研究課題/領域番号 |
23K03701
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分19020:熱工学関連
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
森 嘉久 岡山理科大学, 理学部, 教授 (00258211)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 高圧合成 / 熱電材料 / シリサイド / 高圧 / 熱電素子 / SPS |
研究開始時の研究の概要 |
2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルが日本政府として宣言され,その脱炭素の重点対策であるゼロカーボン・ドライブに対しては,日本経済の基幹産業である自動車製造業界としても,喫緊の課題として研究開発を行っている. 本研究課題では,車載用の熱電材料の候補となりうるシリサイド系熱電材料に注目し,その材料による高い熱電性能を有する熱電モジュール開発を目指すもので,そのために残された課題克服に向けた研究を遂行していく. 特に,高圧技術と新しい焼結技術であるSPS装置を組み合わせた新しい合成装置を開発することで,新しい機能性を有した熱電材料の開発を目指すものである.
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、脱炭素の重点対策であるゼロカーボン・ドライブに対し、本邦の基幹産業である自動車業界が喫緊の課題として研究開発を行っている熱エネルギーの回収技術に貢献することが期待される、中温領域で熱電性能が優れ、軽量で毒性がなく、ユビキタス材料からなるシリサイド系Mg2Si熱電材料を車載用モジュールとして開発することである。 これまで、高圧合成技術により良質なMg2Si熱電材料の合成を進めてきた。車載用熱電モジュール開発には量産化のプロセスが不可欠であるが、高圧合成は最も苦手とするところである。そこで、本研究課題ではSPS装置との組み合わせによってその課題克服を目指し、装置の構造上ピストンシリンダ装置に類似しているため非常に相性が良い。 SPS焼結する際、温度変化時における圧力印加のタイミングやその圧力値の依存性を調べながら、最適な合成条件を求めることができた。それによって、回収した試料単体としての熱電性能測定や、それを複数個並べて作成するモジュールとしての熱電性能を調べた。また、解決すべき課題の一つとしてモジュール化した時の電極による接触抵抗も問題であるが、熱電素子と電極との一体合成によって改善されることも明らかとなった。 一方、通常のSPS焼結ではグラファイト製のダイとパンチを使用するため、圧力限界がある。これまでの高圧合成の知見を活かすために開発した超硬製アンビルとシリンダによるドリッカマーセルを汎用のSPS装置と組み合わせることで、より高い圧力領域でのSPS合成が可能となった。実際に、出発原料としてMgとSiの混合粉末を試料セル内に仕込み、SPS装置によって合成した結果、その合成の圧力・温度条件によって回収物の合成状態が異なることが明らかとなり、超高圧SPS装置として十分機能していることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究目的は、高圧合成とSPS装置の組み合わせによる量産化に向けた材料合成の基礎研究であり、実際にSPS合成した試料の熱電性能やモジュール加工に向けた課題を解決することにある。 まず、SPS装置による高圧合成の場合、昇温速度だけでなく、圧力印加の荷重やそのタイミングが重要である。また、減圧を降温のどのタイミングで実施するかも重要で、合成条件や回収プロセスの条件が悪いと試料の合成状態が悪化したり、試料内に亀裂が生じることがある。そこで、様々な条件でSPS合成した試料をいくつかのプロセスを経て回収した結果、亀裂のない試料を回収することができるようになった。亀裂の状態は、SEMによる試料表面および断面観察だけでなく、熱電素子の内部抵抗測定によっても把握できることが明らかになった。 また、モジュールを開発する際には電極との接触抵抗が課題となるが、試料および電極を粉末状態からSPS装置で一体合成することによって、電極との接触抵抗を大きく軽減できることが分かった。これらの結果を受け、電極との一体合成した熱電デバイスをSPS装置で複数合成し、それらを9つ直列接続したモノレグ型の熱電モジュールを試作した。これまで高圧合成した素子による同様のモジュール試作では熱起電力が発生することは確認できたが、接触抵抗が大きかったため電力として取り出せなかった。今回のデバイスは従来よりも接触抵抗を小さくすることができたため、試作モジュールとして0.6Vの熱起電力を発生し、電力としても取り出すことに成功した。 500℃以上の温度で長時間稼働させると試料の劣化が生じることが知られているため、400℃までの昇降温サイクルを繰り返した耐久試験を行ったが、30日間は安定していることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究課題として、車載用モジュールを開発するためには、モジュールとしての熱起電力の向上が挙げられる。発電効率の良い熱電モジュールを開発するためにはπ型が理想であるが、ターゲットとしているMg2Si熱電素子はn型であり、安定したp型Mg2Siは開発されていない。これまでの高圧合成技術によってp型Mg2Siの安定性を向上させることに成功しているので、その知見を活かしてSPS装置による安定したp型Mg2Siの合成研究を実施する。 電極との一体合成によって接触抵抗が軽減された熱電デバイスを作ることができたので、それを量産し、そのデバイスを使用した熱電モジュールを設計・製作しながら、モジュールとしての性能向上を目指す。また、その試作モジュールを実際にエンジンに搭載し、温度だけでなく振動などの影響も調べながら、実用化に向けた基礎研究を実施していく。 一方、超高圧SPS装置の改良も行っていく。初年度はドリッカマーセルを組み込んでSPS焼結を行ったが、あくまでも予備実験の段階であり、圧力は2.5GPaにとどまっている。高圧セルとしては10GPa以上の耐圧があるので、アンビルや高圧セルの構成を工夫しながら、さらに高い圧力発生が可能な装置の開発を行っていく。
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