研究課題/領域番号 |
23K04409
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26030:複合材料および界面関連
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
真砂 啓 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(地球情報科学技術センター), 技術副主幹 (70510551)
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研究分担者 |
Dino Wilson 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (60379146)
川人 洋介 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門, 上席研究員 (70379105)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | レーザ直接接合 / 異材接合 / 樹脂 / 軽金属 / 量子力学計算 / 界面原子模型 / 樹脂金属接合 / 界面 / 電子状態 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、マルチマテリアルの創製技術として、レーザによる樹脂と金属の直接接合が、注目を集めている。しかし、樹脂と金属が直接接合する普遍的な原理解明には至っていない。研究代表者らはこれまでに、通常よりも低い温度でのレーザ直接接合に世界で初めて成功しており、接合指針のひとつとして、触媒作用による、樹脂分子の分解温度以下による接合手法を見出した。そこで本課題では、原子間の電子軌道の重なりから得られる接合強度の量子力学的計算を行い、接合界面の原子分子構造を同定する。これらの結果から、接合に有利な電子軌道の重なりを持つ官能基の種類、及び界面構造を明らかにすることで、直接接合に対する普遍原理の解明に挑戦する。
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研究実績の概要 |
研究代表者らはこれまでに、通常よりも低い温度でのレーザ直接接合に世界で初めて成功しており、接合指針のひとつとして、触媒作用による、樹脂分子の分解温度以下による接合手法を見出した。この手法で接合された樹脂金属継ぎ手の引張強度は、80MPaを達成しており、他のあらゆる手法による典型的な引張強度である十数MPaを大きく超える結果となっている。そのため深海や宇宙空間などの広い応用範囲を見据えた開発を行っているが、経験則だけでは深海・宇宙のような極限環境での利用に対して心細い。そこでこの直接接合に対する原理解明と普遍原理の解明に挑戦する。 本年度の実験では、関連プロジェクトにおいて、各種合金(チタン、アルミニウム、マグネシウム)とPEEK-CFRP樹脂のレーザ接合を実施し、その界面状態を透過型電子顕微鏡(TEM)、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)、硬X線光電子分光法(HAXPES)などによって観測を行った。その結果、接合界面にカルボキシ基の存在が確認された。この結果に基づいて、カルボキシ基を有する小分子による金属表面の吸着構造や電子状態を量子力学計算によって評価を試みている。この吸着構造は、カルボキシ基のない場合との比較を念頭に行っている。これまでに得られた計算結果は、概ね予測通り、カルボキシ基を介した共有結合を生じ、ファンデルワールス力による物理吸着よりも大きな接合強度の源泉になっていると推測される。しかしPEEK分子中に存在するケトン基(-O-)を介した結合の存在も示唆され、本系の吸着構造の複雑さを示している。 本成果は、MRM2023においてポスター講演をとおして発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までに関連プロジェクトにおいてフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)と硬X線光電子分光法(HAXPES)による接合界面の観測を行い、カルボキシ基の存在を確認した。しかし、当初は、カルボキシ基をはじめとする高い結合強度に有効な官能基をとらえることができなかったため、これらの観測、分析、議論を重ねることが必要となり時間を消費した。 最終的に得ることができた観測結果に基づき、金属表面にカルボキシ基を介して吸着する炭酸ガスや炭素系分子の吸着構造を想定し、構築した。この原子模型を用い、PEEK分子とチタン合金表面の安定構造と電子状態を計算した。これまでに得られた計算結果は、概ね予測通り、カルボキシ基を介した共有結合を生じ、静電気力(第一原理計算内では通常マーデルングポテンシャルによって計算され、これは量子力学的効果:共有結合とは異なる)による物理吸着よりも大きな接合強度を持つと予想される。しかしPEEK分子中に存在するケトン基(-O-)を介した結合の存在も示唆され、吸着構造の複雑さを示している。この成果は、MRM2023におけるポスター講演を通して発表した。 一方、界面を模した原子構造による、引張強度計算の第一原理計算では、真空領域サイズの見込み不足により、当初予定していた第一原理計算の計算コストでは難しいことが分かった。さらに分子の引き剥がしに必要な計算の時間ステップ数が分子量に応じて増加することも本研究推進を圧迫した。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、接合強度に有効に働いていると考えられる官能基や共有結合の、計算結果と実験結果との比較、検証を行う。現在配布されている第一原理計算パッケージVASPは、硬X線光電子分光法(HAXPES)等に関連のある内殻電子励起に起因する内殻電子準位のシフトを計算することができる。そこで今後の研究の推進方策として、VASPの利用を考える。計算によって得られた接合の安定構造から、VASPによって、注目すべき原子の内殻電子励起準位シフトを計算する。これらの計算結果は、HAXPESの実験結果と比較することができ、界面構造の同定に迫ることが可能である。 上記と並行して、引張強度に関する第一原理計算を引き続き試みる。現在の計算機資源や密度汎関数理論に基づいた第一原理的計算手法を採用した量子力学計算は、かなりの計算コストを許容するが、研究代表者のグループでは地球シミュレータの利用が可能ではあるが、計算の原理上樹脂分子のようなフレキシブルな物質の取り扱いは難しい。そこで密度汎関数理論に基づいた第一原理的計算手法の一部をパラメータ化して最適化変数の次元を低下させた手法である、密度汎関数理論に基づいた強束縛近似法を応用することで、今後の研究の推進方策とする。パラメータ化の作業はやや複雑だが、研究代表者の過去の成果に倣ってうまく生成できれば計算コストの大幅な削減が期待でき、計画の加速が期待される。得られた計算結果は、原子間力顕微鏡の測定結果と直接比較することが可能であり、この成果は直ちに引張強度と官能基由来の接合原理の関係を明らかにするものと考えられる。
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