研究課題/領域番号 |
23K04212
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分23040:建築史および意匠関連
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
三田村 哲哉 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (70381457)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2026年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 建築タイプ / アルベール・ルヴェ / ルイ・オートクール / ピエール・ヴァゴ / アルベール・ラプラド / アンドレ・エルマン / 建築用途 / 建築類型 / 近代建築 / モダニズム / パリ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、モダニズム建築への傾倒が顕著になる戦間期後半のフランスに頂点を当て、建築用途毎にそれぞれ専門のあるいは得意とする建築家が組織的に割り当てられ、建築用途の歴史、国内外の実例の紹介、当時の課題と解決策を体系的に記した調査・提案の総体「ビルディング・タイプ論」を明らかにすることを目指す。その上で、これまでの建築史の解釈で、建築の用途や機能に焦点を当てたとされるモダニズム建築の牽引者ではなく、実質的にかつ具体的に建築の近代化に貢献した者の実績を解明し、第一次大戦後の近代主義全盛の時代における建築の近代化の本質を問い直すことを目指したものである。
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研究実績の概要 |
本研究は、戦間期のフランスで建築家が建築用途毎に実施した体系的な調査・提案の全容を解明し、建築の近代化に貢献したこの新たな建築類型を「ビルディング・タイプ論」と捉えて、近代建築史への位置付けを試みるものである。ビルディング・タイプ論にはニコ ラウス・ペヴスナーの『建築タイプの歴史』があるが、本研究の対象は、それ以前にフランスの建築家が断続的に発表した、各ビルディング・タイプに関する報告の総体を捉え直したものである。本年度の研究実績は次の4点である。第1は、当時発行された主なフランス建築誌を通覧することによって、建築構造や内装設備などに関する特集記事とともに、ビルディング・タイプ毎に調査した報告記事が断続的に発表された点、及びその全体像を把握した点である。第2は、このように全体像を把握することにより、近代化を図るために教会堂を取り上げたアルベール・ルヴェと、パレ・ド・トウキョウに結実する美術館に着目したルイ・オートクールが、こうした形で建築を捉え直した最初期の代表者であることを明らかにした点である。第3は、1930年代に入り、ピエール・ヴァゴが中心的な役割を担い、学校やラジオ放送施設、映画撮影所、美術館、劇場、ホテル・カフェ・レストラン、公共施設、展示館など、戦間期に新たに登場した用途の建築や社会に普及したものに着目し、近代建築の体系的な捉え方、建築類型に一石を投じたことを明らかにした点である。第4は、第一次大戦後、多様化する近代建築に対応するために、その歴史に着目したアルベール・ラプラドや、技術の面で補佐したアンドレ・エルマンばかりでなく、駅舎のアンリ・パコンやアドルフ・デルヴォー、港湾や空港施設のウルバン・カサン、産業施設のウジェーヌ・フレシネのように、すでにある一定の実績のある建築家によって新たなビルディング・タイプに関する検討が進められたことを明らかにした点である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況は、次の3つの段階に基づいて説明することができる。本研究を遂行するに当たり、まず最初に必要な研究業務は、戦間期を中心にフランスで発行された建築4誌を用いた調査で、主な目的は建築構造や内装設備などとともに、第一次大戦以前に非常に限られた内容の記事も含めて、ビルディング・タイプおよび建築タイプに関して記載された該当記事を抽出することである。こちらの業務は予定よりも順調に進み、ビルディング・タイプに関する記事を中心に大方完了した状態にある。上記の通り、アルベール・ルヴェによる教会堂とルイ・オートクールによる美術館に関する記事が、こうした全体像を把握することによって、最初期の代表者に位置付けられたことは、現在までの進捗状況の区分がおおむね順調に進展している、とした根拠のひとつである。第2はアルベール・ルヴェの教会堂と、ルイ・オートクールの美術館のように、ある一定の実績のある建築家の履歴、作品歴、事業暦などを把握することによって、建築家とビルディング・タイプをそれぞれ対応させながら、当時の「ビルディング・タイプ論」の全体像を把握てきた点である。第3は、そのなかでも1930年に創刊したフランス建築誌を中心に活躍した建築家ピエール・ヴァゴが数多くのビルディング・タイプに関心を示し、大きな役割を果たしたことを明らかにした点である。これらの2点についても予定以上に順調に進んでおり、区分をおおむね順調に進展しているとした根拠に挙げられる。一方、当初の予定では夏季休業期間と春季休業期間にそれぞれ現地における調査を予定していたが、夏季休業期間のみ現地調査が実施できず、ビルディング・タイプ毎の各論に着手できなかった。こちらの点は当初の予定とは異なる。これらの諸点を総合的に捉え直すと、現在までの進捗状況の区分はおおむね順調に進展していると捉えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の第一の目的は、戦間期フランスで建築家が手がけた建築用途毎の調査・提案に焦点を当て、建築用途、建築家、掲載実例の組織的かつ体系的な枠組みを中心に、総体を捉え直し、その全容を解明することである。最終的な目的は、これら一連の研究成果を統合し、「ビルディング・タイプ論」をフランス近代建築史に位置付けるための基礎資料を提示することである。そのため、当初の研究計画では、初年度に「居住施設」と「公共施設」、2年度に「文化施設」と「商業施設」、3年度に「産業施設」と「宗教施設」、4年度に「保養施設」と「その他」に整理・統合し、これらを年度毎の考察の対象としたが、上記の通り、これらの各論よりも全体像の方が先に明らかになりつつある。こうした進捗状況は、夏季休業期間における現地調査が実施できなかったため、各論よりも全容の解明に注力したからでもある。これらの諸点を踏まえて、今後の研究の推進方策は、各ビルディング・タイプに関する考察、つまり当初に研究計画に沿って推進するために、全体像に着目しつつも、研究対象の主体である各論に傾注することである。そのために2年度、3年度、4年度の考察対象をそれぞれ「居住施設」「公共施設」「文化施設」、「商業施設」「産業施設」「宗教施設」「保養施設」、「その他」およびまとめという形で、初年度の考察対象を次年度に引き継ぐ形で本研究課題を遂行する予定である。またフランス建築4誌とは別に、同時代にフランスの建築家で作家、記者でもあるロジェ・プーランが「学校」「病院」「店舗」「劇場」「近代住宅」などのビルディング・タイプ毎に著作を残しており、本研究を遂行するに当たり、不可欠な考察の対象であることが明らかになった。2年度以降の研究の推進方策は、これらの諸点を踏まえて、各論に注力する形で、戦間期フランスにおける「ビルディング・タイプ論」を明らかにする予定である。
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