研究課題/領域番号 |
23K03623
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分18020:加工学および生産工学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大家 哲朗 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (10410846)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 塑性加工CAE / 成形限界予測 / 応力増分方向依存性 / 有限要素多結晶モデル / 数値材料試験 / ものづくりDX / CAE / 塑性加工 / プロセスチェイン / 結晶塑性モデル |
研究開始時の研究の概要 |
塑性加工におけるプロセスチェインとは,圧延や熱処理等の材料製造過程,材料試験,塑性加工,成形性評価という独立した各工程をひとつながりの大きなプロセスとする考え方である.本研究では,結晶塑性モデルに基づく材料特性トレーサーを構築し,それを用いて申請者がこれまでに研究してきた数値材料試験および成形限界予測手法と統合化する.これによって,材料設計から成形性評価までを単一のシステム内で検討することができるようになる可能性が拓け,次世代の塑性加工CAE構築のための基盤技術として期待できる.
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研究実績の概要 |
本研究課題では,塑性加工プロセスチェインのデジタル化を行い,材料組織から成形性評価までを単一のシステム内で検討できるような次世代の塑性加工CAEの基盤技術に関する研究に取り組んでいる。以下に計画初年度において特に進展のあった2項目についての研究実績の概要を説明する。 (1) 成形解析と結晶塑性モデル(有限要素多結晶モデル)の連成によるマルチスケール材料モデル構築: 申請者らは,塑性加工中の被加工材の成形限界予測に取り組んでおり,顕著な進展が見られた。FEM解析ソルバーに申請者らが提案する応力増分方向依存塑性構成式を導入し,引張試験解析で基礎検討を行った後,角筒カップ深絞り加工解析を行った。特に,KC値と呼ばれる塑性変形における応力増分方向依存性を表すパラメータの影響に着目し,数値的に検討したところ,KC値が小さいと法線則モデルに近づくため局所くびれが発生しにくく,逆にKC値が大きいと局所くびれが発生しやすくなり成形性が悪化することが確認できた。このような実用的な成形解析においてモデルの妥当性が確認された。また,申請者のグループで用いているマルチスケール結晶塑性モデルである有限要素多結晶モデルの適用範囲拡大にも取り組み,BCC材料への適用性を改善した。 (2) 材料特性推定のための数値材料試験法の構築: 結晶塑性モデルを用いた数値材料試験法に関しては,FCC材料における方法論は検討済みだったので,HCP材料に対応できるようにモデルとプログラムを拡張した。遺伝的アルゴリズムに基づくパラメータ決定法を構築し,文献値による検証を行ったところ,提案手法の有効性が確認できたので,その成果の取りまとめを行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 成形解析と結晶塑性モデル(有限要素多結晶モデル)の連成によるマルチスケール材料モデル構築: 計画初年度より,巨視的解析と微視的解析を橋渡しを実現するための鍵となる技術の一つとして,局所くびれを対象とした検討に着手している.局所くびれは材料の塑性変形終盤に現れる現象で成形性に関連するために,巨視的モデルと微視的モデルを比較してそれらの妥当性を検討するためのターゲットとしてふさわしい。ひずみ速度依存型構成則に基づく結晶塑性解析による局所変形解析は従来から多く行われているが,申請者らはより物理的に正確な逐次累積法に基づく結晶塑性プログラムによって局所変形解析を試みた。局所くびれの発生タイミングやくびれ帯角度などが再現できれば,実験結果との整合によって様々な微視的パラメータの推定などが可能になる。初年度は,その検討のための出発点として,プログラムの境界条件を周期境界型から自由表面型に変更し,様々な要素数の場合について変形解析を実施した。局所くびれを出現させることができたものの,モデルおよびプログラムの要改善点(次項で説明)も見つかった。 (2) 材料特性推定のための数値材料試験法の構築: 今年度は結晶塑性プログラムをBCC材料に適用させ,数値材料試験法へ導入することを試みた。BCC金属の変形挙動を再現するために,non-Schmid型の構成則を逐次累積法に適用した。また,転位密度発展モデルも導入し,より加工硬化則を柔軟に表現できるようにした。未知パラメータを遺伝的アルゴリズムで推定できるようにし,文検値(引張試験によるSSカーブ)による比較を行った。既知データによる最適化結果の検証を行ったところ,概ね妥当な結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の取り組みによっていくつかの問題が明らかになったので,今年度はそれらの解決を目指す。 (1) 成形解析と結晶塑性モデル(有限要素多結晶モデル)の連成によるマルチスケール材料モデル構築:物理的により正確な構成則を用いた結晶塑性解析にはメリットもあるが,計算時間の点では不利であり,それが計画初年度に実施した変形解析では顕著となった。局所くびれは極めて狭い領域への変形の集中であるので,十分な数の有限要素が寸法に対して必要であるが,短期間の数値検討ではそれが困難だった。今年度は,計算アルゴリズムの工夫やマルチコア化またはGPUコンピューティングの適用などによって,この問題が解決できるか検討する。解決できれば,要素数を十分に確保した変形解析を実施する。また,転位密度モデル中の材料パラメータについても決定手法に関する検討を継続する。 (2) 材料特性推定のための数値材料試験法の構築:BCC材料を表現するためのnon-Schmidパラメータの決定方法の検討を継続する予定である。 (3) 実験装置の開発と検証:応力増分方向依存性パラメータなどの材料特性を決定するためには,かなり大きな塑性ひずみ域までの応力ひずみ曲線が必要であるので,そのための実験システムとして,大ひずみ域応力ひずみ曲線を取得するためのせん断試験装置を作製する。また,変形量計測のためのデジタル画像相関法(DIC)に基づく計測システムを構築する。ひずみ分布を機械学習に適用することで,高精度な材料特性取得を目指す。鋼材やアルミニウム合金材などで実験的検証を行う予定である。
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