研究課題/領域番号 |
23K04438
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26050:材料加工および組織制御関連
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
音田 哲彦 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (80273879)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 熱電変換 / 熱間押出し / 結晶配向性 / 熱伝導率 / フォノンエンジニアリング |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、セラミックス容器・ボールを用いたメカニカルアロイングによる微細粒SnSeを用いて、熱間押出しすることで、SnSe熱電変換材料の結晶配向性を制御する手法を提案する。本研究では熱間押出し条件の組織、結晶配向性、熱電変換特性、機械特性に与える影響を調べ、熱間押出し条件の最適化を行う。本研究で用いる熱間押出し法は、熱電変換特性に直接影響する熱伝導率を低下するフォノンエンジニアリングの考えによると非常に有効な手段であり、このフォノンエンジニアリングおよび熱間押出し法の有効性の評価するものである。
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研究実績の概要 |
昨今、工場や車などの廃熱を電気に変換できる熱電変換材料は地球温暖化防止技術の一つとして期待されている。熱電素子の変換効率は無次元性能指数ZT (= α2T/(ρκ))に強く依存する。αはゼーベック係数、ρは電気抵抗率、κは熱伝導率、Tは絶対温度であり、ZT>1が実用化の目安である。単結晶のb面で高い熱電変換特性を示すSnSeについて、多結晶試料の高性能化を目指している。本研究では原材料のSnとSeを合金化と同時に微細粉末が得られるメカニカルアロイング(MA)により合金粉末を合成した。この粉末を押出し圧力による結晶配向性を付与できる熱間押出し加工を用いてバルク体を作製し、押出し温度が熱電性能におよぼす影響を調べた。 MAにより短時間で10ナノメートル以下の結晶子のSnSeの合成に成功した。合成粉末を350~500℃で熱間押出しすることでSnSe単相のバルク体が得られた。その密度は熱間押出し温度ともに減少する傾向が見られ、特に500℃では大きく低下した。XRDプロファイルには押出し方向の平行面では400、垂直面では020回折ピークが顕著にみられる結晶配向性が観察された。 キャリア濃度と移動度は押出し温度とともに上昇した。熱起電力を示すゼーベック係数は昇温に伴い上昇しその後大きく低下した。押出し温度による違いはあまりないが、密度低下試料では小さな値となった。電気抵抗率は昇温とともに急激に低下後わずかに上昇し、その後低下した。押出し温度が高いほど低い値を示した。熱伝導率は押出し温度による違いはほとんど見られなかったが、350℃押出し試料のみほかの試料よりも小さな値となった。熱電変換材料の特性指標である無次元性能指数ZTは測定温度とともに上昇した。押出し温度350℃試料においては最大でZT=0.62 が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MA条件の確立に対しては、単相試料の合成に成功している。また、MA時にセラミックス容器を用いることで容器等からのコンタミネーションも見られていない。XRDからMA粉末の結晶子を測定し、10ナノメートル以下の結晶子であることを確認している。 熱間押出しに対しては、350℃から500℃までの条件で熱間押出しに成功している。ただし500℃押出し試料については顕著な密度低下がみられるので500℃以上の熱間押出しはSeの昇華なども考えられるため現実的ではない。得られた試料はXRDからSnSe単相であることが確認できている。そのXRDプロファイルから得られた結晶配向性は定性的には顕著と思われた。しかしLotgering法による定量評価からは、配向因子は押出し温度ともに上昇する傾向が見られたが、(0k0)で0.1程度、(h00)で最大でも0.35であった。 キャリア濃度は押出し温度ともに上昇したが熱電材料の最適値よりも1桁低い。ゼーベック係数は昇温に伴い上昇しその後大きく低下した。押出し温度による違いはあまりないが、密度の低い500℃押出し試料では小さな値となった。電気抵抗は昇温とともに急激に低下後わずかに上昇し、低下した。熱伝導率は押出し温度が高いほど低い値を示した。押出し温度による違いはほとんど見られなかったが、350℃押出し試料のみほかの試料よりも小さな値となった。無次元性能指数ZTは測定温度とともに上昇した。押出し温度350℃試料においては最大でZT=0.62 が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
キャリア濃度が低いため、Naをドーピングすることで、キャリア濃度を調整して性能の向上を目指す。 現在、金属SnとSeを原料としてMAすることでナノメートルの結晶子を持つSnSe単相粉末の合成に成功し、熱間押出しにより緻密なバルク試料が得られているがその最大の無次元性能指数ZTは0.62と低い。 原因として考えられることは、キャリア濃度が熱電材料の最適値である2-5x1019cm-3に対して一桁以上低いことや結晶配向因子が(0k0)で0.1程度などが挙げられる。 そのため、キャリア濃度を上昇させることを考える。半導体は不純物のドーピングによりキャリア濃度の調整が可能であり、SnSeについてはNa、Pb、Bi、Br、Iなどのドーパントが報告されている。その中で、SnSeのドーパントとして実績のあるNaをドーピングする。NaはSnに対して置換するSn(1-x)Na(x)Seとし、ドーパント量としては0.5~3%程度とする。Na金属を扱うのは困難なため、Na2Seを原料としてSnとSeとともに昨年度同様にMAを行い、合金粉末を作製する。この合金粉末を用いて熱間押出しを行い、バルク試料を作製する。得られた試料に対してキャリア濃度の測定を行いキャリア濃度変化を確認する。そしてゼーベック係数、電気抵抗率、熱伝導率などの熱電特性について測定を行い無次元性能指数ZTの評価を行う。 キャリア濃度の調整には、Na以外にも、Biなどのドーピングも検討する。 結晶配向因子を上昇させる方法としては、熱間押出しをより高い温度で行うことや高い押出し比にする方法などがある。押出し温度を上げると密度が低下する。また、押出し比を上げると押出し圧力が上昇し、現状の施設では簡単ではない。また試料サイズも小さくなり試料評価が困難になるなど解決すべき問題が多く、対応は難しいと考えられるが解決策の検討も行う。
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