研究課題/領域番号 |
23K04628
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分31010:原子力工学関連
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
立花 優 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (40634928)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 黒ボク土 / フミン酸 / イライト / 放射性物質汚染土壌 / セシウム / イオン交換 / 分解 / オゾン / 粘土層間 / 拡幅・破壊現象 / 化学除染 |
研究開始時の研究の概要 |
水溶液中の多種多様な放射性核種を除去するための有機複合吸着材の開発中に、オゾンには粘土鉱物と金属イオンの水和環境を劇的に変化させる能力がある可能性を初めて見出した。放射性物質汚染土壌の除染に適用した結果、除染率がほぼ100%に達することがわかった。しかしながら、どの元素がどれくらいの程度で、どのような吸着機構を経て粘土鉱物に取り込まれ、そして、それらの元素から、どの元素がどの程度で、どんな脱離機構を経て粘土鉱物から溶出するのか理解できていない。溶存オゾン存在下における粘土鉱物の構造変化とその機能、及び放射性核種の移行挙動とその溶存・保持形態に関する研究を通してこの不思議な科学現象を解明する。
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研究実績の概要 |
0.0003ー3 MのHCl水溶液を使って黒ボク土に含まれる金属元素の侵出試験を行った結果、主として、Al、Si、Fe、Mg、Ca、Baが溶出することがわかった。また、同じHCl濃度範囲で行ったフミン酸に含まれる金属元素に対する侵出試験では、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Fe、Al、Siの溶出を確認した。さらに、同様の侵出試験を粘土鉱物(イライト)に対して行った結果、K、Mg、Ca、Al、Si、Feの溶出が確認できた。EDX分析の結果からも、黒ボク土、フミン酸、イライトには、Fe、Al、Siが含まれていることがわかった。以上の結果から、黒ボク土、フミン酸、イライトには、Csがほとんど含まれていないことがわかった。次に、Csに対する黒ボク土、フミン酸、イライトの吸着挙動について調べた結果、1時間以内で吸着平衡に達することがわかった。しかしながら、これらの系にオゾンを添加すると、黒ボク土、フミン酸、イライトへのCsの取り込みが大幅に抑制されることがわかった。Csと土壌との間の吸着脱離機構を把握するため、黒ボク土をフミン質(フミン酸)および粘土鉱物(イライト)に分け、初めに、アルカリ金属元素(Li、Na、K、Rb、Cs)およびアルカリ土類金属元素(Mg、Ca、Sr、Ba)に対するフミン酸のイオン選択性を評価した。結果として、アルカリ金属イオンに対しては、Cs、Rb、K、Li、Naの順に選択性が低下し、アルカリ土類金属に対する選択性は、Ba > Sr ≒ Ca > Mgとなることがわかった。イオン半径が大きくなるにつれてイオン選択性が向上したことから、フミン酸が持つOH基やCOOH基とCsとの間でのイオン交換がキーポイントであることがわかった。つまり、オゾン添加によるCs汚染土壌の除染促進機構の一つは、オゾンによるフミン酸のイオン交換基の分解反応に起因していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
補助事業期間中に下記の3つの課題を解決する計画である。 課題1. オゾンはなぜ土壌中に取り込まれた放射性核種(Cs(I)、Sr(II))を水溶液側に移行させるのか。 課題2. 海水など、極端に塩濃度が高い環境でも問題なくオゾン処理による土壌からのCs(I)とSr(II)の除染は可能か。 課題3. 放射性物質汚染土壌の除染処理により発生したCs・Sr汚染水に対する有機複合吸着材の除染効果は十分か。また、除染水は生物化学的に安全か。 現在は1つ目の課題に取り組んでいる。実施期間は2023年4月から2025年9月までを予定している。オゾンを用いた多種多様な土壌に含まれる放射性核種の移行挙動とその構造の理解には、実試料に近い実験試料の作製技術だけでなく、速度論や平衡論を念頭に置いた分光学的アプローチも必要となるが、関連する解析手法は習得してある。土壌成分は腐植物質と粘土鉱物に大別できるので、現在は、オゾンによる腐植物質(フミン酸)、粘土鉱物表面、層間及びフレイド・エッジ・サイト(FES)の構造変化を個別に調べている。フミン酸および粘土鉱物の表面構造はFT-IR、層間構造解析には特にXRD、NMRが有効である。また、元素濃度はAAS、ICP-MS、EDXを使って測定している。さらに、溶存有機物の分析にはHPLC、IC、UV-visを使用している。溶存化学種の配位数や錯形成定数等に関する文献値が適用できない場合に備え、UV-visやNMRとGaussianやHypSpecソフトウェアを併用し独自に算出する準備もできている。得られた知見を基に、保持された放射性核種がどの元素がどれくらいの程度で、どのような脱離機構を経由して粘土鉱物から溶出するのかを明らかにできると考えている。実験手法は確立されており、順調に研究結果も蓄積されていることから、本年度の達成度としては区分(2)と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
課題1「オゾンはなぜ土壌中に取り込まれた放射性核種(Cs(I), Sr(II))を水溶液側に移行させるのか。」では、腐植物質(フミン酸)とCs(I)(あるいはSr(II))との間のオゾン添加効果におけるCs(I)やSr(II)の浸出機構に関する知見は十分に得られたので、現在では、粘土鉱物の表面、粘土鉱物が有する層間およびフレイド・エッジ・サイト(FES)に対するオゾンの影響について調査している。また、Cs(I)やSr(II)の吸着脱離挙動については、速度論的および熱力学的解析法によってCs(I)やSr(II)周辺の化学的環境も次第に明らかとなってきた。並びにCs(I)やSr(II)を含む粘土鉱物の表面およびFESを含む層間構造も徐々に解明されてきた。この蓄積を活用して、Cs(I)(あるいはSr(II))および粘土層間双方の化学構造と反応性に関する相関を見出し、オゾン処理と陽イオン交換反応を用いたCs・Sr汚染土壌の効率的な除染条件を決定する。また、課題2「海水など、極端に塩濃度が高い環境でも問題なくオゾン処理による土壌からのCs(I)とSr(II)の除染は可能か。」では、オゾンと土壌との間の反応に対する海水および陸水成分の影響を調べるため、採水した実溶液を用いた系と特定元素を余分に添加した系で比較検討する。ここではCs-137とSr-85も併用する。課題2と並行して実施する課題3「放射性物質汚染土壌の除染処理により発生したCs・Sr汚染水に対する有機複合吸着材の除染効果は十分か。また、除染水の安全性は生物化学的にどうか。」では、土壌からCs(I)やSr(II)を浸出させた後、クロマトグラフィーを用いてCs(I)とSr(II)を除去する。最後に、生物化学的評価試験法により得られた除染水の安全性を調べ、本システムの妥当性を評価する計画である。
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