研究課題/領域番号 |
23K03677
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分19010:流体工学関連
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
矢野 大志 神奈川大学, 工学部, 助教 (50768679)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 深層学習 / 畳み込みニューラルネットワーク / 自己教師あり学習 / 粒子追跡流速測定法(PTV) / マランゴニ対流 / 薄液膜 / 紫外線励起蛍光粒子 / PTV / 気液自由界面 / トレーサ粒子 |
研究開始時の研究の概要 |
粒子追跡流速測定法(Particle Tracking Velocimetry,PTV)と深層学習を融合した高空間分解能で高精度な流れ場の計測手法を開発し,マランゴニ効果によって誘起される複雑な流動構造を解明・制御することを目的とする.液体の表面張力の大きさは温度に依存するため,液体表面上に温度勾配を印加すると,表面張力差によってマランゴニ対流が誘起される.本研究では,その複雑な流動構造を明らかにするため,新たに深層学習を用いたPTVを開発する.流動構造を理解することによって,マランゴニ効果をより効果的に利用することができるようになり,界面科学やマイクロ流体分野に貢献できると期待している.
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研究実績の概要 |
本課題の目的は大きく分けて二つあり,一つは深層学習を用いた粒子追跡流速測定法(Particle Tracking Velocimetry:PTV)の開発と,もう一つは表面張力差によって駆動される流れ(マランゴニ対流)の測定と制御である.令和5年度は主として前者に取り組み,以下の研究成果が得られた. 本研究では,汎用の数値解析ソフトであるMATLAB(MathWorks社)を用いてPTVの解析プログラムを開発した.PTVにおけるトレーサ粒子の検出および追跡結果の正誤を分類するために深層学習を用いることを開発方針として,これを実現するための畳み込みニューラルネットワーク(Convolution Neural Network:CNN)を設計した.設計したCNNは複数の段階に分けて学習される.まず,人工的に作成した教師データでCNNを学習させる.次に,それらを用いてトレーサ粒子の検出・追跡結果の正誤を判定し,その判定結果のうち,確度の高いものを新しい教師データに加え,CNNを再学習させる.これを繰り返すことで,高性能なCNNを得ることができた.本研究で開発したPTVの性能を,人工粒子画像を用いて評価したところ,粒子数密度が高い画像に対しても良好にトレーサ粒子を検出・追跡できるという結果が得られた. PTVの開発に加えて,令和6年度の研究のために先行して薄液膜内のマランゴニ対流実験装置の制作を行った.この装置は,矩形の流路内にシリコーンオイルで液膜を形成し,水平方向の温度差を印加することでマランゴニ対流を誘起するものとなっている.透明なアクリル板越しに側方からシリコーンオイル内を観察できるようになっており,試験的なPTV計測も行った.装置にはいくつか改善すべき部分が残されており,また最適な実験条件が決まっていないものの,PTVに適した粒子画像が撮影できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和5年度の当初の研究計画として,(1)深層学習のためのCNNの設計および学習,(2)人工粒子画像を用いたPTVの性能評価,(3)既存の実験データの解析,を設定していた.本研究でもっとも重要な深層学習を用いたPTVの開発は順調であるものの,既存の実験データの解析にはまだ着手できていないため,進展としてはやや遅れている.詳細は以下のとおりである. (1)PTVによる流速測定は大まかに,①粒子画像の取得,②画像上のトレーサ粒子の検出およびその動きの追跡,③画像上の速度情報から実空間内の速度情報への変換,から成る.本研究では,まずハフ変換法で画像上のトレーサ粒子を検出し,それらの移動を二値化相関法で追跡する.その後,得られた検出・追跡結果の正誤を深層学習によって判定し,誤りと判断された結果を取り除くことでPTVの性能向上を目指した.深層学習に必要なネットワークの構築には既存のVGGNetを参考にし,粒子検出には128層,粒子追跡には238層から成るCNNを設計した.設計したCNNは人工的に作成した教師データで学習させた. (2)トレーサ粒子の位置や動きが既知な人工粒子画像を用意し,設計したCNNの性能を評価した.ノイズを含まない理想的な画像においては,比較的粒子数密度が高い画像に対しても精度のよい結果が得られ,本手法の有効性が示された.一方で,粒子画像にノイズがある場合には満足のいく結果は得られなかったが,この問題には自己教師あり学習で対応することで,最終的には実験画像と同程度のノイズを含む人工粒子画像に対しても,約98%以上の精度でトレーサ粒子を検出できるようになった.また,誤追跡によって生じたエラーも約90%低減できるという結果が得られた. (3)については,深層学習を用いたPTVの解析プログラムの開発が遅れてしまったため,まだ着手できていない.
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度の研究ではまず,前年度に着手できなかった既存データの解析を行う.それと並行して,当初の計画どおり,薄液膜内のマランゴニ対流実験を行い,開発したPTVを用いて流れを計測する.具体的には以下のとおりである. (1)過去に取得済みの実験データのうち,トレーサ粒子の数密度が高すぎて従来のPTVでは流れの計測が困難であったものについて,本研究で開発したPTVを用いて解析を行う.特に,トレーサ粒子が特定の軌道上に集まる粒子集合構造を有するマランゴニ対流や,非定常で複雑な挙動を示すマランゴニ対流の解析を重点的に行う. (2)薄液膜内のマランゴニ対流に関する実験装置は令和5年度中に制作済みであり,すでに従来のPTVによる計測も実施している.ただし,この装置はハードウェア面でいくつかの問題を抱えており,また,適した実験条件も調査中である.そのため,装置を改良し,適切な条件を見つけてから本格的な実験を行う.実験では特に気液界面近傍の流れに着目する.気液界面近傍のトレーサ粒子の可視化に従来のような可視光を用いてしまうと,ハレーションの影響によって粒子画像をうまく撮ることができない.そこで,本研究では紫外線を照射することによって発光する紫外線励起蛍光粒子をトレーサとして用いてPTVを行う.この手法がハレーション対策において有効であることは確認済みである. (3)深層学習がPTV以外の流速測定にも有効である可能性が,令和5年度の研究で示唆された.そこで,本研究で開発した手法をほかの流れ計測法にも活用する.具体的には,表面流速の測定によく使用されるフォトクロミック法に深層学習を使用する.フォトクロミック法でマランゴニ対流の表面流速を測定した実験データはすでに所有しており,これらに本研究の手法を適用することで,データの解析効率や測定精度を向上させることができると期待している.
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