研究課題/領域番号 |
23K04565
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29010:応用物性関連
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
戎 修二 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (10250523)
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研究分担者 |
宮崎 正範 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 助教 (30634357)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2026年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 希土類硫化物 / 巨大物性応答 / 電気抵抗率異常増減 / 磁化容易軸 / 磁気ドメイン / 準安定状態 / 一軸圧力 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、筆者らは直方晶系α-R2S3 (R = Sm, Dy)における狭温度域での電気抵抗率の1000倍にも及ぶ異常増減を発見し、これは希有な巨大物性応答現象として注目されるが、その発現機構は未解明である。一方で磁化容易軸の奇妙な交錯やある条件下での交換、導電性との密接な関連性もあり、この現象がR3+の二種の結晶場基底状態の混在に起因すると考えている。本研究は、所望の磁化容易軸単結晶を選択的に成長させる育成条件を確立するとともに、磁化容易軸と特異物性との関連性を解明し、各種ミクロプローブを用いて発現モデルの正当性を検証することを目的とし、さらにはこのデバイス展開の可能性を探究する。
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研究実績の概要 |
昨年度は、以下に示すように3化合物について重要な知見が得られた。 ・α-Dy2S3:気相化学輸送法による単結晶育成時に用いる輸送剤の量を変化させ、結晶成長時の圧力が磁化容易軸に及ぼす影響について検証したが、輸送剤量による依存性は見られなかった。しかし輸送剤量を従来の1.5倍にすることにより、育成単結晶のサイズアップに成功し、今後の研究遂行の上で非常に有効な知見が得られた。一方で、従来の輸送剤量で同一育成バッチ中に磁化容易軸が異なる単結晶が混在して得られた。この育成期間中に、電気炉のトラブルで2度育成を中断して室温まで冷却した経緯があり、これが影響した可能性を現在検討している。反強磁性転移温度TN2の直上における電気抵抗率異常増減現象と磁化容易軸との関連については、今回の育成単結晶の電気抵抗率が極めて高いことにより、確認できなかった。 ・α-Sm2S3:磁化容易軸の交錯に及ぼすアニール効果について調べた。アニールにより、弱強磁性温度TC1直上における磁化率のピークはa方向、c方向ともに増大したが、磁化容易軸の交換は起こらなかった。また、c-easy試料とa-easy試料の電気抵抗率について直流四端子法を用いて詳細に調べた結果、電気抵抗率の異常増減現象が105という極めて大きいスケールで起こることが明らかになった。さらに室温において、ac面内での電気抵抗率は磁化容易軸の方が困難軸より2桁程度小さいことも明らかとなった。これらの成果に関して、論文投稿の準備中である。 ・α-Ce2S3:これまで存在が知られているα-R2S3 (R = La, Ce, Pr, Nd, Sm, Gd, Tb, Dy)のうち、R = La, Ceに関しては、粉末試料の合成は多相試料中にできるものの、単結晶化には成功していなかった。今回、育成温度を下げることで単結晶化に成功し、研究の裾野が広がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在の進捗状況は、若干遅れている。 理由の一つは単結晶育成温度勾配炉の不調により、度々単結晶育成が中断したことである。α-Sm2S3とα-Dy2S3について、条件を変えながら多くの単結晶を育成し、磁化容易軸の異なる試料を得る予定であったが、実験量が少なく満足のいく育成仕分けができていない状況にある。現在、電気炉不調の原因が特定され、この問題は解決している。 もう一つの理由は、申請経費で購入した雰囲気可変電気炉を用いた熱処理では、十分な酸化抑制が行えなかったことである。ガス置換と真空化による数種の条件で実験を行い、酸化が少ない手法は分かったので、他の金属を還元剤として用いることによって試料の酸化を抑制し、簡便に多くの条件での熱処理を行い、アニールと磁化容易軸との関係性について明らかにしていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の結果を踏まえて、今後は次のような方策で進める。 ・α-Dy2S3:輸送剤量を従来比1.5倍とし、サイズアップした単結晶試料を複数の条件で育成し、磁化容易軸が異なる単結晶試料を得る。その後、磁化容易軸とTN2直上での電気抵抗率異常増減現象との関連性について精査し、α-Sm2S3で得られている結果と比較し考察する。またサイズアップにより、ゼーベック効果も測定しやすくなると考えられるため、電気伝導のキャリアについて明らかにする、また、各種輸送現象と磁化容易軸との関連性についても調査する。磁化容易軸の交錯が、反強磁性体中における磁気ドメインに由来するものという着想を昨年得たので、これを強磁場中冷却等の手法により検証する。また、室温での電気抵抗率の異方性について精査し、α-Sm2S3の場合と対比して考察を進める。 ・α-Sm2S3:磁場中冷却時のTC1近傍での交流磁化率について調べ、α-Dy2S3のTN2近傍で見られる磁化率虚数成分の周波数に鋭敏なピークと同様の現象が発現するかどうかを検証する。同様の現象が確認できれば、この現象と電気抵抗率の異常増減現象に強い相関が認められることになるので、その機構について考察する。他のα-R2S3では磁化率虚数成分に顕著な効果が本当に見られないのかということについても、丁寧に調べ上げる。 ・α-Ce2S3:昨年単結晶化に成功したので、サイズアップした良質の単結晶を育成し、磁化と電気抵抗率の基礎データを測定し、まとめる。特に、この化合物において電気抵抗率の異常増減現象が見られるか否か、また磁化容易軸に交錯が見られるかどうかについて注目して調査する。 ・一軸圧印加:一軸圧の載荷と磁場印加による磁化容易軸の交換現象について更なる実験を重ねるために、微量ポンプ付き油圧プレス器を購入し、予備実験を行う。
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