研究課題/領域番号 |
23K03936
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分21050:電気電子材料工学関連
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
大音 隆男 山形大学, 大学院理工学研究科, 准教授 (20749931)
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研究分担者 |
千葉 貴之 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 准教授 (20751811)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | ペロブスカイトナノ結晶 / 窒化物半導体 / マイクロLED / 金属ハライドペロブスカイト / InGaN / マイクロLEDディスプレイ |
研究開始時の研究の概要 |
InGaN/GaN量子井戸からの青色発光を効率よく厚膜の金属ハライドペロブスカイトナノ結晶に吸収させる波長変換型のLEDデバイスプロセス技術を確立する.また,InGaN系の青色発光に加えて,高効率な赤色・緑色ペロブスカイトナノ結晶をインクジェット技術を用いて微小領域に塗り分けて同一基板上に一体集積化することで,マイクロLEDディスプレイパネルの原理実証をすることを目指して研究を推進する.
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研究実績の概要 |
超スマート社会の実現には,超小型で高精細なディスプレイ技術が必要不可欠である.窒化物半導体InGaNは化学的に安定であり,In組成の変化で可視光全域をカバーできるため,次世代のディスプレイを実現するための材料として期待されている.しかしながら,原理的に赤色の発光効率が低く,新たなブレークスルーが求められている.そこで,InGaN系の赤色領域に関する問題を回避し,InGaN系青色LED上に金属ハライドペロブスカイトナノ結晶を厚く塗布した波長変換型の高効率赤色LEDを開拓することを目的として,研究を推進した.今年度に得られた研究実績を以下に示す.
1) 光照射下における赤色ペロブスカイトナノ結晶の光学特性評価と劣化抑制 赤色発光ペロブスカイト(CsPbI3)ナノ結晶に励起強度を変えながら青色光を照射し,光学特性を評価した.CsPbI3ナノ結晶単体に強い青色光が照射されると急激な劣化が生じるが,ナノ結晶をポリマーに分散することによって劣化現象が大幅に抑制できることを明らかにした.この結果は,ポリマーによってナノ結晶の表面欠陥やイオン拡散の発生が抑制されたことに起因すると考えられる. 2) 波長変換型赤色LEDの原理実証 ペロブスカイトナノ結晶を用いた波長変換型赤色LEDの試作を行い,デバイス特性を評価した.InGaN系青色LED上にポリマー分散した赤色発光CsPbI3ナノ結晶膜を接着した.青色LEDのみに電流注入を行ったところ,InGaNから放出された青色光はCsPbI3ナノ結晶によって99.8%吸収されていた.作製したLEDから赤色に発光する様子を確認し,波長変換の原理実証に成功した.波長変換型赤色LEDにおいて,外部量子効率は25%以上,半減寿命は100時間以上が得られ,高い発光効率と安定性を備えた赤色LEDを達成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
InGaNもペロブスカイトも可視LEDの材料として魅力的であるが,どちらもそれぞれの材料的な壁に直面しており,超スマート社会に向けた次世代ディスプレイの開発には新たなブレークスルーが必要である. 本研究では,これらの問題を解決するために,InGaN系青色LEDとペロブスカイトナノ結晶を組み合わせることで,お互いの欠点を補い合った有機・無機ハイブリッド型のLEDを提案して研究を推進した.従来のCsPbI3ナノ結晶を用いた赤色LEDは,電流注入によって劣化が促進され,デバイス寿命が短いことが課題であった.光励起型のデバイス構造においても,ナノ結晶単体では同様に劣化が確認されたが,ポリマーに分散することによって,ナノ結晶の劣化を大幅に抑制する技術を開拓した.この結果は,高い電流密度で駆動できるため,素子サイズが小さくなるマイクロLEDにおいても高出力で安定した発光に繋がると期待される.また,実際に青色InGaN系LEDとペロブスカイトナノ結晶膜を組み合わせた赤色LEDを試作し,高効率かつ長寿命の波長変換の原理実証に成功した.提案した波長変換型LEDは25%以上の高い外部量子効率を示したが,この値はInGaN系の赤色LED(5%)よりも高く,電流注入型のペロブスカイトLEDとも同程度であった.また,1 mA程度の高い電流注入下においても,100時間以上の長い動作寿命を示した. 以上の結果から,本研究は当初の計画以上に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
1) 青色LED基板上の緑・赤色ペロブスカイトナノ結晶の集積化 緑色ペロブスカイト(CsBrI3)ナノ結晶においても同様に,高効率な波長変換型LEDの実現を目指して研究を推進する.さらに,本技術をマイクロLEDディスプレイに応用するために,青色LED基板上に緑・赤色ペロブスカイトナノ結晶を領域を変化させて塗布し,同一基板上にRGBを集積化したLED構造を作製する.基礎的な実験で窒化物半導体上に直接ペロブスカイトナノ結晶を薄膜上に塗布することは難しいことがわかったため,窒化物半導体の表面を有機溶剤や不活性かつ透明な高分子層をコートすることで,表面改質を検討する.また,発光が別のピクセルに漏れ出さないように,光吸収用インクの成膜を検討する.ペロブスカイトナノ結晶は空気中に放置すると劣化して光強度が落ちるため,ガラスや樹脂等の透明な絶縁性の封止材でコーティングを実施する. 2) 劣化メカニズムの解明と更なる長寿命化の実現 ポリマー中に分散することで数分から100時間程度まで素子寿命を改善する技術の開拓に成功したが,更なる長寿命化が必要であると考えられる.そのためには,光照射下におけるペロブスカイトナノ結晶の劣化メカニズムを明らかにすることが重要である.そこで,同一環境下で光学特性の時間発展を詳細に計測する装置の開発を進め,劣化のメカニズムを理論・実験の両方から調査することで,劣化を抑制した安定性の高い波長変換型LEDの開拓に繋げたい.
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