研究課題/領域番号 |
23K04540
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分28030:ナノ材料科学関連
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
金崎 順一 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 教授 (80204535)
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研究分担者 |
東 純平 佐賀大学, シンクロトロン光応用研究センター, 准教授 (40372768)
木曽田 賢治 和歌山大学, 教育学部, 教授 (90243188)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | グラフェン / グラファイト / 擬2次元系物質 / レーザー光 / 構造制御 / 顕微ラマン分光 / 光電子分光 / プローブ顕微鏡 / レーザー光加工 / 走査プローブ顕微鏡 |
研究開始時の研究の概要 |
グラフェンは、炭素原子による2次元原子層物質である。その特異な物性は原子層数に強く依存するため、原子層レベルで膜厚を精密制御する手法の開発が極めて重要である。本研究では、炭化シリコン(SiC)基板の熱分解によりその表面にエピタキシャル成長させた多層グラフェン薄膜を対象とし、1)光励起法によるグラフェン原子層の剥離現象を利用し、単原子層レベルで膜厚を超精密制御する技術基盤を確立すると共に、2)膜厚を精密制御したナノ構造体の創製・組織化により新たな物性を発現することを目指す。 更に、本手法を多様な2次元物質系の構造制御に応用し、新たな基礎研究領域の開拓及び産業応用分野への研究展開を諮る。
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研究実績の概要 |
レーザー光によるグラフェン原子層数の制御に関して、顕微ラマン散乱分光及び放射光内殻光電子分光法を用いて研究を推進した。励起光の強度・偏光及び照射回数等の励起条件を変化させて照射した数層グラフェン薄膜に対して、グラフェンに由来する2Dラマンピークの強度及び形状変化の空間分布と、励起光ビームプロファイルを関連付け、局所的な励起強度と膜厚との相関、繰り返し照射による薄膜化過程を明確にした。更に、同じ試料について内殻光電子分光測定を実施し、励起条件に対する平均のグラフェン原子層数の変化を定量評価した。これらの測定を通して、光励起による薄膜化効率と励起強度及びグラフェン原子層数との相関を明確にした。 上述の研究と並行して、グラフェン原子層が多層積層したグラファイトに対する光励起効果をトンネル顕微鏡(STM)を用いて直接観察した。グラファイトをフェムト秒レーザーにより励起すると、隣接するグラフェン原子層間においてsp3結合を形成し、新しい周期構造を有する準安定構造相への相転移が誘起される。今回、この相転移の過程を原子論的に理解するため、パルス照射回数による表面構造の変化をSTM観察し、グラファイトにおける相転移が、1)単原子サイトにおける核構造の形成、2)新構造相の周辺領域への成長、3)せん断ひずみを伴い、ナノスケールダイヤファイト相へと成長する、ということを明確にした。更に、核形成及び新構造相の成長が異なる波長依存性を示すことを明らかにし、光による新構造相の制御に関する有益な知見を得た。 研究の進展に伴い、次年度に計画している局所表面プラズモン共鳴による電場増強効果を利用したナノ加工技術への展開に向けて、金ナノ微粒子をスパッタ蒸着したグラファイト試料の準備や金微粒子付着グラファイト試料の光照射効果に対する予備的研究を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題は、擬2次元物質系における光励起効果の特徴及び光による構造制御を最終的な目的としている。研究初年度においては、炭素原子から成る擬2次元原子層物質であるグラフェンに着目し、レーザー光による励起効果を明確にすると共に、原子層数の精密制御に向けた基礎的知見を得ることを目的とした。これまでの研究により、光励起によりグラフェン多層膜が薄膜化することを明らかにしたことに加え、グラフェン膜の薄膜化効率を定量化し、局所励起密度及び膜厚との相関を明確にした。これにより、当初計画していた初年度の目的はほぼ達成することができた。 初年度に計画した成果をほぼ達成できたことに加え、グラフェンの積層物質であるグラファイトについて、光励起により誘起される新規構造の成長素過程に関する直接的な知見を得ることに成功し、その成果は科学ジャーナル誌に掲載された。更に、当初次年度に計画していた表面プラズモン励起によるナノ構造制御に向けて、金ナノ粒子を分散させたグラファイト試料の作成や、その光励起効果についてのラマン散乱分析などに関する予備実験に取り掛かることができた。 以上のことから、当初の計画以上に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度については、光励起効果の空間制御に向けて2つの研究を中心に推進する。第一に、励起光を走査することにより大面積・均一膜厚グラフェンの創製を目指す。初年度の知見に基づいて、励起条件を最適化し、所望の膜厚の大面積グラフェン膜を作成する。第二に、1)金ナノ粒子を分散させたグラファイトへの光励起、あるいは、2)STM探針を接近させたグラフェン多層膜への光励起、を行うことにより、局在表面プラズモン共鳴に伴う電場増強効果を利用したナノスケール極微空間励起を実現する。1)では、スパッタあるいはディップコートにより金ナノ粒子をグラファイト表面に分散させ、光励起前後の試料を顕微ラマン分光及びトンネル顕微鏡により分析し、両手法による金ナノ粒子の分布の相違が光励起効果へどのような影響を与えるかを明らかにする。金ナノ粒子周辺の局所空間において結合変換を誘起させ、局所的にダイヤモンド化したナノ構造体を創製する光ナノ加工技術の開発を目指す。2)の手法では、光励起時の探針位置を表面上で制御することにより、膜厚(原子層数)を精密空間制御されたナノ構造体の組織化に向けた技術基盤の構築を目指す。 最終年度には、大面積・均一膜厚及び局所的に膜厚を制御されたグラフェン膜及びナノ構造体を組織化したグラフェンに対して、水素原子を付加して界面Si-C結合切断及びSi原子結合の水素終端化をおこない、擬自立グラフェン膜の創製を目指す。水素ガス導入量と暴露する時間で水素付着量を調整し、グラフェン膜擬自立構造の創製に必要な水素付加条件を最適化する。更に、炭素系擬2次元物質に用いた光誘起構造制御法を、ポストグラフェン物質群や遷移金属ダイカルコゲナイド等他の2次元物質系に応用し、2次元物質系一般を対象にした基礎・応用研究への展開を諮る。
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