研究課題/領域番号 |
23K04511
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分27040:バイオ機能応用およびバイオプロセス工学関連
|
研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
尾島 由紘 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (20546957)
|
研究分担者 |
東 雅之 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 教授 (20285282)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | 酵母 / 遷移金属リン化物 / コバルト / 水素発生反応 / 触媒 / 細胞鋳型 |
研究開始時の研究の概要 |
遷移金属リン化物(TMP)は,CoやNiなどのリン化物で,次世代エネルギーである水素の発生反応等で用いられる白金族の代替として注目を集めるが,微小構造の変化で触媒性能が異なり反応機構に未解明な点が多い.そこで本研究では,酵母細胞をリンの供給源としたTMP合成方法に着目する.酵母細胞に対して化学修飾もしくは遺伝子組換えを行い,リン酸やポリリン酸を高濃度で含有したリン蓄積酵母と,多重細胞壁や細胞壁脆弱性を持つ細胞壁変異酵母の2つの要素を組み合わせることで,TMPの粒子サイズや分散,結晶構造が制御された触媒である炭素複合材料の設計指針を提案する.
|
研究実績の概要 |
市販ドライイースト由来のパン酵母と、トリメタリン酸ナトリウムにより化学的な修飾を施したリン酸化酵母、遺伝子変異によりポリリン酸を蓄積するように改変したリン蓄積酵母を用いて、リン化コバルト炭素複合体を作製した。XRDで解析したところ、大部分の条件では従来の報告どおりCo2Pが生成したが、リン蓄積酵母を用いた場合のみ一部の焼成条件において結晶構造が異なるCoPが生成した。焼成時間や窒素ガスの流速について検討したところ、焼成時間が短く、窒素ガスの流速が速いほどCoPが生成しやすい傾向があった。続いてリン蓄積酵母を用いるとCoPが生成した原因が、細胞内のリン酸量が多いためであるか調べるため、パン酵母のTHF処理時にリン酸を外部から添加し焼成したところ、Co2PとCoPの混合物が生成した。この結果から、酵母細胞内のコバルトに対するリン量が一定以上になるとCoPが生成することが示唆された。ただし、外部からのリン酸の添加量を増やしても純粋なCoPは得られなかった。一方で、リン酸蓄積酵母を用いても、溶媒を純水に変更した場合はCo2Pのみが生成したことから、CoPの形成にはコバルトとリンの量比だけでなく、焼成前処理も重要であると考えられる。 続いて、作製した触媒の水素発生反応における活性を調べた。一般にLSVによる分極曲線では、低い電圧で電流が流れ始めたほうが水の電気分解が起きやすく触媒活性が高いとされる。リン蓄積酵母由来の触媒の方が、パン酵母由来の触媒よりも低い電圧で電流が流れ始めたことから、触媒活性が高かった。得られた触媒をSEMで観察したところ、リン蓄積酵母の方がリン化コバルトと思われる粒子量が多く、粒子径も大きい様子が確認された。以上の結果より、酵母を骨格とした際にリン量が一定以上になるとCoP-Cが作製され、水素発生反応用触媒として機能することが確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、酵母細胞を骨格として合成する触媒の機能を高めるため2つのアプローチを試した。酵母細胞の細胞壁を改変するアプローチでは、細胞壁を厚くした多重細胞壁を持つ遺伝子欠損株や、細胞壁が薄く脆弱化された欠損株を用いて触媒を合成したが、パン酵母と比較して、得られた触媒の結晶構造等に大きな違いは見られなかった。一方で、酵母細胞にリン酸修飾を行うアプローチでは、リン酸をポリリン酸の状態で細胞内に高濃度で蓄積するリン蓄積酵母を用いることで、これまでに報告されていないCoPの合成に成功した。さらに得られた触媒は水素発生反応において機能することを明らかした。これらの研究成果は新規性が高いものとして、特許の出願と学会での発表を行っており、予定通りに研究は進展している。今後は、CoPが合成された理由を明らかにし、さらなる高活性化を目指すと同時に、学術論文としてまとめ発表する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
まずはリン蓄積酵母を用いるとCoPが合成される機構について明らかにする。各条件で調整した焼成前サンプルに対して、ICPによりリンやコバルトの担持量を評価する。またXPSやXAFSにより、それら元素の分布や結合状態を解析することで、焼成後に得られた触媒の結晶構造と合わせて議論する。さらに得られた触媒について、導電性や窒素ガス吸着法により触媒の細孔構造を測定し、触媒活性に与える影響について考察する。続いて、得られた知見に基づき、触媒活性を向上させるために合成条件を検討する。具体的には、焼成前処理における金属イオンの添加濃度や溶媒、焼成における温度や時間などの再検討を行う。また水素発生反応以外にも種々の有害物分解反応などにおける触媒活性を評価し、新しい応用分野を開拓していく予定である。
|