研究課題/領域番号 |
23K04040
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分22040:水工学関連
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
浅枝 隆 埼玉大学, 理工学研究科, 名誉教授 (40134332)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2027年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 過酸化水素 / 活性酸素 / 酸化ストレス / 河岸植生 / 土壌水分 / 生物多様性 / 樹林化 / 河川管理 / 河岸植生分布 / 洪水対策 |
研究開始時の研究の概要 |
河道内の樹林化は、洪水流の流下を阻害するために、その予測は重要な課題である。他方、植物は、その環境が適さないと、負荷されるストレスによって、体内に活性酸素が発生、生長が阻害される。そのため、活性酸素の一つ、過酸化水素濃度という一義的な指標を用いて、まず、異なるストレスごとに過酸化水素量とストレス強度の関係を把握、それぞれのストレスの影響を比較する。複数のストレスが負荷される場合に全体の過酸化水素濃度との関係を把握し、生長を抑制する全体の過酸化水素濃度を求める。次に、この仕組みを、河岸植生に利用、河岸において種ごとの分布形態を予測するモデルを作成し、樹林化の種ごとの予測を可能にする。
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研究実績の概要 |
過酸化水素の利用の可能性は、過去にも考えられていたことではあるものの、測定が難しく、また、様々な手法が提案されているものの、それら相互の検証は十分には行われてこなかった。そのため、まず、本研究で主に使用を計画している、硫酸チタンを用いる方法と、e-FOX法で求める方法を100以上の異なるサンプルに対し利用、得られる過酸化水素濃度の比較検討を行った。その結果、相互の間には、絶対値は異なるものの、高い相関が存在することが確認され、硫酸チタンを用いる方法の妥当性が得られた。 2023年度には、当初の計画に即して、全体的な傾向を得ることに努めた。まず、荒川、信濃川の河岸において、典型的な草本、木本の葉のサンプリングを行い、さらに、土壌水分等の条件を測定、比高による分布等を求めた。 木本類においては、ヤナギ類、ニセアカシア、オニグルミ、シンジュなどの種を対象とし、一ヵ所について複数の個体から葉を採取、分析を行った。また、同時に土壌サンプルを採取、窒素やリン等の栄養塩濃度及び土壌水分量を測定した。その結果、ヤナギ類については、過酸化水素濃度は、生育場所の土壌水分濃度の増加と共に減少、ほぼ飽和水分濃度に達する付近で安定な値となった。ところが、その他の種においては、乾燥した状態においても、過酸化水素濃度は比較的低い値を示していたものの、土壌水分量の増加とともに増加、20%程度でほぼ安定な値となった。ただし、オニグルミが多少低い値を示していたものの他の種はほぼ同様の傾向を示していた。このこと、同様の機構が働いていることが示唆される結果となった。また、得られた傾向は他の文献に示される生育範囲の土壌水分濃度と一致したものとなっていた。 土壌窒素、リン濃度と過酸化水素濃度との間には、相関関係はみられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度においては、これまで危惧されてきた様々な問題点について調べた。 過酸化水素の測定はこれまでも、様々に試みられてきたものの、バラツキが大きく、利用を諦められてきたものである。本研究では、まず、過酸化水素の測定が十分な精度で行えるかについて取り組んだ。2023年度においては、最もオーソドックスな硫酸チタンを用いる方法と、より高い精度が得られるe-FOX法の2つの分析方法を多数のサンプルに対して試行し、それらの値の間に高い相関があることが得られた。さらに、抗酸化酵素の働きと過酸化水素濃度との間にも高い相関があること、また、それぞれの間に内在する時間遅れなどの性質も得られた。これにより、単に過酸化水素濃度だけでなく、必要に応じて、抗酸化酵素の活性度を測定することで、より確度の高い結果を得ることが可能になった。 次に、陸上植物は、頻繁に変化する様々なストレス要因に曝されている。こうした状況下で重要なストレス要因を他の様々なストレスから分離して抽出することが可能かといった疑問に挑戦した。ところが、まず、過酸化水素濃度の変化は適度に速く、その時点のストレス強度が過酸化水素濃度に比較的安定して反映されていることが明らかになった。そのため、採取したサンプルを実験室内である程度時間をかけて分析することでも、採取した時点での関係の把握が可能であることがわかった。さらに、様々なストレス要因の存在下においても、主要なストレスが過酸化水素濃度にはより明瞭に反映されていることも明らかになった。さらに、同じ種であれば、異なる個体であっても概ね同様な傾向が得られることも明らかになった。こうしたことから、過酸化水素の利用可能性が極めて高まったといえる。さらに、個体ごとのばらつきも概ね把握できたことから、計測時のエラーの除去も可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、河岸植生の生長を阻害要因となる過酸化水素の発生と具体的なストレス要因との関係を明確にする必要がある。ただし、この仕組みは、河岸植生だけに限ったものではなく、沈水植物、マングローブ、植物プランクトンなど、光合成を行う全ての植物に共通する現象である。そのため、形態や生態の異なる様々な植物を対象に、過酸化水素の発生の基本的な機構を明確にすることを考える。その手始めととして、強光ストレスにより過酸化水素が発生する機構の解明を行う。この機構は、過剰な光エネルギーにより、炭水化物の合成に必要な量以上の電子が生成され、余剰な電子により過酸化水素が生成されるものである。ここで、電子が余剰になる仕組みには、光エネルギーが過剰であることと、二酸化炭素量が不足することの二つの可能性がある。光強度の影響は容易に把握可能であるが、二酸化炭素量の不足の証明は陸上では難しい。しかし、水中では、乱流強度の関数として二酸化炭素の輸送量の把握が可能である。2024年には、沈水植物に対し、異なる乱流強度で過酸化水素濃度を比較することで、二酸化炭素量の輸送量との関係を明らかにすることで、間接的に二酸化炭素の不足の影響を解明する。 2023年度の結果として、経験的に、土壌水分濃度との関係が明瞭になった。この場合、気孔の開閉の度合いで二酸化炭素の取り込み量が制約を受け、これが過酸化水素濃度に影響していると考えられる。ところが、一部の木本の場合、土壌水分量が少ない方が過酸化水素量が低い傾向がみられ、さらに複雑な機構が存在することが考えられる。統一的な解釈を可能にするために、この仕組みを解明する。 種の分布の把握につなげるためには、種ごとに影響を受ける要因に差があることが考えられる。可能な限り多くの種について分析を行うことで、種による影響を受ける要因の差について明らかにすることを考える。
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