研究課題/領域番号 |
23K04425
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26040:構造材料および機能材料関連
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研究機関 | 大阪公立大学工業高等専門学校 |
研究代表者 |
君家 直之 大阪公立大学工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (60332037)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2026年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
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キーワード | シリカエアロゲル / シリカ繊維 / 断熱材 / 熱伝導率 / 強度 / 成形 / 建材 |
研究開始時の研究の概要 |
液化天然ガスの輸入に依存する日本のエネルギー事情は非常に厳しく、今後は熱エネルギーや排熱の利用効率の向上が求められる。欧米ではゼロエネルギー建材(ZEB)による建物の断熱が進められているが、地震国の日本では耐震性も併せ持つ建材の開発が必要である。そこで本研究では、真空断熱材と同等の断熱性を持つシリカエアロゲルとコンクリートをシリカ繊維を中間媒体として複合化し、断熱性と耐震性に優れた複合建材を開発する。開発にあたっては、断熱材としての特性を発揮するための効率的な複合建材の構造と製造工程の兼ね合いをにらみながら検討を進め、また環境に対する耐久性や居住快適性への影響についても長期的な評価を行う。
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研究実績の概要 |
本研究では、「高い断熱性能と耐震強度を有するシリカエアロゲル/コンクリート複合建材の開発」と題して、シリカ繊維を中間媒体として疎水性シリカエアロゲルと建材を積層複合化し、断熱性と耐震性に優れた複合建材を開発することを目指した。先行研究において、3つの中性酸素と1つの水酸基が結合したケイ素(Q3)を38%含むシリカ繊維を350℃程度に加熱すると、水酸基が縮合してQ4構造と水を生成することがわかっているが、このシリカ短繊維を疎水性シリカエアロゲルの粉末と混合した状態で350℃以上の金型内で圧縮成形すると、シリカエアロゲルがシリカ繊維間に取り込まれて付着し、安定したシリカ成形体が得られる。これを一次成形体として建材との積層化を行って、堅牢かつ断熱に優れた建材を得ることが本研究の目的である。 本年度は、4年間の実施期間の初年度として、疎水性シリカエアロゲルとシリカ繊維の付着機構を解明し、両者の最適な複合化工程を確立することを目標に研究を実施した。その結果、両者の付着現象は加熱時に発生する縮合水を介した水素結合と、機械的なアンカー効果が主要因であり、さらにシリカエアロゲルの二次粒子を微細化ならびにシリカ繊維の繊維長を0.5mm以下に短繊維化すると、得られる複合材の断熱性能が向上することが明らかとなった。また、両者の混合物にエタノールを溶媒として加えると、シリカエアロゲルが溶媒を吸着して体積収縮するため、より密度の高い成形体が得られて機械的強度が改善されることがわかった。さらに、加熱圧縮成形時の圧力と成形時間を調整すると、厚さ20mm以上の複合材が得られ、建材用途に適した構造が得られることもわかった。建材との積層化に関しては、プラスターボードやコンクリートの他、アルミニウム板との水素結合を介した接着が可能であり、軽量なサンドイッチ断熱パネルの製造が可能であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の進捗状況として、まず疎水性シリカエアロゲルとシリカ繊維の付着機構の解明に関しては、加熱時に発生する縮合水を介した水素結合と、機械的なアンカー効果が両者の付着現象の主要因であることを複合材のFT-IR解析とSEM観察により確認した。そしてシリカエアロゲルとシリカ繊維をミル装置に入れて混合撹拌し、機械的な粉砕処理を行うと、シリカエアロゲルの二次粒子が微細化ならびにシリカ繊維が短繊維化し、得られる複合材の断熱性能が向上することが明らかとなった。 また当初の研究計画では、シリカ繊維不織布をニードル加工して繊維の起毛処理を行い、その内部にシリカエアロゲルを付着させてシリカエアロゲルの体積比率を高めることを想定していたが、先に述べたようにエタノールを溶媒として添加することによりシリカエアロゲルが体積収縮してシリカ成形体の密度を高められることが判明したため、シリカ繊維不織布の起毛処理については実施しないこととした。エタノール添加によるシリカ成形体の高密度化は複合材の強度向上にも寄与したが、その一方で、複合材の断熱性能が若干低下することがわかったため、目標とする断熱材の断熱性能、機械的強度、およびコストに応じてエタノールの添加量は調整する必要があることがわかった。 さらに当初の計画では、シリカ成形体と建材の積層複合化については2年目に実施予定であったが、シリカ成形体の厚型化ならびにプラスターボードやコンクリートを塗工することによる積層化が可能であることが確認され、さらにはシリカ成形体をアルミニウム板で挟んだ状態で加熱圧縮成形すると、縮合水に起因する水素結合により直接サンドイッチ断熱パネルを製造できることが判明したため、当初の計画よりも早いペースで研究を進展させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の実施年度においては、水分や骨材の割合を変化させたプラスターボードやコンクリートをオールシリカ成形体に塗工した場合の含浸挙動と乾燥後の接着状態を評価する。またアルミニウム板とオールシリカ成形体を接着剤を用いずにより強固に水素結合させる条件を検討し、接着状態の評価を行う。接着状態の評価では、電子顕微鏡による微視観察の他、万能材料試験機を用いた剥離試験を実施する。 さらに、これら複合建材の断熱性能について、サーモグラフィカメラと定常熱流束方式の熱伝導率測定装置を用いた評価を行う。熱伝導率の測定温度域は室温から700℃までとし、高温環境への適用性を検証する。高温域での断熱性能の低下が見られた場合は、近赤外線遮蔽効果があるチタニア粒子の添加を検討する。 建材として用いる場合、氷点下の温度域における断熱性能や環境に対する耐性も検証する必要がある。そこで、本研究の設備備品費により小型環境試験器(恒温恒湿器)を導入し、-40℃から150℃の温度域、30から95%rhの湿度域で複合建材の環境試験を行う。具体的には、複合建材で密閉した中空のボックス試験体を製作して小型環境試験器内に配置し、ボックス試験体の中に無線データロガーを設置して遠隔通信により内部の温度を記録できるようにして、氷点下を含む生活環境温度域における複合建材の断熱性能を正確に評価する。また、建材用断熱材では透湿抵抗についても評価する必要があるため、同小型環境試験機内でカップ法による透湿試験を行い、複合建材の透湿抵抗を定量的に求める。 3年目以降の実施年度については、上述の環境試験を長期のスパンで行うことに加えて、振動試験、凍結/解凍サイクル試験、湿熱加速エージングサイクル試験を実施する。またより自然環境に近い状態での熱/雨サイクル、熱/冷サイクル、および雨/冷サイクルに曝した前後での熱機械的特性を多角的に評価する。
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