研究課題/領域番号 |
23K04026
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分22030:地盤工学関連
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
酒井 俊典 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (90215591)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | グラウンドアンカー / リフトオフ試験 / テンドン / 荷重 / 変位 / 健全性 / 実物大実験 / 現地調査 / 維持管理 / センサー |
研究開始時の研究の概要 |
アンカーは斜面やのり面の崩壊を抑止し,防災・減災対策にとって重要な施設の一つである。このアンカーはほとんどが地盤内にあり内部の状況が判断できない。現在アンカーの健全性評価は,外観調査や作用する緊張力の調査が行われるが,これらが健全と判断されたアンカーでも,その後不具合が発生する場合があり,より適切にアンカーの健全性を判断する評価手法が求められている。本研究では,地盤内に施工されるアンカーが計測機器と同様のセンサーとしての機能を有していることを利用し,アンカー残存緊張力を求めるリフトオフ試験で得られる荷重-変位関係の形状が健全性によって異なることを考慮した新たな評価手法の開発を行うものである。
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研究実績の概要 |
アンカーは斜面やのり面などの崩壊を抑止する目的で施工される構造物で,防災対策にとって重要な施設の一つである。このアンカーはほとんどが地盤内に設置されており内部の状況が判断できないため,健全性を評価するにあたっては外観や作用する緊張力を調査することが行われる。しかし,これらの調査で健全であると評価されたアンカーでも,その後不具合が発生する場合があり,より適切に個々のアンカーの健全性を判断する手法が求められている。アンカーは地盤内に大きな緊張力が作用した状態で保持されており,背面地山やアンカーの施工状況などを反映してその緊張力が変化し,センサーとしての機能を有している。著者らは,この特性を利用してアンカーが施工されたのり面の健全性を評価する面的調査手法を提案した。しかし,のり面に施工された個々のアンカーが示す健全性を評価できるまでには至っていない。本研究は,地盤内に施工されたアンカーが持つセンサー的機能を利用し,個々のアンカーにおいてリフトオフ試験で得られる荷重-変位関係の形状が,アンカーの状態によって異なることを考慮に入れた,新たなアンカーの健全性を評価する手法の開発を行うものである。研究を進めるにあたって,実際にアンカーが施工されたのり面を対象にリフトオフ試験を実施し,得られた個々のアンカーの荷重-変位関係と施工状況をあわせた評価からパターン化する。その上で,パターン化された荷重-変位関係が発現する原因を,一般的な複数テンドンがあるアンカーを対象に,各テンドンの緊張力にばらつきが見られる場合やアンカー頭部定着の状況が異なる場合などを想定した実物大アンカー試験装置を用いた実験を実施し,これらの結果から荷重-変位関係のパターンが異なる原因を明確にし,個々のアンカーに対するリフトオフ試験から得られる荷重-変位関係のパターンに基づく新たなアンカーの健全性評価手法の開発を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実際のアンカーのり面を対象に現地調査を行い,アンカーの設置状況の調査を行うとともに,リフトオフ試験を実施し各アンカーの荷重-変位関係を求めた。その結果,①荷重-変位関係がリフトオフ前後で直線を描く理想的なパターン,②リフトオフ前の荷重-変位関係の直線が途中で変化するパターン,③リフトオフ試験時の載荷・除荷段階で荷重-変位関係が一致しないパターンの3つに分類できた。これらパターンが異なる原因を実物大試験装置を用いた実験により検討を行った。実物大実験では,リフトオフ前後の荷重-変位関係の線形形状が異なる原因を明らかにするため,テンドン本数が異なるアンカーを対象に荷重-変位関係に及ぼす影響について検討を行った。実験では,テンドン定着用に3穴の頭部定着治具を用い,定着荷重を180kNとしてテンドンの本数が異なるアンカーのリフトオフ試験を実施した。各テンドンの定着は,3本の場合は60kN毎,2本の場合は90kN毎,1本の場合は180kNとして行った。その結果,テンドン本数が多いほど断面積が大きくなるため傾きが急になるとともに,テンドンが1本の場合には偏芯した状態で定着治具が浮き上がるため,リフトオフ直後に頭部定着荷重が0kNとならず,テンドンが示す荷重と一致しなかった。また,アンカーがリフトオフする前でもテンドンには引張荷重が作用し,リフトオフ前の荷重-変位関係に影響を及ぼすことを初めて明らかにした。また頭部定着具の傾斜の影響について検討を行い,頭部定着具が傾きにより荷重-変位関係に影響を及ぼすことが明らかとなった。今回の結果より、アンカーの荷重-変位関係をパターン化でき,アンカーのテンドン本数や頭部定着状況などが,リフトオフ試験で得られる荷重―変位関係のパターンに影響を及ぼすことが明らかとなった。以上より,研究は当初想定している通りの進捗でおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果を受け,実際のアンカーが施工されたのり面における詳細調査とあわせて実物大アンカー試験装置を用いた実験を継続する。実験では複数テンドンの緊張力にばらつきがある実験,アンカー頭部の定着状況が異なる実験,およびアンカーが施工された地盤内部のテンドン状況を考慮した実験を行い,実際に現地において荷重-変位関係が異なるパターンが発現する原因を明確にする。実験のうち緊張力のばらつきについては,定着荷重を180kNとして,各テンドンの緊張力がばらつく場合を対象に,テンドン緊張力のばらつきの程度が荷重-変位関係に及ぼす影響について検討する。あわせて3本の緊張力が540kNと大きくなった場合についての検討も行う。アンカー頭部の定着状況が荷重-変位関係に及ぼす影響については,リフトオフ時に頭部定着具の傾斜の影響によって偏心が発生することを想定し,頭部定着具の角度が異なる実験を行う。頭部定着治具のずれの影響については,頭部定着具がアンカー孔と接触する場合を想定し,頭部定着具とアンカー孔とが接触する位置で定着させた実験を行う。地盤内でのテンドンの曲がりによるアンカー孔との接触に対しては,テンドンに垂直変位を与え,テンドンを覆っているシース管と接触した実験を行う。また,今年度調査を実施したのり面を対象にアンカーの設置状況をさらに詳細に調査し,上記の実物大実験から得られた種々の結果との比較検討を行う。加えて,今年1月1日に発生した能登半島地震においてアンカーに被害が確認されているため,管理者の許可が得られる場合にはリフトオフ試験調査を実施し,のり面状況と荷重―変位関係との関係についての検討を行う。これらの成果より,アンカーが設置された状況とリフトオフ試験の荷重-変位関係との関係を明確にし,リフトオフ試験から得られる荷重-変位関係に基づいた,個々のアンカーに対する健全性評価手法の提案を行う。
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