研究課題/領域番号 |
23K03642
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分18040:機械要素およびトライボロジー関連
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
竹市 嘉紀 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40293758)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 高温潤滑 / モリブデン酸銀 / 還元反応 / 力学的エネルギー / 金属銀生成 / 固体潤滑 / 高温 / 低摩擦 / 化学反応 |
研究開始時の研究の概要 |
モリブデン酸銀を固体潤滑剤として用いて室温から高温までの広い温度域での摩擦試験を実施し,摩擦係数,摩耗量を計測することで各温度域での潤滑性能を調査する.試験後の摩擦痕には高温摩擦中に化学反応により生成された様々な物質が残存する.それらの元素分析,定量分析,結晶構造解析などにより,生成された物質を特定するとともに化学反応を明らかにし,固体潤滑剤がどのように摩擦低減に寄与したのかを解明する.
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研究実績の概要 |
本研究は高温雰囲気で擦れあう摩擦部品に対して,摩擦抵抗ならびに部品の摩耗量を低減するための優れた固体潤滑剤を得るために,その潤滑機構を解明することを目的としている.我々の先行研究で,モリブデン酸銅をステンレス鋼同士の摩擦界面に供給し,500~700℃の高温環境下で優れた潤滑性を示すことを見いだし,この潤滑機構の一つとして,還元反応による軟質金属の生成が寄与することを明らかにした.2023年度において,他の各種モリブデン酸塩を用いた摩擦試験では必ずしも良好な潤滑を示さず,モリブデン酸銀のみが良好な潤滑特性を示し,かつ,モリブデン酸銅よりも有効温度域が広いことを明らかにし,モリブデン酸銀の高温固体潤滑剤としての優位性を確認した.この原因を解明していくことが本研究の大きな目的であり,先ずは力学的影響による軟質金属の生成に着目した.モリブデン酸銀粉末のみとモリブデン酸銀と純鉄の混合粉末を500℃で加熱したものをXRD分析したところ,いずれの雰囲気においても,モリブデン酸銀粉末のみでは軟質金属である銀の生成は認められないものの,混合粉末では銀の生成が確認され,鉄との還元反応が生じていることが確認できた.また,これを200℃で加熱した場合には混合粉末でも銀の生成が見られず,200℃では還元反応による銀の生成が生じないことが分かった.これに対し,アルミナディスク間にモリブデン酸銀を塗布し,200℃で摩擦試験を行ったところ,摩擦面から銀の生成が確認された.以上の結果より,モリブデン酸銀においても鉄との還元反応によって500℃程度の高温雰囲気では銀が生成されるが,外力の付加がある場合にはさらに低い200℃程度でも銀が生成されることが明らかとなり,軟質金属の生成に温度だけでなく外力が影響していることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モリブデン酸銀と鉄との高温環境下での還元反応を見いだし,モリブデン酸銅と同等の潤滑機構がモリブデン酸銀でも発現している可能性が明らかとなった.さらに,本テーマで明らかにしたいと考えていた最初の設問である「なぜ,モリブデン酸銀ではモリブデン酸銅よりも低い温度でも低摩擦を示すのか?」という問いに対し,大きな進展が得られた.すなわち,セラミック機材間での摩擦試験によって軟質金属である金属銀の生成が確認でき,モリブデン酸銀の場合には比較的低い高温環境(200℃程度)において,外力のアシストによって金属銀が生成されるということを見いだし,従前の還元反応のみではなく,力学的エネルギーの付与によって比較的低めの温度域から潤滑性を示すというメカニズムを示唆することができた.2024年に開催される日本トライボロジー学会主催の「トライボロジー会議 2024 秋 名護」においては本研究テーマに関わる成果を講演予定であり,そこでの質疑内容を今後の研究方針に積極的に取り入れていく予定である.一方,まとまった研究成果の収得が年度末に近い時期までかかったこともあり,2023年度内に本研究テーマの成果の対外発表ができなかったという問題があった.
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今後の研究の推進方策 |
力学的エネルギーの付与によって比較的低めの高温域においてモリブデン酸銀から銀が生成されたという結果は,高温環境下での摩擦界面における軟質金属生成メカニズムを示唆している.一方,この実験が室温ではなされておらず,果たして力学的エネルギーのみで銀の生成が発現するのかを確認できていない.2024年度はこの点を先ずは明らかにしたい.一方,従前より高温固体潤滑剤の潤滑機構として認識されている,材料自体の軟化によるせん断力低下というメカニズムについては,当然,発現していると推察できる.我々が提唱している機構が摩擦面で発現していること自体は実験結果から間違いないが,その寄与度について従前のメカニズムとの比較ができておらず,これを検証するための実験スキームの構築が必要になってきていると考えている. 一方,本テーマにおいて機構の解明を期待しているもう一つの観点が,高温度域におけるモリブデン酸銀の反応機構とその潤滑への影響である.これについては2023年度はほとんど手を付けることができていないため,2024年度に精力的に取り組みたい内容である.2023年度は実験をアシストしてくれるスタッフの途中離脱が起きてしまい,体制の立て直しに苦労した.なんとか新規メンバーを補充でき,実験スキルを身につけてきているため,2024年度は実験面での巻き返しに努めたい.
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