研究課題/領域番号 |
23K04608
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分30010:結晶工学関連
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
西川 博昭 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (50309267)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2026年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | シワ構造 / 伸縮デバイス / ウェアラブルデバイス / 遷移金属酸化物 / エピタキシャル薄膜 |
研究開始時の研究の概要 |
【背景】脆性材料BaTiO3エピタキシャル薄膜(BTOエピ薄膜)をポリマーシートに転写する過程で、「エピ薄膜のシワ構造形成」を発見した。シワ構造を平板状へ復元できればゴムのように伸縮するエピ薄膜が創製でき、生体に密着性するウェアラブルデバイスへの応用が期待される。 【目的】いつ・どこから・どのようにシワ構造が形成されるか、結晶工学的状態との関係を理解し、平板状へ復元可能なシワ構造を実現する。 【方法】シワ構造形成過程において、表面の凹凸・欠陥に伴う歪みなどのその場観察手法を確立する。その結果と結晶工学的状態を比較し、ゴムのように伸縮するBTOエピ薄膜の実現を目指す。
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研究実績の概要 |
MgO(100)単結晶上にエピタキシャル成長させた脆性材料BaTiO3薄膜(BTOエピ薄膜)に白金薄膜を積層してフレキシブルなポリマーシートに接着し、全体をリン酸水溶液に浸漬することでMgO(100)単結晶のみを溶解させて除去する。これによりBTOエピ薄膜は、ポリマーシートに転写されてフレキシブル化される。転写されたBTOエピ薄膜表面には巨大なシワ構造が高密度に形成され、全体が収縮することを研究代表者が発見した。本研究では、もとは平板状であったBTOエピ薄膜が示す巨大シワ構造形成とそれに伴う収縮を、伸張応力によって「ゴムのように伸縮するBTOエピ薄膜の創製」に応用することが目的である。研究計画において2023年度は、①BTOエピ薄膜の転写におけるシワ構造形成過程の光学顕微鏡によるその場観察、②転写されたフレキシブルなBTOエピ薄膜の強誘電特性の評価、の2点を予定していた。 ①については、500倍の高解像観察が可能な対物レンズと、微分干渉像(表面の凹凸を詳細に観察)・偏光像(結晶歪みを詳細に観察)を観察可能な微分干渉ユニットを本研究の予算にて導入し、リン酸水溶液中でMgO(100)単結晶が溶解するときの様子、およびその際のBTOエピ薄膜/MgO(100)単結晶界面をリアルタイムでその場観察することに成功した。現状では、BTOエピ薄膜がMgO(100)単結晶と接合している、すなわちMgO(100)単結晶が溶け残っているときにはBTOエピ薄膜にシワ構造が形成されず、MgO(100)単結晶が完全に溶解したとき、速やかにシワ構造が形成されることを確認した。 ②については、PETシートに転写したフレキシブルなBTOエピ薄膜の強誘電特性を測定することに成功し、明確な分極-印加電場ヒステリシス曲線を得ることができた。 以上の通り、予定していた研究が順調に進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の予算で導入した光学顕微鏡用パーツを用い、リン酸水溶液中でMgO(100)単結晶が溶解するときの様子、およびその際のBTOエピ薄膜/MgO(100)単結晶界面をリアルタイムでその場観察することに成功した。MgO(100)単結晶が溶け残っているときはBTOエピ薄膜にシワ構造が形成されず、完全に溶解したときにシワ構造が形成されることを確認した。MgO(100)単結晶と強固に接合しているときはBTO結晶格子がエピタキシャル関係によってMgO結晶格子にロックされていると考えられる。BTOエピ薄膜表面に形成される巨大シワ構造および全体の収縮は、BTO結晶格子がMgO結晶格子から受けるエピタキシャル歪み(約+5.23%)の開放による格子緩和と考えている。これが正しければ、エピタキシャル歪みを持つ他の組み合わせでも同様な巨大シワ構造が形成されるはずである。実験してみたところ、水溶性犠牲層Sr3Al2O6を用いたアナターゼTiO2の転写(エピタキシャル歪み約+4.6%)においてもよく似たシワ構造がみられた。遷移金属酸化物のエピ薄膜をゴムのように伸縮する挑戦の核である巨大シワ構造の形成に、エピタキシャル歪みがカギであることを示すことができ、当初の計画通り順調に研究が進んでいるといえる。 また、自作のSawyer-Tower回路を用いてPETシートに転写したフレキシブルなBTOエピ薄膜(膜厚約200 nm)の強誘電特性を測定した。直径0.5 mmの白金パッドを上部電極として使用し、測定周波数1 kHzにおいて約15 uC/cm2の残留分極を持つ明確な分極-印加電場ヒステリシス曲線を得ることができた。BTOの重要な機能性である強誘電特性を保った転写に成功したことから、機能性酸化物の伸縮デバイスに貢献可能な成果として、当初の計画通り順調に研究が進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の成果として、MgO(100)単結晶が溶け残っているときにはBTOエピ薄膜にシワ構造が形成されず、MgO(100)単結晶が完全に溶解したとき、速やかにシワ構造が形成されることを確認した。2024年度には、MgO(100)面の溶解中に溶解速度が位置によって異なる点について、MgO単結晶の結晶欠陥位置が溶解速度に与える影響を調べたい。これには2023年度に導入した微分干渉ユニットが有効であると考えている。光学顕微鏡を用いた偏光観察により、結晶欠陥のない位置と比較して結晶欠陥付近では溶解速度や溶解の様子がどのように違っているか、結晶工学的に理解を進める。 また、当初の計画において2024年度に予定していた、BTOエピ薄膜にシワ構造を形成する圧縮歪みの起源を解明する研究を進める必要がある。現在のところ、MgOリン酸エッチングに伴ってBTOエピ薄膜がMgO(100)単結晶から受けるエピ歪み(約5.23%の伸張歪み)解放がBTOエピ薄膜に対する圧縮応力の起源と考えている。そこで、BTOエピ薄膜に多様なエピ歪み(符号、すなわち伸張/圧縮、および大きさ)を与えるバッファ(例えばCaTiO3はa軸長0.382 nmなので、BTOエピ薄膜は約4.45%の圧縮歪みを受ける)をMgO上に積層し、その上にBTOエピ薄膜を成長させた試料に対して、転写に伴うMgO(100)単結晶の溶解に際して起こるシワ構造形成過程の変化を光学顕微鏡(微分干渉像、偏光像を含む)を用いたその場観察によって調べ、圧縮応力の起源を解明する。その結果をもとに、圧縮応力によるシワ構造の密度向上を検討する。
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