研究課題/領域番号 |
23K03880
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分21030:計測工学関連
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
佐藤 淳 岩手大学, 理工学部, 准教授 (60324969)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 風速計測 / 対気速度計測 / 超音波計測 / 空中超音波 / 超音波風速計 / 位相計測 / カルマンフィルタ |
研究開始時の研究の概要 |
ドローン等の回転翼機は飛行機と異なり3次元的に様々な方向へ飛行するため,その対気速度を計測する手段として超音波風速計が注目されている.しかし従来の風速計の計測レートは数十Hz程度であり,50~1kHz程度のレートで動作する飛行制御系のセンサとして利用するには性能が不十分である. そこで本研究では複数方向の音波伝播時間から3軸風速と音速を計算するための新たな計算方法を提案する.これにより音波の位相差を利用した高レートの風速計測が可能となる.また位相差を利用する場合,従来は送受信器間の波数の情報が必要であったが,提案の計算方法に基づき拡張カルマンフィルタを用いた波数推定手法を提案する.
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研究実績の概要 |
空中超音波の伝播時間から風速および風向を計測する超音波風速計は1960~70年代に盛んに研究され,近年また回転翼ドローンの飛行制御に必要な対気速度の計測手段として注目されている.しかし現在市販されている風速計は「逆数差法」にもとづき,送受信器の役割を周期的に交代させて超音波パルスを双方向に伝播させていることから,計測レートの限界は数十Hz程度であり対気速度センサとして利用するには性能が不十分である. そこで本研究では複数方向の音波伝播時間から3次元風速と音速を計算する新たな方法を提案する.これによりトランスデューサ間で双方向に音波を伝播させる必要がなくなるとともに連続波の利用が容易となり,送受信信号の位相差計測にもとづけば高レートの風速計測が実現できると期待される. 令和5年度はSchotlandの球面波モデルにもとづき3次元風速と音速を計算する新しい手法の開発を行った.新規手法は特殊な場合として従来の「逆数差法」を含み,その3次元風速計測への拡張であることが理論的に示された.また本手法から,音仮温度を球面波モデルの精度で決定する新しい式が導かれ,従来の音速よりも風速が十分小さいという近似から導かれる結果と比べ高精度であることが明らかになった.また3次元風速の計測のためには少なくとも4つの独立な計測が必要であることが示され,計算のロバスト性の観点から伝播軸配置の適切さに関する評価基準を提案した.さらに基本原理の確認のために2次元風速の計測装置を試作し,風洞試験により提案手法による風速計測が可能であることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は3次元風速計算式の定式化を行った.伝播軸と直交する流れによる伝播時間の変動まで考慮した球面波モデルにもとづけば,風速の計算は風速の3軸方向成分および音速と非線形な関係にある量を変数とした線形方程式を解く問題に帰着される.またこの結果から,伝播軸方向の流速のみ考慮した平面波モデルにもとづく式が導かれ,無風時に風速および音速が一意に定まるためには伝播軸が4本以上存在し,それの幾何学的配置がある条件を満たす必要があることを明らかにした.また伝播時間計測値や構造パラメータの誤差に対してロバストな風速計算が行えるためには係数行列の条件数が重要であり,4軸の向きの単位ベクトルが張る多面体の体積が最大となるときに条件数は最良となることを明らかにした.有風時に計測が一意に定まるような風速レンジは有限だが,風速0~300m/sのレンジでは解くべき方程式が特異にはならず,一意な解が存在することを数値計算により示した. 本年度は提案方法の実現性の確認のために2次元風速計測用の実験装置を作成した.超音波の連続波の混信を避けるために送信器を中央に,受信器をその周囲に120度間隔で配置したスター型計測部を考案し,風洞装置を用いて様々な風向および風速における送受信信号の位相差を計測することによって提案方法による風速計測が可能であることを確認した. 以上の結果をまとめ,学会誌に投稿した.
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今後の研究の推進方策 |
1.位相の推定方法の提案 本研究では高レート風速計測を実現するために,伝播時間の計測にはパルス波の到達時間ではなく連続波の送受信信号位相差を利用することを考えているが,送受信器の構造物が流れに及ぼす影響を小さくするために,送受信器間距離は超音波の波長よりも大きくとっている.そのため送受信信号から計測できる位相差(計測位相)は0~360度の範囲でしか確定せず,真の位相(360度以上)は他の手段により推定する必要がある.今後は振幅変調超音波を用いた直接計測方法およびカルマンフィルタを用いた動的推定方法の双方について検討を進める予定である. 2.構造物の影響の低減 超音波風速計には,計測部の構造から決まる特定の風向周辺においてトランスデューサとそれを支持する支柱によって生じる流れが本来の流れを減速させてしまう問題がある.これにより生じる計測誤差は,実用上は校正により解決されるが,構造部分を小型化すれば擾乱の影響を受けやすい風向範囲を小さくできると考えられる.そこで近年実用化されたMEMSデバイスを利用して構造部の小型化を図るほか,新しい計算方法によりもたらされる伝播軸の配置の自由度を活用した新しい計測部の構造について検討する.
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