研究課題/領域番号 |
23K03873
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分21030:計測工学関連
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
栗田 太作 東海大学, 理系教育センター, 准教授 (10547970)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 近赤外分光法(NIRS) / 修正ビア・ランバート則(MBL) / 脈波 / NIRS信号積算アルゴリズム / 脳血流(CBF) / 脳血液量(CBV) |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、近赤外分光法(NIRS)の修正ビア・ランバート則(MBL)による脳計測において、脳の酸素状態や二酸化炭素状態を変化させ、酸素化、脱酸素化、それらの和として総ヘモグロビン濃度長変化(ΔHbO2、ΔHb、ΔHbT)の経時変化であるNIRS信号を計測し、積算アルゴリズムを適合することで脈波(P-ΔHbO2、P-ΔHb、P-ΔHbT)を観測し調査する。P-ΔHbTとd(P-ΔHbT)/dtからは、それぞれ定性的な脳血液量(CBV)と脳血流(CBF)が得られるか検証する。また、P-ΔHbやP-ΔHbO2およびP-ΔHbTからは、脈波の起源が解明できるか検証する。
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研究実績の概要 |
近赤外分光法(NIRS)の測定原理のひとつである修正ビア・ランバート則(MBL)は、高時間分解能で脳計測が可能である。NIRS信号は、血液血行動態反応に起因する酸素化、脱酸素化、それらの和として総ヘモグロビン濃度長変化(ΔHbO2、ΔHb、ΔHbT)の経時変化として計測される。NIRS信号の脈波(P-ΔHbO2、P-ΔHb、P-ΔHbT)は、開発したNIRS信号積算アルゴリズムによりP-ΔHbO2やP-ΔHbTのみならず、信号対雑音(SN)比が低いP-ΔHbも観測可能となった。本研究の目的は、脳の酸素状態を変化させ、血液量や血流の変化と関連する脳の脈波の形状変化と、レーザードップラー血流計(LD)による脳の血流量(CBF)、血液量(CBV)、血液速度(VEL)とを相互比較や相関を調査することである。 当該年度に実施した研究の成果は、以前のNIRS装置のファームウエアおよびADコンバータをアップグレードしたことで、脈波のSN比がより向上したことが挙げられる。血圧アナログ信号は、NIRS装置内に取り込まれ、サンプリング時間5.12×10-3 sec でAD変換される。血圧アナログ信号をADコンバータで量子化する際、ビット数は十分な分解能であったが、サンプリング速度が高いため、軽度の量子化誤差が生じていた。ファームウエアおよびADコンバータのアップグレードにより量子化誤差は改善され、NIRS信号積算アルゴリズムにも良い影響を与えた。この積算アルゴリズムでは、トリガー機能として血圧デジタル信号である血圧心拍波形の移動平均波形、その1階微分波形を求め、トリガーレベルを負から正のゼロクロスとし、積算の開始点すなわちトリガー点(TP)を検出する。脈波のSN比は、積算回数やTPの検出精度に依存する。今回のアップグレードは、以前に比べTPの検出率が上昇し、脈波のSN比に寄与した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に動物モデルの作製や実験動物の呼吸管理を含め、安定した動物実験のNIRSとLD測定系を確立した。対象は、正常成熟ラット(9-10週齢、雄)21匹。実験動物において、脳内の直接的なNIRS信号を得るために、頭皮を除去し大脳周辺の頭頂骨を薄く削り、頭蓋半透明モデルを作製した。ラットの酸素状態は、呼吸管理により1回換気量(8 ml/kg)と呼吸回数(70 回/min)を一定にし、吸入気酸素濃度(FiO2)を30%、21%、18%、15%、12%と変化させた。低酸素化速度は、15-20分で吸入気酸素濃度を3%減少させた。その間、ラットの急性低血圧は認められなかった。脳組織の酸素化状態は、血液ガス分析にて動脈血酸素分圧(PaO2)と動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)で評価した。NIRS装置の送受光センサーには、外径2.0mmφのプラスチック光ファイバーを熱収縮チューブで被覆して2.5mmφの光ファイバーケーブルを作製し装着した。NIRS計測は、光照射部と光検出部のオプトードの対の分離距離(SD)を2.5、5.0、7.5、10 mmでこのモデルに設置して、サンプリング時間を心拍数に対応した5.12×10-3 secで行った。LD計測は、1.0mmφのプローブの位置をブレグマ(脳定位座標の基準点)の尾側に2 mm、右外側2 mmに設置して行った。NIRSとLDの使用する光の波長は近接し干渉するため、各酸素状態での計測はNIRS計測16分、LD計測1分で交互に行った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策として、脳を正常酸素状態に維持し、二酸化炭素状態を変化させ、NIRSの脈波とLDのデータとを検証する。頭蓋半透明モデルにおいて、PaO2とPaCO2を指標とし、呼吸管理を行う。二酸化炭素状態では、PaO2を一定(100 mmHg程度)に維持し、吸入気二酸化炭素濃度(FiCO2)によりPaCO2を40から80 mmHgまで変化させる。あるいは、ラットの1回換気量(8 ml/kg)を一定とし、呼吸回数を70から30 回/minまで変化させ、FiO2を調整し、PaO2を100 mmHg程度に維持する。このモデルから得られた各二酸化炭素状態に対する脈波(P-ΔHbO2、P-ΔHb 、P-ΔHbT)の形状変化と、LDから得られたCBF、CBV、VELのデータとを相互比較や相関を調査する。 研究を遂行する上での課題として、LD計測において脳の測定部位におけるCBF、CBV、VELのデータのばらつきが挙げられる。特にCBFは、CBVとVELの積に比例し、P-ΔHbTとの相関関係があると考えられるため、ばらつきの少ないデータの供給が必要である。各酸素状態におけるLD計測は、1.0mmφのプローブを使用し、当該年度ではその位置をNIRSのオプトード近傍となるブレグマ(脳定位座標の基準点)の尾側に2 mm、右外側2 mmに設置して行った。脳の血管網の走行や分布は、脳の部位やラットの個体ごとに異なるため、プローブを同じ位置に設置しても同様なCBFは得られなかった。今後、データのばらつきが少ないプローブ位置を調査し、LD測定を確立する。 また、課題として低酸素化速度は、15-20分でFiO2を3%減少させた。その間、ラットの急性低血圧は認められなかった。しかしながら、低酸素化速度は適切であったか、文献調査も含め、調査する必要があった。
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