研究課題/領域番号 |
23K04579
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
一色 弘成 東京大学, 物性研究所, 助教 (80812635)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2024年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2023年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
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キーワード | 磁気イメージング / 反強磁性体 / 原子間力顕微鏡 / 異常ネルンスト効果 / 熱電効果 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、原子間力顕微鏡を用いた新しい磁気イメージング手法の開発する。探針を試料に接触させることにより局所的な温度勾配を作り、異常ネルンスト効果で生じる電圧を試料両端の電極で検出する。この電圧は、試料の磁化の向きに応じて変化する。接触モードでスキャンしながら、異常ネルンスト電圧を試料内部でマッピングすることにより試料の磁気像を得ることができる。これにより、非常に簡易的に高空間分解能な磁気像を得ることができると期待される。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、原子間力顕微鏡(AFM)の探針をサーマルアンカーとして用いて磁性体試料の局所の異常ネルンスト効果の測定する新手法を開発である。これを新たな磁気イメージング法として確立し、トポロジカル反強磁性体の磁気分極観察を行うことを狙って研究を行った。 初年度は、探針と試料に温度差をつけるために、試料の真横にヒーターを作製して実験を行った。約80 nmの空間分解能で、強磁性体パーマロイの磁気像が取得できることをデモンストレーションした。本手法では、異常ネルンスト効果のほかに、非磁性のゼーベック効果の信号も検出されることがわかった。磁気的信号をマッピングするためには、ゼーベック効果の信号を取り除かなければならない。磁化を完全に反転させて2つの磁気像を取得し、それらの差分を取ることにより、これを実現できることを明らかにした。また、探針と試料表面の熱輸送モデルを構築し、探針接触により誘起される温度勾配を見積もった。見積もられた温度勾配と実験で得られた信号を比較することで、パーマロイの横ゼーベック係数としてリーズナブルな値を得ることができた。 さらに、トポロジカル反強磁性体に本手法を適用して、その磁気多極子ドメインを可視化することに成功した。機能性反強磁性体を集積化するために、ナノ細線の磁気多極子ドメインの振る舞いは極めて重要な情報である。従来の方法では測定対象の制限や低い空間分解能の問題があったが、本研究によってトポロジカル反強磁性体に対する簡易的で有効な新しい磁気イメージング法を確立することができた。測定はナノ細線に対して行われ、初期状態と残留状態の磁気多極子ドメインの分布像を得ることに成功した。残留状態でもナノ細線の短手方向を向いた磁気多極子が存在することがわかった。これは、漏れ磁場の小さい反強磁性で予想される通りの結果であるが、本研究で初めて直接的に実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究を遂行する過程で、本手法は当初の予想を超える汎用性を持つことがわかった。比較的異常ネルンスト効果の小さいパーマロイでも、再現性良く簡単に磁気像を得ることができる。本手法の容易さに起因して、初年度のうちにトポロジカル反強磁性体の磁気分極の観察に成功した。これはトポロジカル反強磁性体に対する磁気イメージングのための新しい手段であり、著しい成果であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
すでに研究計画以上の成果を上げることができたと考えている。そこで今後は以下のように、本手法をより汎用化するための研究を遂行したい。 ①実験環境の最適化: すでに再現性の良い磁気イメージングを実現しているが、実験を行う環境(温度・湿度)をコントロールすることで、最適化を行う。また、初年度はヒーターを試料の真横に配置して実験を行い、本手法を実現した。しかし、S/Nを改善するためには、より効率的に温度勾配を作る必要がある。ヒーターの位置を検討して、これを実現する。 ②異常ネルンストサーモパイルへの適用: 異常ネルンストサーモパイルによる熱電変換が注目を集めている。本手法を用いることで、サーモパイル内部の発電機能を可視化することができる。これまでは不可能だった測定を行い、異常ネルンストサーモパイルの可能性を新たな視点から研究する。 ③垂直磁化膜に対する測定:これまでは、面内を向いた磁気分極を検出することに重点を置いていた。しかし、例えば近年盛んに研究されるスピン軌道トルク磁化制御は、垂直磁化膜に対して行われることが多い。そのため、面直を向いた磁気分極検出にも対応できるように、本手法の改良を行う。ナノ細線の端に探針を接触させると面内方向の温度勾配が誘起できるため、面直磁気分極は検出可能である。これにより、より多くの物質群に対して測定が行えるようになると考えられる。 ④トポロジカル反強磁性体の磁壁構造観察: 初年度の反強磁性体観察は多結晶試料に対して行われた。多結晶試料では、その磁壁は結晶粒を跨いで成長することができないと考えられる。そこで、単結晶試料に対して測定を行い、理論的に予想されているトポロジカル反強磁性体の特異な磁壁構造を観察する。
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