研究課題/領域番号 |
23K04398
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26030:複合材料および界面関連
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
阪本 辰顕 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 講師 (80403848)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 高強度化 / 高延性化 / バイモーダル組織 / 幾何学的に必要な転位 / 粉末冶金法 / 分散強化合金 |
研究開始時の研究の概要 |
合金の高強度化は延性の低下を伴うが、微細粒と粗大粒の2種で構成されるバイモーダル組織を有する合金は、高強度を維持したまま高延性化される。本研究では分散強化合金Al-Y2O3を用いて、分散強化バイモーダル高強度合金が高強度を維持したまま高延性を発現するメカニズムを調べる。本研究において、合金はメカニカルアロイングと放電プラズマ焼結による粉末冶金法で作製する。作製した合金の引張試験により強度と延性を評価する。透過型電子顕微鏡により微細組織を調べ、高延性発現機構を明らかにする。また、粗大粒に分散粒子を含む合金と含まない合金を作製し、分散強化合金の高延性化に及ぼす分散粒子の効果を調べる。
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研究実績の概要 |
合金の高強度化が低延性化を伴うという強度と延性のトレードオフの問題を解決する方法として、微細組織を粗大粒と微細粒の混合組織とするバイモーダル(BM)組織制御が知られている。本研究では、BM組織制御を分散強化合金の1つである酸化物分散Al合金に適用した。酸化物分散Al合金は、純Al粉末とY2O3粉末をメカニカルアロイング(MA)することにより作製し、Al-4wt%Y2O3合金粉末(以後MA粉末と呼ぶ)を得た。MA粉末をBM組織の微細粒(粒径約200nm)の原料とし、純Al粉末を粗大粒(粒径約2ミクロン)の原料とした。MA粉末と純Al粉末を体積分率で1対1、3対1、5対1で混合し、放電プラズマ焼結で焼結した。焼結体の引張試験を行った結果、5対1で混合した試料が最も高強度でありかつ高延性であった。高強度であった理由は、微細粒の体積分率が多いことでホールペッチの関係から平均結晶粒径が微細であるためであった。高延性であった理由は、光学顕微鏡観察の結果、粗大粒の体積分率が少なくなったことで、粗大粒を囲む微細粒が増加し、粗大粒と微細粒の界面が増加したことであると推察された。粗大粒と微細粒の界面が増加することで、変形中に導入される幾何学的に必要な転位(GN転位)が増加し、加工硬化率が増大したことで、均一伸びが増加したため、高延性化したと判断される。実際、混合比が1対1と5対1のBM組織の引張試験の結果を比較することで、5対1のBM組織において高い加工硬化率を示すことが確認された。また、両試料の引張試験後、破断面を走査電子顕微鏡で観察した結果、微細粒由来の100nm程度の微細ディンプルと、粗大粒由来の2ミクロン以上の粗大ディンプルが観察されたが、5対1のBM組織では、それら以外にGN転位に由来する中間的なサブミクロンのディンプルが多数見られ、高延性化にGN転位が寄与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高強度かつ高延性化に及ぼすバイモーダル組織の効果の中で最も重要な要因は、粗大粒と微細粒の界面に幾何学的に必要な転位が大量に導入されることで加工硬化率が増大することである。そのため、粗大粒と微細粒の界面の量が重要であると考えられ、現在までそれについて調べてきた。令和4年度まででは、粗大粒と微細粒の原料粉末を混合し、焼結前にさらにミリングすることで粗大粒と微細粒の界面を増加させ、高強度化とともに高延性化することを報告していたが、令和5年度では粗大粒と微細粒の混合比を変え、粗大粒の割合を減少させることで粗大粒と微細粒の界面量を増加させた。その結果、粗大粒と微細粒の界面量が増えることで高強度化とともに高延性化することを明らかにし、改めて界面量が増大することで高強度かつ高延性化することの正当性を実証することできた。 一方で、本研究は分散強化合金のバイモーダル組織制御であるため、分散粒子が高強度かつ高延性化に及ぼす影響を調べることが重要である。これまで、文献調査の結果、粗大粒に分散粒子を含む試料と含まない試料を作製し比較した報告は無いため、その比較を行う計画である。令和4年度まで粗大粒に分散粒子を含まない試料は作製できていたが、含む試料は作製できていなかった。そこで令和5年度において、2種類の作製方法を試みた。すなわち、Al-Y2O3分散強化合金粉末を作製する際のメカニカルアロイング時の容器の回転速度を減少すること、およびMA粉末を熱処理することで、MA粉末の母相の粒径を粗大化させ、分散粒子を含む粗大粒原料粉末を作製することを試みた。しかし、いずれも効果は小さく、大きく粗大化させることができなかった。そこで令和6年度は方針を改める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、分散粒子を含む粗大粒の原料粉末を作製するために、Al-Y2O3合金粉末を作製する際のメカニカルアロイング(MA)時の容器回転速度を落とすことと、MA粉末の熱処理の2種類の方法を試みたが、どちらも効果は小さかった。そこで今後は、次の新しい2種類の方法を検討する。すなわち、1つは、Al-Y2O3合金粉末を作製する原料粉末の純Al粉末をMA前に熱処理することで粗大な純Al粉末を作製したのち、その純Al粉末とY2O3粉末からMAにて粗大なAl粒径のAl-Y2O3合金粉末を作製する。もう1つは、分散粒子がAlの粒界をピン止めし粗大化を抑制しているため、Y2O3の含有量を減らすことで、焼結時のAl粗大化が促進されるAl-Y2O3合金粉末を作製する。またこれら2種類の方法を同時に行い効果を向上させる。 この試みにより、分散粒子を含む粗大な原料粉末と微細な原料粉末が得られた後は、これらを放電プラズマ焼結で焼結し、焼結体の引張試験を実施する。 引張試験の結果得られた高強度かつ高延性化の原因を明らかにするために透過型電子顕微鏡(TEM)にて微細組織観察を行い、分散粒子のサイズと体積分率、および母相結晶粒のサイズを測定する。 高強度かつ高延性化される合金では、変形中に加工硬化が顕著に生じるために、転位が増殖したり、相互作用し絡み合ったりするための十分な空間が粒内に確保されていることが必要であると考えられる。そのため、実際にTEM観察による微細組織観察から、転位が活動できる粒内の自由空間の量を測定する計画である。 また、このメカニズムに基づく定量的な考察の結果、最適な組織制御パラメータを決定し、分散強化合金を高強度かつ高延性化するための最適組織制御の条件を提案する予定である。
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