研究課題/領域番号 |
23K04471
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分27010:移動現象および単位操作関連
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
大橋 秀伯 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00541179)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 大気圧プラズマ / グラフト重合 / 分離膜 / 薄膜化 / プラズマCVD / 有機溶媒逆浸透 / ビニルポリマー / 有機溶媒分離 / 分離機能薄膜 / プラズマ化学気相成長 |
研究開始時の研究の概要 |
ビニルポリマーは種々のポリマー中で側鎖の占める割合が特に大きく、側鎖-分離対象分子間の相互作用を大きく取りやすいために、溶媒分離膜にとって一種の理想的な構造を持つ。一方で、ビニルポリマーは主鎖同士の相互作用が小さく、溶媒により膨潤しやすいため、ポリマーが本来持つ分離性能を引き出すことが困難であった。本研究はビニルポリマーをほぼ膨潤しない形で薄膜化することで、その分離性能を最大限に引き出すことを目指す。
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研究実績の概要 |
省エネルギーな蒸留代替技術として期待される膜分離技術において、分離膜の分離特性を改善するためには、分離能(AとBの分子をどれだけ分けられるか)と分離速度(処理速度)の両方の向上が必要となる。特に溶解拡散機構を活用する分離能の性能向上には、分離対象の分子と相互作用する官能基の密度をできるだけ大きくすることが望ましい。近年分離膜に良く使われる高分子材料は全芳香族系ポリマーであり、これは主鎖間の強い分子間相互作用を持つが故に、製膜性に優れ、溶媒による膨潤の少ない材料であるが、構造中に芳香環を多く含むため、目的官能基の密度を高くすることが難しい。一方で、高い官能基密度を持つポリマーとしてビニルポリマーやポリペプチドなどがあるが、これらは主鎖の分子間相互作用が弱く、膜が溶媒によって膨潤もしくは溶解してしまう問題が避けられない。本研究では、ビニルポリマーの高官能基密度をフルに活かせる分離膜を開発するため、これらの両ポリマーの特性を用いて、膨潤性の低い全芳香族系ポリマーの多孔質膜基材の細孔中に、高官能基密度を持つビニルポリマーを共有結合により導入・充填することで(グラフト重合の手法を用いる)、ビニルポリマーの溶媒による膨潤・溶解を高度に押さえ、溶媒に接した状態でも高官能基密度の機能を発揮できる膜の作製を行う。それと同時に、高官能基密度構造を薄膜化する技術を開発することで、分離速度も向上させる膜の作製を目指す。 本年度は特に、「分離能の向上」を目指して、ポリイミド多孔質膜中に充分量のビニルポリマーを導入する技術を開発し、これを有機溶媒の分離膜として応用し、芳香族・脂環式分子の有機溶媒逆浸透膜分離に初めて成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は大気圧プラズマグラフト重合法により、溶媒に接触してもビニルポリマーの高密度官能基構造を維持する方法として、全芳香族系ポリマーであるポリイミドの多孔質膜基材細孔中にビニルポリマーを高密度で充填する方法に関して研究を行った。大気圧プラズマグラフト重合法は、基材への大気圧プラズマ照射による開始ラジカルの導入に続いて、ラジカル重合により細孔表面からグラフト重合を行う手法である。導入するビニルポリマーとしてはスルホン酸基を持つpoly(2-Acrylamido-2-methylpropane sulfonic acid)(pAMPS)を選び、ポリイミドとしてはKaptonおよびUpilex-Sの2つの構造を用いた。研究の初期段階においてはpAMPSはどちらの基材にも数%程度しかグラフトできなかった状況であったが、大気圧プラズマの照射条件、大気曝露時間、グラフト重合の重合条件(温度やpH、添加物など)を検討することで、どちらの多孔質基材に対しても最大で70%程度のポリマーをグラフト重合することに成功し、スルホン酸基を高密度で保有し、さらに溶媒中に浸漬させても膨潤がほとんど生じない膜の作製に成功した。本膜のスルホン酸基のプロトン(H+)をリチウムイオン(Li+)に置換することで、Li+カチオンを高密度で保持した膜を作製し、カチオン-π相互作用により、トルエンをメチルシクロヘキサンから分離する膜として用い、これら両溶媒を有機溶媒逆浸透膜分離法(OSRO法)により分離を試みた。これにより、芳香族、脂環式の有機溶媒をOSRO法で分離する膜の開発に初めて成功した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は分離膜のさらなる分離能の向上を図るとともに、分離速度の高速化を図るための分離機能層の薄膜化も目指す。分離能の向上に関しては、特にグラフト重合条件において、スルホン酸基同士の静電反発を防ぎ膨潤をさらに抑える方策(高濃度塩を加える)や、少量の架橋剤を加えて内部構造で膨潤抑制を図る手法の適用を行う。また、薄膜化に関しては、プラズマグラフトに非活性な多孔質基材(アルミナなどの無機材料で、プラズマ照射により活性ラジカルが発生しない材料)の極表面付近(数十nm程度)に大気圧プラズマCVD法により、プラズマグラフト活性な官能基(アルキル基)を導入し、これを起点として、表面数十nmのみにビニルポリマーが導入される分離機能薄層を開発する。これらの膜をOSRO分離に適用し、分離能と分離速度双方を達成する膜を開発する。また、薄膜化の手法は、様々な材料の表面にグラフトポリマーを導入することを可能とする手法であり、無機材料等の表面に有機分子由来の多様な機能を組み込む手法にもなりうる。様々な材料の表面改質手法としての応用も試みる。さらに、手法の汎用化を見据え、A4サイズの大型膜を作製するための検討を行う。
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