研究課題/領域番号 |
23K04649
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分31020:地球資源工学およびエネルギー学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
菅井 裕一 九州大学, 工学研究院, 教授 (70333862)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | ヨウ化物酸化細菌 / 金 / ヨウ化物 / 三ヨウ化物 / 酸素 / ナノバブル / 電子受容体 / 陰イオン / 嫌気呼吸 / 好気性菌 / 資源 |
研究開始時の研究の概要 |
地下に微生物を圧入して培養し、地下資源を回収する技術は環境に優しく経済性に優れた方法である。しかし、微生物を酸素の乏しい地下で培養するため嫌気性菌しか利用できず、資源の回収効果も限定的である。これまで地下数千mにおける好気性菌の生息が報告されており、これらの知見を基に、本研究では好気性菌を用いた地下資源開発技術の可能性を検討する。地層水に含まれる電子受容体と好気性菌の生息状況を照らし合わせ、地下における好気性菌の呼吸様式を理解し、地下で好気性菌の機能発現を促進する最適な電子受容体の種類や濃度を明らかにして好気性菌を用いた地下資源回収技術を確立する。
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研究実績の概要 |
既往の金浸出法である青化法では、有毒なシアン化物を用いるため環境負荷が問題である。シアン化物に代わる金浸出剤としてハロゲン化物が挙げられ、本研究では、金と安定な錯イオンを形成するヨウ化物に着目した。ヨウ化物はシアン化物に比べて有毒性が極めて小さいため、地下の金鉱床にヨウ化物とヨウ化物酸化細菌を供給し、地下原位置で金の浸出を図る原位置回収を目標として基礎的な検討を行った。 千葉県の水溶性天然ガス田で生産される地下水中にはメタンのみならずヨウ化物も高濃度で含まれており、ヨウ化物を酸化してエネルギーを獲得するヨウ化物酸化細菌の生息が報告されている。本研究では、Marine Brothとヨウ化カリウムからなる培地を用いた同ガス田の地下水の培養実験を行ない、3種類のヨウ化物酸化細菌を分離した。 これらの菌株を用いて金箔の溶解実験を実施した。地下原位置での金浸出では酸素条件が制限された条件下での培養になることが想定される。そのため、培養実験では密閉されたバイアル瓶内の気相部の酸素濃度を21%、19%、14%ならびに8%に調整し、培養液中における金箔の溶解を観察した。低酸素濃度条件下においてもヨウ素酸化細菌の活動を活性化させるため、培養液中にナノバブル(NB)として酸素を供給する方法を検討した。 2種の菌株について、酸素濃度8%で培養した場合、酸素NBを含まない場合は金箔が溶解しなかったり、溶解しても約50日を要したのに対し、酸素NBを含む場合は14日で溶解した。これらの結果から、酸素NBは酸素条件が制限された環境下における酸素供給源として有効であることが示された。培養前の培地中にはなかった三ヨウ化物イオンが培養後に検出され、ヨウ化物酸化細菌が培養液中でヨウ化物イオンを酸化して分子状ヨウ素を生成し、ヨウ化物とヨウ素との反応により生成された三ヨウ化物が金箔を溶解させたことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地下原位置における金浸出に利用可能なヨウ化物酸化細菌を3種類分離することができ、本研究の対象微生物を獲得することが早期にできたため、順調に研究を進めることができている。ヨウ化物酸化細菌は好気性菌であるため、本研究において最も困難であると予想された低酸素濃度条件下における培養実験についても、酸素ナノバブルを培地中に含ませることによって酸素濃度を8%にまで低下させて培養することに成功した。また、その培養液の分析から、金箔の溶解メカニズムも明らかにした。すなわち、ヨウ化物(I-)を含む培地中でヨウ化物酸化細菌がヨウ化物を酸化してヨウ素(I2)を生成し、ヨウ化物とヨウ素の反応により三ヨウ化物(I3-)が生成し、金がヨウ化物と三ヨウ化物と反応してジヨード金(I)酸イオン([AuI2]-)やテトラ金(III)酸イオン([AuI4 ]-)の錯イオンとなって溶液中に浸出することを明らかにした。さらに、本補助金で購入したイオンクロマトグラフを用いた培養液の分析により、低酸素条件下での培養前後で硝酸塩などの陰イオン量の変化が認められており、ヨウ化物酸化細菌が酸素の代わりに硝酸塩などを用いた呼吸を行なっている可能性も示唆されている。研究初年度で以上の研究成果を得ることができ、次年度以降、さらに酸素に代わる電子受容体を明らかにするための基礎データを蓄積することができ、おおむね順調に進呈していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で金の溶解に必要な最低酸素濃度を8%まで低減することができているが、本研究で想定している地下における原位置培養・金浸出においては、さらに低い酸素濃度において増殖・代謝活動を行なわせる必要がある。したがって、今後はさらに低い酸素濃度においても増殖して金箔を溶解させる培養条件を検討する。 研究初年度においては酸素NBを培地に含ませることにより低酸素濃度条件下でも増殖させることができ、酸素NBの効果が示された。この結果から考察すると、酸素NBをさらに増加させることができれば、酸素濃度をさらに低減できる可能性がある。研究初年度で培地中に含ませた酸素NBの濃度は約1×10^7bubbles/mL程度であった。今後はこの量をさらに増加させる手法を検討する。現在はナノバブルの調整法としてスタティックミキサー方式を採用しており、今後は他の方式について検討する。また、溶媒中に界面活性剤などを少量含めることによるナノバブル数の増加を試みる。 一方、研究初年度に購入したイオンクロマトグラフを用いたヨウ化物酸化細菌の培養前後における培養液中のイオン種の定量を行ない、低酸素濃度条件下において、ヨウ化物酸化細菌が酸素の代わりに利用している電子受容体を明らかにする。電子受容体が明らかになれば、その電子受容体を添加することによりヨウ化部酸化細菌が低酸素濃度条件下においても呼吸することができるようになる可能性がある。研究初年度の研究で示唆された硝酸塩の添加濃度を変化させたヨウ化物酸化細菌の微好気・嫌気培養実験を実施し、電子受容体としての効果について検討する。 以上の検討を通して、今後は酸素濃度1%未満の微好気条件下においてヨウ化物酸化細菌を増殖させて金箔を溶解させる条件を明らかにする。
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