研究課題/領域番号 |
23K04376
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26020:無機材料および物性関連
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
神田 一浩 兵庫県立大学, 高度産業科学技術研究所, 教授 (20201452)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | Zn溶出型DLC膜 / 陽電子消滅法 / X線吸収分光法 / ラザフォード後方散乱法 / 弾性反跳散乱分析 / 自由体積 / 局所構造分析 |
研究開始時の研究の概要 |
骨の新陳代謝促進効果が報告されている亜鉛(Zn)を、ダイヤモンドライクカーボン膜に添加したZn溶出型 DLC(Zn-DLC)膜を骨折治具にコーティングする研究が注目されている。疑似生体内における溶出時間の異なるZn-DLC膜について、膜中の元素の結合状態をX線吸収分光法により調べ、Zn原子が貯蔵される空隙の大きさや化学環境を陽電子消滅法により明らかにし、Zn-DLC膜の貯蔵能を支配する構造因子や貯蔵物質の出入りによる薄膜の構造の変化を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本申請の目的達成の中心課題である低速陽電子線を用いたDLC膜の自由体積の評価に関して、以下の実績を上げた。本申請の研究対象であるZn溶出型DLC膜は膜厚数百nmの薄膜であるためにRIなどを線源とした陽電子装置では測定ができないので、京都大学研究用原子炉(KUR)のB-1孔に薄膜でも評価が可能な低速陽電子ビームシステムを立ち上げた。このシステムでDLC膜の自由体積が評価できるかを確認するために多種の製膜法および多種の製膜条件で製膜した様々なDLC膜の陽電子消滅分光(PAS)測定を行い、各種物性と比較した。 陽電子消滅分光法は対消滅で発生するγ線を観測するが、今年度は陽電子の消滅寿命(PAL)を測定する陽電子消滅寿命分光(PALS)法とγ線のエネルギーシフトを観測するドップラー拡がり(DB)法の2種の測定を行った。PALSとDBの結果はよく一致し、密度や硬度の変化と良い相関が得られた。これは自由体積が大きくなると自由体積内の電子密度が減少するためにPALは長くなり、価電子との対消滅の確率が上がるためにドップラーシフトは小さくなるためだと結論できる。一方、炭素原子のsp2比や水素含有率などとは相関が無く、自由体積が独立した構造因子であることを保証した。これらの成果をJJAP誌に投稿した。(発行は令和6年4月15日)さらにDLC膜中の自由体積の増減をPAS測定で明らかにできるかを調べるために、高水素化DLC膜に対して昇温処理や軟X線照射を行って膜中の水素を脱離させ、PAS測定を行った。昇温ではPALSとDBの結果は一致したが、軟X線照射では逆の結果が得られた。これは自由体積を取り巻く原子が価電子のみを持つ水素から内殻電子も有する炭素に変わったためと結論した。この結果に関してJSAMA、SMSEなど複数の国際学術会議で発表を行った。令和6年度には論文投稿を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
亜鉛と炭素の混合ターゲットを対象にアルゴンスパッタリングによって、シリコンウェハ上にZn溶出型DLC(Zn-DLC)膜を製膜した。長岡技術科学大学所有の静電加速器を利用してHe+イオンを2.0 MeVに加速してラザフォード後方散乱法(RBS)および反跳散乱分析法(ERDA)の測定を行い、Zn-DLC膜の膜厚推定および組成分析を行った。RBSの測定からZn-DLC膜の膜厚は210 nmであり、膜中のZn/C比は0.43と求められた。ERDAの測定からは膜中の水素含有率は6%であり、ほとんど水素フリーの膜が製膜できていることを確認した。兵庫県立大学の有する中型放射光施設ニュースバルのBL09Aに設置された回折格子分光器ラインを用いて300 eV付近に存在するC K吸収端におけるX線吸収微細構造(XANES)の測定を全電子収量法で行い、Zn-DLC膜中の炭素の局所構造解析を行った。通常のDLC膜に比べるとZn-DLC膜はsp2混成軌道を持つ炭素原子の割合が少ないことが明らかとなった。また、亜鉛の局所構造解析を行うために、Zn K吸収端に相当する10,000 eV付近までX線吸収分光の測定ができる二結晶分光器を備えたビームラインをニュースバルBL05Cに立ち上げた。本予算によりBL05C用の試料ホルダーを作成し、いくつかの標準試料の測定に成功した。さらに京都大学研究用原子炉(KUR)のB-1孔に設置された低速陽電子ビームシステムを用いて、Zn-DLC膜の陽電子消滅法の測定を行い、ドップラー拡がり法・陽電子消滅寿命法とも問題なく測定できることを確認した。研究の次の段階としてZn-DLC膜の溶出実験を開始した。疑似生体内と仮定できる細胞培養用培地(MEM-α)と比較対照用に蒸留水中でZn-DLC膜の溶出実験を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
Zn-DLC膜の溶出実験を生体内(生きているラット)で開始する。溶出実験後に取り出したZn-DLC膜に関しては前年に確認した長岡技術科学大学所有の静電加速器を用いた高エネルギーイオンを利用したRBS/ERDAによる組成分析を行うが、他にグロー放電発光分光(GD-OES)測定も行い、組成分析の精度の向上を図る。 兵庫県立大学所有のニュースバルBL09AにてC K吸収端XANESの測定を行って炭素原子の局所構造分析を行うほか、前年度に立ち上げたBL05Cを利用してZn K吸収端X線吸収分光測定を行って、亜鉛原子の局所構造を分析する。このエネルギー領域ではXANESだけでなく、広域X線吸収微細構造(EXAFS)の測定が可能であるため、亜鉛原子と隣接原子の核間距離や配位する原子数の情報を得ることができる。 前年度にZn-DLC膜の陽電子消滅法の測定ができることを確認したKURのB-1孔に設置された低速陽電子ビームシステムを用いて、陽電子消滅寿命法とドップラー拡がり法の測定を行う。
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