類密度が高かった要因と推測される。 衛星データを用いた、北太平洋亜寒帯海域における海洋中規模渦の生物生産への影響の解析に関しては、カムチャツカ半島南東沖海域において検討を行った。その結果、季節、海域によって渦の生物生産の影響が異なることなどが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度には、北海道大学水産学部附属練習船おしょろ丸により本州東方海域において2019年6月に取得した高解像度水温塩分データおよび計量魚群探知機による体積後方散乱強度データ解析を中心に研究を実施した。その結果、表層および中層において等温線に沿った強い音響反応が存在することが明らかになった。その特徴から、高気圧性渦内では観測海域に生息する魚類の深度が深くなっていたことが示された。また、中深層において高気圧性渦内部で平均した体積後方散乱強度は、渦外部における強度よりも高い値であることが示され、渦内部では魚類の密度が高かった可能性が考えられた。渦内部で魚類が分布していた水温は渦外部と比べて高く、魚類にとって好適であったことが、渦内部での魚類密度が高かった要因と推測される。以上の成果は、学術誌に投稿中である。 衛星データを用いた、北太平洋亜寒帯海域における海洋中規模渦の生物生産への影響のデータ解析に関しては、カムチャツカ半島南東沖海域において検討を行った。具体的には、春季、夏季、秋季において高気圧性渦内、低気圧性渦内の海面クロロフィルa濃度(植物プランクトン濃度)が渦外と比べてどの程度高い/低いのかを定量的に検討した。その結果、カムチャツカ半島南東沖海域では、沿岸に近い海域では海洋中規模渦によって海面クロロフィルa濃度が増加/減少する傾向が大きいのに対し、外洋域では、海洋中規模渦の海面クロロフィルa濃度への影響は極めて小さいものであること、さらに影響の程度は季節によって大きく異なることなどが示された。これらの結果に関してはまだ予備的なものであるため、今後、海域を広げると共に、統計的な観点でもより詳細な検討を行う計画である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、解析海域を本研究の当初の対象である北太平洋亜寒帯に拡大し、海洋中規模渦の生物生産への影響が海域によってどの程度異なるのか、影響の季節経年変動に海域による差異はあるのかなどを定量的に明らかにすることを目的に、公開されている約25年間の渦追跡データセット、衛星植物プランクトン濃度データ・基礎生産データ等を用いて解析を実施し、渦が生物生産に与える影響を評価する。具体的には、海洋中規模渦が存在する時期・場所において、その場、その時期に渦が生物生産に与える影響を検討する計画である。 上記のデータ解析の実施と並行して、渦形成域に着目した海洋中規模渦の生物生産への影響に関して、定量化手法の具体化の検討と予備解析を実施する計画である。渦形成域に着目した研究としては、Ueno et al. (2023)において、eddy yield(渦生産量)という考え方が提唱されている。Eddy yieldは、北太平洋に存在する渦に対する各渦形成域の相対的な貢献度を数値化したもので、具体的には各渦形成域で形成された渦の寿命を合計したものとして計算される。このeddy yieldにより、北太平洋に存在する渦の形成域として重要な海域を定量的に示すことに初めて成功した。本研究では、今後、渦として存在するだけでなく、生物生産に与える影響も考慮した「eddy yield」の具体的な推定方法を検討・決定し、まずは予備解析を実施する計画である。
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