研究課題/領域番号 |
23K04380
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26020:無機材料および物性関連
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
米崎 功記 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (20377592)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
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キーワード | 無機蛍光体 / 光化学反応 / 光センサー / 結晶構造 / フォトクロミズム / 結晶構造解析 / 蛍光体 |
研究開始時の研究の概要 |
蛍光体は照射された光の色を変える機能性材料のひとつで、白色光源や表示装置用バックライト、夜光塗料などに使用されている。蛍光体から生じる発光の色は、添加する発光性イオンの種類によって決まるため、蛍光体で多色発光を実現するには“複数の発光性イオンの併用”や“複数の蛍光体の併用”が必要となり、その製造には煩雑なプロセスとコストが伴う。一方で単一の蛍光体で種々の発光色を実現し、その明るさを色ごとに調整できれば、発光色をコントロールできる蛍光体として新たな展開が期待される。そこで本研究では、光照射による欠陥生成反応を介した物質の多色発光化について実験的検討を行う。
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研究実績の概要 |
結晶中に発光種として希土類金属イオンを含む無機蛍光体は、発光種の電子配置や結晶場の大きさ、対称性に依存して「特定の色の光」を発する材料である。本研究では光化学反応性をしめすことが示唆されるグラセライト型結晶に着目し、母体結晶の光化学反応を利用した「発光性電子欠陥の生成・高密度化」および「多様な発光性電子欠陥の誘起」を通じて光刺激による発光色を制御できる蛍光体の開発に取り組む。 研究対象とするグラセライト型無機蛍光体Li2BaMgP2O8:Eu3+粉末については高温固相反応法により合成した。この蛍光体は紫外光を照射することで3価のユウロピウムイオン由来の橙色発光をしめしたが、興味深いことに、紫外光の照射時間とともに、発光色が徐々に青色に変化した。同発光のスペクトル形状の経時変化の様子から、紫外光照射に伴う橙から青への発光色変化がユウロピウムイオンの3価から2価への還元によることを明らかにした。同試料の電子スピン共鳴スペクトル解析を行ったところ、光照射時にLi2BaMgP2O8母体結晶内で局所的な電子移動が起こることが明らかとなった。紫外光照射時間に対する母体結晶の着色を考慮すると、Li2BaMgP2O8:Eu3+の発光色が紫外光照射のもと橙から青へ変化するメカニズムとして、光のエネルギーによりLi2BaMgP2O8結晶から放出された電子を3価のユウロピウムイオンが取り込み、発光種が2価のユウロピウムイオンに変わったためと考えらえれる。 また上記の実験とは別に、組成の異なるグラセライト型リン酸塩固溶体にEu2+を添加し、連続的に構成イオンを置き換えながら晶構造を系統的に変化させた蛍光体の発光特性を調査し、グラセライト型結晶内でユウロピウムイオンが占有し得る結晶学的位置とその分布を調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では発光色を外部制御できる蛍光体の開発を念頭に置き、グラセライト型結晶相をホスト相とする蛍光体を対象に「発光性電子欠陥の高密度化」および「多様な発光性電子欠陥の生成」に関する調査を行った。 初年度はユウロピウムイオン添加Li2BaMgP2O8蛍光体への紫外光照射による発光色制御に関する検討を通じ、グラセライト型リン酸塩が光照射時の電子を放出すること、ユウロピウムイオンの価数変化に伴う発光色を制御できること、ならびに結晶構造内のユウロピウムイオン分布に関する情報を得た。得られた結果は、結晶構造中の光化学反応及び光還元反応の生じやすい位置を特定するために必要な情報を与え、研究課題として掲げた「発光性電子欠陥の高密度化」に資する有益なデータである。 またグラセライト型リン酸塩の光照射実験を行う中で、光照射により2価のユウロピウムイオンの発光とは別種の新たな可視発光中心を誘起することに成功した。誘起された当該発光中心は、蛍光体合成時の雰囲気制御で生成することが出来ず、光照射によってのみ生成する新たなタイプ発光中心と考えらえれる。この結果は研究計画段階では予期していなかったものであるが、研究課題として挙げた「多様な発光性電子欠陥の生成」に資する発見であり、本研究で当該発光中心を同定し、その発現メカニズムを解明することは、蛍光体の輝度、演色性を向上のみならず、蛍光体のスマートマテリアル化に繋がる高い発展性を有する。そのような意味で初年度の研究進捗状況は、申請時に掲げた2つの課題の解決に関連するものであり、順調な研究の進展状況を表すものである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では光照射などの外部刺激を用いた蛍光体の発光色制御を念頭に、グラセライト型蛍光体に着目し「発光性電子欠陥の高密度化」および「多様な発光性電子欠陥の生成」に関する調査を行う。 「発光性電子欠陥の高密度化」を結晶構造のデザインにより実現するにあたり、光化学反応及び光還元反応が起きやすい結晶構造の位置を特定する必要がある。今後は、フラックス法によるグラセライト型単結晶を育成し、振動分光法により育成結晶の方位を決定後、電子スピン共鳴スペクトルの角度依存性から光誘起された電子欠陥の対称性と位置の特定を試みる。電子を放出する構造ユニットが明らかとなれば、当該位置近辺への空間選択的化学圧力印加を介した光電子放出量の増大に努める。 「多様な発光性電子欠陥の生成」を実現するにあたり、初年度の研究で得られた光照射によってのみグラセライト型リン酸塩結晶内に生成する可視発光中心の同定を試みる。一連のグラセライト型リン酸塩固溶体を高温固相反応により合成し、発光スペクトル中の発光帯および励起スペクトル中の励起帯のシフトや帰属により、当該発光中心の対称性や数を解析する。グラセライト型化合物については元素組成比により結晶構造への空間選択的な化学圧力印加が可能であるため、圧力印加と当該発光中心の生成能に関する相関から当該発光中心の同定を試みる。
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