研究課題/領域番号 |
23K04355
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26010:金属材料物性関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
徳本 有紀 東京大学, 生産技術研究所, 講師 (20546866)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 二次元層状物質 / 準結晶 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は遷移金属カルコゲナイド系二次元層状物質の中でも未開拓の物質であるTa-Te準結晶に着目し、新規物性の探索を目指す。 目的達成のために以下の項目(1)-(3)を実施し、層数による原子構造、電子構造、電気物性、熱物性の変化を明らかにする。 (1)準結晶相のさらなる高品質化、大面積化を図り、高品質大面積試料を得た後に、薄片試料の層数と構造の相関を明らかにする。 (2)Ta-Te準結晶の電気抵抗率、磁化率の温度依存性測定を行い、その層数依存性を調べる。 (3)Ta-Te準結晶の熱伝導率、比熱、熱起電力の測定を行い、その層数依存性を調べる。
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研究実績の概要 |
Ta-Te二元系ファンデルワールス層状準結晶を粉末焼結法により作製し、低温電気抵抗、比熱、磁化率の測定を行った。その結果、約1Kでゼロ抵抗、比熱のとび、完全反磁性に匹敵する大きな反磁性を観測し、バルク超伝導転移を明らかにした。これは準結晶では2例目、熱力学的に安定な準結晶では初の超伝導の発見である。 さらに、希釈冷凍機システムを用いて超伝導転移温度以下数十mKまで、臨界磁場の温度依存性を調べた。その結果、低温で通常の第II種超伝導の上部臨界磁場の温度依存性を説明するWHH(Werthamer-Helfand-Hohenberg)理論には従わず、大きく上回ることがわかった。また、実験結果から0 Kでの上部臨界磁場を外挿するとパウリ限界磁場(スピン常磁性効果で0 Kで超伝導が壊れる磁場)の2.3倍になることがわかった。この結果から、Ta-Te二元系ファンデルワールス層状準結晶ではスピン常磁性効果が抑制されていることが示唆される。 また、新たなファンデルワールス層状準結晶の探索および物性評価を目的とし、Ta-Te二元系に種々の第三元素の添加を試みた。粉末焼結法により得られた試料について、粉末XRD(X線回折)測定による相の同定を行った。第三元素としてCu, In, Seを添加した試料について、単相の準結晶相が得られた。これら単相試料が得られた試料について、電気抵抗測定を行った結果、いずれの試料においても1 K以下で超伝導転移が観測された。Ta-Cu-Te, Ta-In-Te, Ta-Te-Se三元系ファンデルワールス層状準結晶の超伝導転移温度はそれぞれ0.93 K, 0.87 K, 0.96 Kであり、Ta-Te二元系より若干低かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、遷移金属カルコゲナイド系二次元層状物質の中でも未開拓の物質であるTa-Te準結晶に着目し、新規物性を探索することを目的としている。研究期間内に以下の3項目を遂行する予定である。 (1)準結晶相のさらなる高品質化、大面積化を図り、高品質大面積試料を得た後に、薄片試料の層数と構造の相関を明らかにする。 (2)Ta-Te準結晶の電気抵抗率、磁化率の温度依存性測定を行い、その層数依存性を調べる。 (3)Ta-Te準結晶の熱伝導率、比熱、熱起電力の測定を行い、その層数依存性を調べる。 令和5年度は、粉末焼結法による多結晶バルク試料の作製および物性測定を行った。その結果、約1Kでゼロ抵抗、比熱のとび、完全反磁性に匹敵する大きな反磁性を観測し、バルク超伝導転移を明らかにした。これは準結晶では2例目、熱力学的に安定な準結晶では初の超伝導の発見である。準結晶の超伝導は理論研究により結晶の超伝導とは異なる性質が予測されている。1例目の準結晶の超伝導転移温度が約50 mKであったのに対し、Ta-Te準結晶の超伝導転移温度は約1 Kであり、現在準結晶の超伝導特性を実験的に調べることのできる唯一の系である。今後、準結晶の超伝導の研究を進めるために、よりサイズの大きな単結晶試料が必要である。また、新たなファンデルワールス層状準結晶の探索および物性評価を目的とし、Ta-Te二元系に種々の第三元素の添加を試みた。いくつかの三元系で単相の準結晶相が得られ、いずれも1 K以下で超伝導転移が観測された。また、粉末X線回折および電子回折の実験結果から、一部、Ta-Te二元系と比較して準結晶の質が良いことが示唆される結果が得られている。 現状、項目(1)-(3)を部分的にしか遂行できていないものの、大前提となるバルクの超伝導を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度に下記の項目(i)および(ii)を、令和7年度に下記の項目(iii)および(iv)を行う。 (i)CVT(化学気相輸送法)による試料のさらなる大面積化 (ii)単結晶試料の物性測定:(i)で得たバルク単準結晶試料について、PPMS(物理特性測定装置)を用いて電気抵抗率の温度依存性を測定する。また、極低温で電気抵抗率が急激にゼロになる現象が観測された場合、PPMSで比熱の温度依存性、MPMS3(磁気特性測定システム)で磁化率の温度依存性を測定し、超伝導の発現を検証する。 (iii)薄片試料剥離:(i)で得たバルク単準結晶試料をスコッチテープ法やスタンプ法で剥離し、単層や数層以下の極薄試料を得る。デジタルマイクロスコープ、AFM(原子間力顕微鏡)およびSTM(走査トンネル顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)を併用し、薄片試料の層数と構造の相関を明らかにする。相の同定には粉末XRD(X線回折)とTEMを用いる。組成分析にはSEM-EDS(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光)を用いる。機械的剥離により極薄試料が得られない場合には、極性溶媒をインターカレートさせて超音波で剥がす液相剥離も試みる。 (iv)薄片試料の電気・磁気物性評価:基板上に薄片試料を転写し、電子線リソグラフィを用いた電極パターン作製、電子ビーム蒸着装置を用いた電極付けにより電気伝導測定用試料を準備する。PPMSを用いて電気物性を評価する。磁気物性については、薄片試料を複数枚集めてMPMS3で評価する。
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