研究課題/領域番号 |
23K04573
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29010:応用物性関連
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
米田 安宏 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (30343924)
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研究分担者 |
和田 智志 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (60240545)
西田 貴司 福岡大学, 工学部, 教授 (80314540)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
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キーワード | 強誘電体 / 放射光 / ガラス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究開発は, 単相化の困難な強誘電体材料の高品位化のためにガラス構造を導入し、局所構造と電子状態観察を併用した構造モデリングの精密化を実現することを目的とする。すなわち、(1)ガラス構造を導入したビスマス、バリウムを含有するペロブスカイト系強誘電体の作製, (2) 放射光を用いたミクロ構造評価, (3) 放射光を用いた電子構造評価によって、ガラス構造を内包するセラミックスのキャラクタリゼーション, の各項目からなる。
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研究実績の概要 |
令和3年度は圧電振動子として既に実用化されているチタン酸ビスマスナトリウム(Bi0.5Na0.5TiO3)とチタン酸バリウム(BaTiO3)の固溶体に関する放射光実験を行い、高エネルギーX線回折実験から得られる平均構造と局所構造に加え、X線吸収微細構造や軟X線蛍光分光で得られる金属イオンや酸素イオンの化学結合状態を観測し、両者の関係性を見出す事に注力した。Bi0.5Na0.5TiO3はビスマスとナトリウムのイオンサイズが小さいことから大きな菱面体晶ひずみを有していながら分極反転に大きな抗電場を必要としていた。BaTiO3と固溶体を形成することで圧電特性が大幅に改善される。我々はBi0.5Na0.5TiO3がBaTiO3と固溶体を形成すると、Naが本来の位置から変位している事を見出した。また、従来はイオン性結合であると考えられてきたナトリウムが周辺の酸素と混成している事を実験的に明らかにすることができた。ナトリウムは本来の安定位置からシフトするが、酸素との混成状態を変化させることで構造を安定化させていると考えられる。絶縁性が高くイオン性結晶で構成されていると考えられてきた酸化物強誘電体において初めてアルカリ金属と酸素の混成を明らかにすることに成功した。 我々は、絶縁性物質の放射光分光実験が非常に少ないことから、強誘電体を中心に軟X線領域の発光分光で得られるスペクトルのデータベス化に取り組むこととした。そのため、本来次年度から行う予定であった軟X線分光用のサンプル調整に必要な器具を本年度中に入手する必要が生じたため、前倒し執行を行い、真空中でサンプルを粉砕・調整ができるようにした。 また各種の分光実験でニオブのK吸収端でのXAFS実験で非常に良いスペクトルが得られることがわかったため、ニオブ系酸化物強誘電体についても順次、構造解析と電子構造分析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和3年度はチタン酸ビスマスナトリウム(Bi0.5Na0.5TiO3)とチタン酸バリウム(BaTiO3)の固溶体とタングステンブロンズ型ニオブ酸バリウムカルシウム(Ba,CaNb2O6)の局所構造解析を行う予定であった。Bi0.5Na0.5TiO3-BaTiO3固溶体に関しては、ABO3型ペロブスカイト構造のAサイトをイオンサイズや価数の異なるBi, Na, Baの3つの異なるイオンが占有するランダムネスに富んだ組成がガラス的な構造を形成し特異なドメイン構造によって圧電特性を向上させると考えていたが、乱れた構造は基本的に不安定であるため、その安定化構造を突き止めることが課題であった。放射光高エネルギーX線回折実験と2体相関分布関数(pair distribution function)を用いた局所構造解析によってBi0.5Na0.5TiO3のAサイトイオンと酸素との結合距離が大きく変化することを見出した。金属イオンと直近の酸素との結合距離の変化は酸素との化学結合状態の変化を示唆するため、金属イオンと酸素との混成状態の変化を直接的に観察する必要が生じた。そこで当初は次年度に実施する予定であった軟X線発光分光実験を前倒しして実施することとした。軟X線発光分光は酸素の内殻電子の状態を直接観測することができるだけでなく、ナトリウムの電子状態も観測することができるため、Bi0.5Na0.5TiO3のBaTiO3置換による電子状態の変化を見出すための強力なツールとなる。 また、タングステンブロンズ型強誘電体(Ba,Ca)Nb2O6の構造解析も順調に進んでおり、空孔含有型の結晶構造に乱れが生じ、ガラス的な構造となる組成を発見し、現在この組成について詳細な構造解析を実施中である。
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今後の研究の推進方策 |
軟X線蛍光分光実験を一年前倒しで開始したが、当初の研究計画も順調で、チタン酸ビスマスナトリウム(Bi0.5Na0.5TiO3)のチタン酸バリウム(BaTiO3)との固溶体の局所構造解析は終了しており、軟X線発光分光で得られた酸素とナトリウムの混成の結果とともに既に論文発表を行った。また、タングステンブロンズ型(Ba,Ca)Nb2O6の局所構造解析もデータコレクションを終え現在解析中である。 研究内容の最も大きな変更点は、今後はニオブ系の酸化物強誘電体を優先して実験を実施することである。今年度に取り組んだタングステンブロンズ型強誘電体の(Ba,Ca)Nb2O6にはニオブが含まれており、局所構造解析の一環として取り組んだX線吸収微細構造(X-ray absorption fine structure, XAFS)でNb-K吸収端で測定したところ、非常に良いデータを得ることができた。これは実験を実施した大型放射光施設SPring-8では臨界エネルギーが21keVでニオブの吸収端エネルギーに近く、良いS/N比でデータを取得できるためである。SPring-8は2027年度より蓄積リングの改修作業が行われ、 約1年間の停止後は臨界エネルギーを下げて運転が行われる。そのため、Nb-K吸収端測定では現在のようなS/N比の良いデータは改修後には得られなくなる。また、ニオブ系酸化物強誘電体を合成する際の原料となる酸化ニオブ(Nb2O5)は安定なアモルファス構造を形成するため、合成法に応じてバラエティーに富んだ酸化物固溶体を形成するため、本研究テーマとも合致している。以上の理由から、今年度のタングステンブロンズ型酸化物強誘電体に引き続き、ペロブスカイト型酸化物強誘電体においてもニオブ系の材料に取り組んでいく予定である。
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