研究課題/領域番号 |
23K04373
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26020:無機材料および物性関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
湯葢 邦夫 九州大学, 工学研究院, 学術研究員 (00302208)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2026年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 散漫散乱 / 電子回折トモグラフィー / 規則格子反射 / ブロック構造 / 散乱強度3次元マッピング / 電子回折トモグラフィ / 構造不整 / 衛星反射 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、極めて微弱な散乱強度の観察を可能とする電子回折と散乱強度3次元マッピングをドッキングした電子回折トモグラフィを用いて、機能性無機化合物のブラッグピークの隙間空間に現れる構造特異性由来の極めて微弱な痕跡を検知し、その特徴や形成メカニズムを解明する。 物質が成長時や育成後環境から受けた様々な静的動的(熱的)な履歴は、構造特異性(structural singularity)として物質自身に記録されている。構造特異性は、原子配列のゆらぎ、化学組成の不均一性して物質内部に存在し、比較的少数のパラメータで記述できる構造単位の周期的な配列(平均構造)として取り扱うことは困難である。
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研究実績の概要 |
3次元電子回折トモグラフィを用いて、機能性無機化合物のブラッグ・ピークの隙間空間に現れる構造特異性由来の極めて微弱な痕跡を検知し、その特徴(強度分布など)を明らかにするとともにそれらの形成メカニズムを解明することをゴールに設定している。 アルミノ珪酸塩鉱物であるdachiardite は1963年に Gottardi と Meier によって平均構造が報告されたが、良質な結晶が得られず、詳細な構造モデルの解明は困難であった。1990年に保基谷岳(長野県)で良質な dachiardite-Ca (Ca1.75Na0.39K0.51)[Al4.55Si19.48O48](H2O)13.13 が発見され、X線回折などを用いて研究が行われている。X線回折では streak 状の回折強度の存在が確認され、結晶内部に構造欠陥や結晶の構造の変調が生じていることが示唆されている。本課題では 3次元電子回折トモグラフィー法を用いて電子回折強度の三次元再構成を行い,その強度分布から見出した特異な streak 状の散漫散乱の解析を行っている. ディラック・ノーダル・ループを示すトポロジカル絶縁体と見込まれている水素化されたボロン単層シートの出発物質である YCrB4 の単結晶 XRD 構造解析を完了した.Y, Cr, B のそれぞれの元素の異方性原子変位パラメータを決定し,デバイ温度を評価した.加えて,定比組成から大きくずれた出発組成で合成した Y-Cr-B 試料において,イントリンジックな構造不整(双晶)を見出し,(0-40)original [001] || (2-10)twin [001] という結晶方位関係を決定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の推進に向けて、散漫散乱や規則格子反射を中心として構造特異性をもつ化合物探索を広範囲にわたる継続中であり、ターゲットとなる系の候補の絞り込みも進んでいる。 dachiardite に代表される構造に水分子を内包する天然鉱物試料は電子線照射に極めて敏感であり、通常の TEM/STEM 観察が困難である。本課題では、STEM 用分割型検出器を使用し、照射電子線量を減じ低ドーズ量で高コントラストで観察が可能な Optimum Bright Field (OBF) 法を用いて、構造解析を行う。3次元電子回折トモグラフィー法(逆空間)から導出した構造モデルとOBF 法(実空間)から直視した構造モデルとの整合性を検討している. TM1-TM2-TM3-X1-X2-X3 系化合物多結晶試料中に見つかった (Cr0.5Co0.5)B 相で,特徴的な散漫散乱(3次元的な分布)を見出した.基本構造は,すでに報告されているが,散漫散乱についての考察はこれまでに行われていないようなので,新規な結果になると考えている.この化合物の散漫散乱を再現できる構造モデルを構築する. 申請時には予想していなかった展開として、ナノ酸化物で見出された触媒特性に代表されるような新規物性の獲得にも注力している。構造特異性をもつ化合物の構造解析の更なる展開に向けて、国内外の研究者との共同研究を強力に推進しており、興味深い成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
特徴的な散漫散乱を示すいくつかの化合物を見出しているので,次年度以降,これらの測定を行う予定である.測定したデータセットをもとに次の解析を実施する. 逆空間内のブラッグピークの隙間空間に表現される特異構造は,実空間内では広範囲に渡るため,原子レベルでの大規模計算を行う必要がある.そこで,アモルファス材料の構造解析で実績のある「リバース・モンテカルロ・シミュレーション」を用いた構造解析の併用を計画している.このシミュレーションの結果(中・長距離秩序)と実空間上で得られる原子識別像(原子分解能像および元素マッピング)の情報(短距離秩序)と相補的に活用する.リバース・モンテカルロ・シミュレーションによる大規模原子集団の構造解析から得られる結果は,構造特異性について重要な知見を与えてくると考える. 構造不整のある回折・散乱強度分布(特に散漫散乱)には,幾何学的特徴があることが広く知られている.これらの構造では,通常の回折法による構造解析(フィッティング・パラメータによる構造精密化)の評価が難しい.そのような場合は,人工知能の得意分野である「深層学習」を活用して,原子配列における構造的特徴の抽出と構造モデル構築の迅速化を目指す.
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