研究課題/領域番号 |
23K04587
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 日本工業大学 |
研究代表者 |
伴 雅人 日本工業大学, 基幹工学部, 教授 (70424059)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | マイクロプラスチック / ナノプラスチック / ダイヤモンド状炭素 / 神経細胞 / 曝露 / 毒性 / ダイヤモンドライクカーボン / 神経系細胞 / 長期間曝露 / 極低濃度曝露 |
研究開始時の研究の概要 |
プラスチックゴミが砕かれてできたナノプラスチックの人の脳・神経への影響調査は、緊急を要する重要な課題である。本研究では、ダイヤモンド状炭素(DLC)薄膜成膜技術を応用した培養神経系細胞からなる「ニューロン基板」にて、極低濃度で長期間ナノプラスチックを曝露する試験を行い、実際のヒト脳組織が晒されている条件に可能な限り近い環境下において、ナノプラスチックがヒト脳神経系にどのようにどれくらい影響するか調査する。
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研究実績の概要 |
本研究では、申請者がダイヤモンド状炭素(DLC)薄膜成膜技術を応用して開発した、大脳皮質の典型的なネットワーク構造を模倣した神経系細胞からなる「ニューロン基板」にて、極低濃度で長期間ナノプラスチックを曝露する試験を行い、より実際に近い環境にて、ナノプラスチックは、どれほどの量が曝露されると神経系細胞のどのような機能にどれ程の変化をもたらすのか、また、神経系細胞のどこに蓄積していくのか、を明らかにすることを目的としている。 当該年度は、DLC薄膜の成膜条件を変化させ、ナノプラスチックの極低濃度曝露での評価を行うために必要な神経系細胞の長期間培養に関し、より最適な構造となる「ニューロン基板」を作製するための実験を実施した。4パターンのDLC薄膜成膜基板にて神経系細胞(SH-SY5Y細胞)を3週間まで培養することにより、「ミニ円柱」・「機能円柱」を模倣するニューロンネットワーク構造から、さらに長期培養することで、ロープ状の軸索束(長さ数mmで約20μm径)がほぼ等間隔で配列する特異な構造が形成されることを明らかとした。そして、培養日数による軸索と細胞体の経時変化から、免疫蛍光染色画像を追跡することにより、このような構造が形成されるメカニズムの推定を行った。また、ディッシュにて培養された神経系細胞について、極低濃度から高濃度の範囲でポリスチレンナノ粒子の曝露試験を、1週間の範囲まで行った(既報では24時間)。その結果、高濃度では既報を再現し細胞数の明らかな減少が見られ、また、中濃度でも1週間まで曝露されると軸索が切断されること、極低濃度では画像解析を行なっても1週間の期間では曝露なしと明らかな差異は見られないこと、が判明した。 結果についてまとめ、国内の学会にて2件、国際会議にて2件の研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度は、ナノプラスチックの神経系細胞への極低濃度・長期間曝露評価に対し、より最適な構造となる「ニューロン基板」を作製するためのDLC薄膜成膜基板の条件出しを行い、合わせて、一般的な培養条件(ディッシュによる培養)にて極低濃度から高濃度のナノプラスチックの曝露試験を行うことによって、極低濃度では1週間の期間では曝露の影響が見られないことを明らかにした。 これにより、神経系細胞としてSH-SY5Y細胞を使用した場合、DLC薄膜のパターニング成膜基板を用いると、培養期間によってニューロンネットワークにどのような変化が見られ、どのような構造となるのか、が判明した。その構造変化は、3週間で、予想を上回るほど劇的であり、ロープ状軸索束形成の新たな発見はできたものの、細胞は「ミニ円柱」・「機能円柱」の模倣から外れた構造となった。そのため、1年目に計画をしていたナノプラスチックの長期間曝露によるニューロンネットワーク機能(軸索の長さ・太さ・断裂の程度、軸索密度およびシナプス密度、神経伝達物質や酸化ストレスへの影響)の評価を実施することができなかった。また、ディッシュによる培養では、ナノプラスチックの極低濃度での曝露の影響は、1週間では観察されていないことから、DLC薄膜を用いた「ニューロン基板」においても大きな違いは見られない可能性があった。 従って、計画をしていた「ミニ円柱」・「機能円柱」を模倣した「ニューロン基板」において長期間での曝露評価を行うためには、構造の経時変化がある程度緩慢となる培養方法・条件を探す必要があることが、当該年度の課題として挙げられた。
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今後の研究の推進方策 |
以上述べたように課題として挙げた培養方法・条件の探索を、第1に実施する。これには、2つの施策を考えており、1つは、培地の調整であり、さらに1つは、流動培養である。 当該年度においては、DLC薄膜成膜基板による培養と一般的なディッシュ培養で、同じ培地を使用した。これはSH-SY5Y細胞のニューロンへの分化を促進する培地として推奨される組成のものであり、その一成分としてレチノイン酸が含まれる。分化のスピードを調整し、ネットワーク構造がなるべく長い期間維持されるように、パラメータとしてこのレチノイン酸の添加濃度を変更した実験を行う。また、培地の交換の頻度もパラメータの一つになると考える。 もう一つの施策である流動培養については、マイクロ流体チップの技術(当研究室にて保有)を応用し、当該年度に実施した静置環境ではなく、流動環境にて「ニューロン基板」のネットワーク構造の変化を評価し、長期間の培養ができる条件出しを行う。 以上のような施策により「ニューロン基板」にて長期培養が可能となった後、2024年度は、ナノプラスチック(蛍光標識ポリスチレンナノ粒子の懸濁液)を添加した培地にて、できる限り長い期間(目標2ヶ月)まで曝露試験を行う。比較として中濃度から極低濃度で行い、ニューロンネットワーク機能(軸索の長さ・太さ・断裂の程度、軸索密度およびシナプス密度、神経伝達物質や酸化ストレスへの影響)の評価に加え、ナノプラスチックの蓄積(残留)箇所の評価を実施し、どのような機能変化がどれくらいの曝露量(濃度×時間)で生じるかを見出す。この結果をフィードバックし、2025年度は、ミクログリアとの共培養にて、ナノプラスチックの曝露を行い、免疫機能の評価まで実施する。
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