研究課題/領域番号 |
23K04517
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分28010:ナノ構造化学関連
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
藤井 慎太郎 東京工業大学, 理学院, 特任准教授 (70422558)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
|
キーワード | 熱伝導性 / 自己組織化単分子膜 / SThM / 分子接合 / 走査型熱顕微鏡 |
研究開始時の研究の概要 |
分子レベルの熱特性に関する研究は、基礎的な観点に加え、エレクトロニクス、熱電エネルギー変換、熱輸送制御などの応用的な観点から盛んに研究されている。しかし、温度計測が困難なことから、分子レベルの熱電特性や熱輸送特性は実験的に明らかになっていない点が多い。本研究では、プローブ顕微鏡法を用いて、電流電圧特性、結合力などの物性値を計測することで分子-電極間の界面構造を同定し、界面構造の決定された分子接合について熱起電力と熱輸送特性を明らかにする。更に、ナノスケールの熱電特性と熱輸送特性を空間マッピングする計測法を新たに開発することで、これまで未開拓であったナノスケールにおける熱特性の解明を目指す。
|
研究実績の概要 |
単分子を介した電荷と熱の輸送に関する研究は、基礎的な単分子科学の観点に加え、分子エレクトロニクス、ナノスケールにおける熱電エネルギー変換、熱輸送制御などの応用的な観点から盛んに研究されている。しかし、微小スケールの温度計測が困難なことから、特に、ナノスケールにおける分子接合の熱電特性や熱輸送特性は実験的に明らかになっていない。近年、単分子スケールの熱伝導度が初めて決定されたが(Cui et al., Nature 2019)、その報告例はアルカンなどの分子に限定されている。分子の骨格や長さなどの構造的特徴と熱特性を関連付け、分子レベルの熱特性を理解するためには、系統的な分子群の熱計測が必要である。現状の研究動向では、分子スケールの熱伝導度の決定のみに注力されているが、分子の特徴を活かし、熱輸送を制御するためには、分子接合の構造的特徴と熱特性の相関を理解し、更にナノスケールの熱輸送特性の空間分布を可視化(イメージング)する技術の確立が必要不可欠である。 2023年度は、ジフェニルエチン誘導体(1)、n-デカンチオール(2)、ジフェニルエチン誘導体(3)、フェニルベンズアミド誘導体(4)の分子接合体の熱輸送特性を走査型熱顕微鏡(SThM)を用いて調べた。単結合、二重結合、アミド結合、三重結合など、さまざまな化学結合様式を特徴とする分子1-4を用いて、Au(111)上に2成分の自己組織化単分子膜(SAM)(すなわち、1/2、1/3、1/4の2成分SAM)の2つの別個のドメインを特徴とする線状パターンを作成した。レーザー光で局所的に加熱したSThM探針を2元SAM表面に接触させて分子接合を形成し、接触前後の探針の温度変化として分子接合の熱伝導率を測定した。分子接合の熱伝導特性は、分子の化学結合モードとパターン化二元SAMの分子間相互作用によって区別されることを実証した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、数十K程度の温度差を分子接合に与えて単分子レベルの熱起電力計測を可能な計測装置を構築し、ベンゼン誘導体、フラーレン、ヘリセンのゼーベック係数の決定に成功した。並行して、ソフトリソグラフィによる単分子膜の表面パターニングと微細加工した熱電対プローブを用いた局所温度測定を組み合わせることで、単分子膜のドメイン内の分子の熱伝導性を分子レベルで比較することに成功した。分子の局所的な熱伝導特性は、プローブ先端に取り付けた熱電対を用い、プローブ先端から分子接合部への熱輸送によって生じるプローブ先端の温度変化を測定することによって評価した。分子骨格に様々な構造的特徴を持つについて計測を行った結果、分子接合の熱伝導性は、飽和化学結合や不飽和化学結合などの構造的特徴や、水素結合などの分子間相互作用によって変化することを実証した。走査型プローブ技術とソフトリソグラフィに基づくこの方法論の汎用性を考慮すると、分子レベルでの熱伝導の系統的な探求が容易になった。その結果、ナノスケールにおける熱伝導特性を基にした材料工学の新たな可能性への道が拓かれるものと期待され、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度に確立した分子の熱電特性と熱伝導性を評価する手法を様々な構造的的特徴を有する分子に適用し、分子骨格の構造的特徴が熱物性に与える影響を系統的に明らかにする。次に、分子骨格の構造的特徴に加えて、分子と外部電極の間の界面構造が熱物性に与える影響について調査を進める。分子の金属へのアンカー基を変えることで、共有結合、配位結合、ファンデルワースル結合からなる分子‐電極間の界面構造を作製し、その熱伝導性を評価する。界面構造や分子骨格が、それぞれ熱物性に与える影響を区別しすることで、ナノスケールにおける分子接合の熱輸送特性や熱電特性の本質的な理解を目指す。また、ナノスケールでは、散乱なしにフォノンが輸送されることが予想されるため、ランダウア理論にもとづいた非平衡グリーン関数法による輸送計算を検討する。
|