研究課題/領域番号 |
23K04344
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分25030:防災工学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
池田 芳樹 京都大学, 防災研究所, 教授 (70416866)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 制振 / 統一的理解 / 支配方程式 / 極配置法 / 性能規定型設計 / 効果予測式 / 耐震 / 免震 |
研究開始時の研究の概要 |
振動理論と制御理論に基づいて、建物の耐震・免震・制振を共通に支配する統一式を誘導し、その利用法を性能規定型設計の観点から検討する。設計のある段階から独立に扱われている耐震・免震・制振を、統一式により同一の要求性能という視点で統合することを試みる。3自由度系モデルによる予備検討で、基礎・中間層免震、同調型マスダンパや層間に設置する粘性ダンパによる制振を統一的に理解する式を発見している。モデルを一般化した場合、変位依存型ダンパや2棟連結による制振の場合、大地震を受けて建物が非線形振動した場合でも、統一式の存在を調べる。
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研究実績の概要 |
本研究は、振動理論と制御理論に基づいて、建物の耐震・免震・制振を共通に支配する統一式を誘導し、その利用法を性能規定型設計の観点から提案することを目的にしている。統一式には、設計のある段階から独立に扱われている耐震・免震・制振を、同一の要求性能という視点で統合する意図がある。予備検討により、耐震だけではなく、基礎・中間層免震、同調型マスダンパや層間粘性ダンパによる制振を支配する一つの式を発見していた。 初年度は、建物1棟の振動を支配していた統一式を2棟の連結制振に拡張し、制御目標と構造パラメータの関係が1棟で得ていた式と同様に表現できることを明らかにした。統一的理解の一般性を高めた結果になっている。 誘導した統一式を連結制振の従来の定点理論と統合して、2棟で同じ付加減衰効果を与えるダンパの設計式を誘導した。誘導では、高さがほぼ同じ隣接建物の最上階付近にダンパを設置することを想定した。建物に与える減衰効果が建物の質量比と振動数比で表現できるようになり、減衰効果とダンパの最適減衰の関係も明らかになった。その結果、ダンパの設計で効果が容易に予測できる。付加減衰がダンパ自体の最適減衰と同じオーダであることも確認され、連結制振ではダンパ自体の減衰が建物の減衰に直接寄与することを明確に説明した。 ダンパが高次モードにも機能する効果を考慮して、効果予測式の多自由度系モデルにおける利用法を提案した。制御建物モデルの固有値解析は建物への付加減衰という観点から、その地震応答解析は時刻歴応答という観点から、2棟の地震応答を同程度に抑える目標が達成できることを検証した。ただし、2棟で同程度の付加減衰が確保できるもの、地震時の応答低減率は2棟で異なり、1棟では制御時の応答が若干非制御時よりも大きくなる場合が認められた。これは、連結制振で2棟を同時に応答低減することが難しいという指摘を裏付けていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の初年度の研究計画は、3質点系モデルで確認した統一式の一般性を証明することであった。一般性とは、多質点系モデル、層間の変位依存性ダンパによる制振、2棟連結制振およびMaxwell型の減衰モデルに、統一式の表現を拡張することである。 研究申請時からの半年間に、Voigt型減衰モデルを有する多質点系モデルに統一式は拡張された。また、統一式が、非線形履歴による建物のエネルギ吸収を等価減衰として評価する式とも整合しており、非線形履歴を描く変位依存性ダンパによる制振を包含する表現であることが明らかになった。 そのため、初年度は多質点系モデルで表現される建物2棟を繋げる連結制振で、統一式を展開することに集中することができた。統一式を2棟の連結制振に拡張できた成果は大きい。成果は海外の査読論文集にすでに掲載され、オープンアクセスで公開されている。 Maxwell型減衰モデルを有する多質点系モデルに統一式が拡張できることも、初年度に明らかになっており、現在その利用法を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
建物の振動制御を担う粘性ダンパは、主構造部材に接合部材を介して取り付けられるため、より現実的な制御効果を理解するためには、ダンパと接合部材をそれぞれ表現するダッシュポットとばねを直列に繋いだMaxwell型減衰モデルが必要になる。このモデルの基本特性の一部は、非減衰建物に極配置法と定点理論を適用して報告されているが、最適なダンパ容量を実現可能なパラメータ領域で十分考察していない、ダンパ容量が建物の振動モードの減衰比に及ぼす影響を閉じた形で得ていない、という課題が残されている。 これまでは、ダンパと剛性が並列の関係にあるVoigt型減衰モデルで統一式を検討してきた。第二年度はMaxwell型減衰モデルにまで統一式を拡張する。Maxwell型モデルに極配置法を適用して、これまでと同様に、制御効果と振動制御装置の規模の関係を閉じた形で導く。ダンパ設置後の建物動特性の変化が建物とダンパの減衰に及ぼす影響を実現可能なパラメータの領域で考察し、より現実的なダンパ設計を可能とする知見を得る。この知見が得られれば、既往の研究で残された課題が解決される。また、統一式の拘束条件としての性質を解明し、統一式の使い方の検討を構造設計者側の視点(工学的視点)を踏まえながら、検討する。
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