研究課題/領域番号 |
23K03544
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分17040:固体地球科学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小澤 一仁 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (90160853)
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研究分担者 |
栗谷 豪 北海道大学, 理学研究院, 教授 (80397900)
秋澤 紀克 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (40750013)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | リソスフェアーアセノスフェア境界 / マグマ発生条件 / アルカリ環状岩体 / エジプト東砂漠 / 顕生代 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、地球内部からの熱放出と物質輸送を地球史にわたって制御してきたリソスフェアとアセノスフェアの境界(LAB)領域の深さや状態の広域空間変化を数億年の時間スケールで過去に遡って解明することを目的とする。現在のLABの空間広域変化は地震波や熱流量観測などの地球物理学的手法によって理解が進んできている一方で、億年以上の時間スケールのLAB変動の理解は不十分であった。本研究では、数千kmにわたって6億年間マグマ活動が断続したアフリカ大陸北東部の3つのアルカリ環状複合岩体について、それらのマグマ活動の地質学・地球化学・岩石学的研究によってLABの長時間広域変動の解明をめざす。
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研究実績の概要 |
本研究は、地球内部からの熱放出と物質輸送を地球史にわたって制御してきたリソスフェアとアセノスフェアの境界(LAB)領域の深さや状態の広域空間時間変化を数億年の時間スケールで過去に遡って解明することを目的としている。現在のLABの広域変化は地震波や熱流量観測などの地球物理学的手法によって理解が進んできている一方で、億年以上の時間スケールのLAB変動の理解は不十分である。本研究では、数千kmにわたって6億年間マグマ活動が断続したアフリカ大陸北東部のアルカリ環状複合岩体を対象と、マグマ活動の地質学・地球化学・岩石学的研究によってLABの長時間広域変動の解明をめざす。本年度は、エジプト東砂漠のアルカリ環状複合岩体の中で最も北部に位置するWadi Dib環状岩体(WDRC)を対象として、地質学・地球化学・岩石学的情報を収集するために地質調査、サンプル採集、化学分析、および微細組織解析を行い、環状岩体の親マグマをもたらした初生マグマのマントルでの溶融深度、温度、ソースマントル組成を定量的に推定するために必要な初生マグマの主成分、微量元素、同位体組成を特定するために避ける事のできない、親マグマの地殻内改変過程の解明を行った。WDRCの野外調査、サンプル採集、採集した岩石の粉砕、薄片作製・観察をエジプト人共同研究者のEman Saad Hassanが行った。さらに岩石の微細組織の計測・定量化、主要鉱物の化学組成の測定、微量元素組成とSr, Nd, Pb同位体組成分析を研究代表者と分担者が行った。地質・岩石学情報と主成分組成に基づいて、WDRC直下に存在していた地殻内マグマ溜まりでは、地表に噴出した火山岩と天井部を構成していた母岩の大規模崩壊に駆動されて生じたマグマ溜まりの壁面に沿った分化メルトの移動を伴った境界層分化によって岩体内の化学的多様性が形成されたことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Wadi Dib 環状岩体(WDRC)の地質調査、岩石採集、薄片作製・観察、化学分析用粉末作成については、エジプト人共同研究者であるEman Saad Hassanが実施し、本研究で必要となっている基礎的な地質学・岩石学的情報を得ることができた。薄片観察によって全体的な岩相の多様性を把握した上で、代表的なサンプルを抽出し、それらの全岩の主成分および微量元素分析とSr, Nd, Pb同位体分析を実施し、基礎的な地球化学的情報を得ることができた。こうして得られたデータに基づいて地殻内プロセスの解明をすすめた。まず結晶分化のおける化学成分保存則に基づいて主成分元素組成の全体的な変化を段階的結晶分化モデルによって再現することを試みた。その結果とWDRC各岩相の分布面積比を比較した結果、主成分元素組成の全体的な変化がマグマ溜まりへの親マグマの再注入を必要としない結晶分化モデルによって説明出来ることがわかった。主成分元素で推定される結晶化の鉱物量比(結晶化反応の化学量論関係)に基づいて微量元素に対して成分保存則を適用し、主成分との整合性を検討したところ、SiO2含有量が低いグループの微量元素濃度変化は結晶分化作用によって説明できるが、SiO2含有量が高いグループについては、単純な結晶分化作用では説明できないことがわかった。さらに、分配係数が良くわかっている希土類元素間の比を詳細に検討してところ、SiO2含有量の異なる二つのグループ共に単純な結晶分化作用では説明できないことがわかった。以上の問題を解決するためには、地殻内マグマ溜まりでのより高度な分化機構(境界層分化など)と開放的なマグマ進化(周囲の岩石の同化など)を検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
Wadi Dib 環状岩体(WDRC)を構成する主要岩相のうち、主成分元素変化を段階的結晶分化モデルでは説明できないSiO2の多いグループはもとより、主成分組成の変化は説明できるが、微量元素組成変化は説明できないSiO2の少ないグループについても、開放的マグマ過程やより高度の結晶分化機構の模索が必要であることがこれまでの研究でわかったため、その原因を解明する方向で今後の研究をすすめる。Rb-Sr, Sm-Nd, U-Pb, Th-Pb放射壊変系のアイソクロンプロットは、マグマ活動後に閉鎖系が保たれていると放射壊変によってRb, Nd, Pbの同位体比とRb/Sr, Sm/Nd, U/Pb, Th/Pbが直線関係となり、閉鎖期間(年代)が決まる。WDRCではそれがほぼ成立しており、条件が満たされていることがわかる。しかしより詳しく検討すると、いくつかのデータが直線関係からある程度ずれている。そのため、サンプル毎に同位体比初期値を決定し、それらとアイソクロンによって決まる同位体比初期値との関係や個々のデータの初期値の関係を解析することで、マグマ溜まりの開放性の程度を見積もることができる。その評価に基づいて、同化作用が関係しているサンプルを篩にかけて排除した上で、年代推定を行い、初生マグマの当時の同位体比、すなわちソースマントルの性質を記録している初期値の推定を行い、再びアイソクロンプロットからのずれを評価して開放性を評価する。その後再度、閉鎖系の条件を満たすサンプルを選択して同じ検討過程を繰り返す事でより高精度の初期値推定を行うことが可能となる。開放性の評価ができたらその結果に基づいて、これまでの地質学・岩石学情報・主成分化学組成の解析によって明らかとなった境界層分化機構によって、よりSiO2の少ないグループの組成変化を説明できないか検討する。
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