研究課題/領域番号 |
23K04419
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26040:構造材料および機能材料関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西原 正通 九州大学, 水素エネルギー国際研究センター, 教授 (40415972)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 高分子イオン伝導体 / 高分子電解質膜 / イオノマー / 酸素透過性 / 燃料電池 / 水素エネルギー / 高分子電解質 / 酸素輸送 / 酸素バリア性電解質膜 / 酸素透過性イオノマー |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、固体高分子形燃料電池を構成するイオン伝導体において、標準物質のNafionに替わる、革新的イオン伝導体を提案する研究であり、酸素輸送現象の視点から実験的、理論的に劣化抑制、発電性能の向上を目指す研究である。 申請者はこれまでに、高分子イオン伝導体の酸素輸送性を調整し、電解質膜の長寿命化と燃料電池の高出力化が可能であることを実証してきた。一方で、高分子イオン伝導体の酸素輸送と化学劣化、発電性能との関係には不明な点も多い。これらを定量的に明らかにし物理モデル化することで、膜劣化、発電性能低下の課題を解決する革新的な高分子イオン伝導体の設計指針を構築することを目的とする。
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研究実績の概要 |
高分子イオン伝導体の酸素輸送と“劣化”および“高出力化”の関係を革新的な高分子イオン伝導体を用いて定量的に明らかにするため、2023年度は1.高い酸素バリア性を持ち、プロトン伝導性を維持できるガスバリア性電解質膜の開発と評価、2.高い酸素透過性を持つブレンドイオノマーの開発と評価を進めた。 1のガスバリア性電解質膜では、ガスバリア性を維持しながら課題であったイオン伝導性の向上を実現すべく、1ミクロン以下のガスバリア層を作製し、燃料電池の発電性能および膜の化学的耐久性の評価を行った。このガスバリア薄膜は、標準材料であるNafionと同等の性能を示し、ガスバリア性に由来するラジカル生成抑制と膜の化学劣化抑制を実現できた。さらに、酸素だけでなく、水素の透過性も抑制できたことから、燃料電池の開回路電圧の向上も実現できた。 2のガス透過性ブレンドイオノマーについては、調製法、分子量、燃料電池セルの構造による性能の影響を評価した。特に背圧をかけた環境で、分子量による影響、セル形状の影響が如実に確認され、さらなる高機能化が期待できる結果を得ることができた。 このように2023年度は、高分子イオン伝導体の酸素輸送と“劣化”および“高出力化”の関係を、膜とイオノマー双方で着実に明らかにすることができた。2023年度は、これらの成果を元に、複数の国際会議、国内会議での発表を行うことができた。現在、これらの結果をとりまとめ論文化を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、1.電解質膜、2. イオノマーの2点について研究を進めている。1の電解質膜については、標準試料であるNafionよりも高い耐久性を持つ膜を探索しつつ、膜劣化を実用的に無視できる理論的な酸素輸送抵抗の上限を明らかにするため、研究を進めている。これまでの研究成果を元に、よりガスバリア性を高めるポリビニルアルコール(PVA)膜の開発と評価を進めている。従来のガスバリア膜の成膜条件には、130℃でのホットプレスが含まれていた。この工程の中で、PVAが一部分解し、ガスバリア性の低下が見られた。これを低温で成膜する行程を取る事で、ガスバリア性を高めることに成功している。今後は、この膜を使った耐久性評価を行い、酸素輸送抵抗と耐久性の関係性を明らかにしていく。同様に得られた成果を元に膜劣化の物理モデルを構築し、酸素透過と過酸化水素生成量の関係性を計算的に明確化する取組を開始した。今後、高ガスバリア性電解質膜と物理モデル計算を組み合わせ、膜の化学劣化を理論的に抑えることができる酸素輸送抵抗の上限を明確化していく。 2のイオノマーについては、標準試料であるNafionイオノマーよりも高い発電性能を示すブレンドイオノマーを探索しつつ、材料組成と構造、触媒効率の向上を定量的に明らかにするため、研究を進めている。ブレンドイオノマーの物理組成の一つとして、分子量がある。分子量を変えることで、発電性能、特に酸素を多く必要とする高電流密度域での性能にどのような影響を及ぼすかを評価した。分子量が小さい気体透過性高分子は溶解性が高くブレンドするNafionともよくなじむ。この現象が理由の一つとして、低分子量の気体透過性高分子による発電性能の向上が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
電解質膜の研究推進方針は、2023年度までの成果を踏まえ、より高いガスバリア性を持つ電解質材料を用いた耐久性評価、イオン伝導性を向上させた電解質材料の開発、膜劣化を模擬した物理モデルを用いた膜劣化を理論的に抑制できる酸素輸送抵抗の算定を進める。これまで酸素透過を抑制できれば、膜劣化を抑えることができる事は実験的に明らかとなっているが、どこまで酸素透過を抑えれば、膜劣化が起こらず運転できるかが明確でない。2024年度、25年度に、実験的にデータを積み上げ、物理モデルにその結果を組み込むことで、膜劣化を抑制できる酸素透過の理想値を探索する。 イオノマーの研究推進方針は、2023年度までの成果を踏まえ、これまでよりも疎水性が高く水の排出性が高い気体透過性ブレンドイオノマーを開発する。ブレンドイオノマーを構成する気体走化性高分子の気体透過性を高めることで、酸素が多く必要となる高電流密度域での発電性能が高まることが分かっている。一方で、気体透過性高分子がNafionイオノマーよりも疎水性が低いため、多くブレンドすると水排出が低下するという課題が見られている。そこで、ブレンドイオノマーの疎水性を上げることで、この課題を解決し、さらに高い発電性能を示すブレンドイオノマーの開発を進める。
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