研究課題/領域番号 |
23K04655
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分31020:地球資源工学およびエネルギー学関連
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
澤井 徹 近畿大学, 理工学部, 教授 (10178824)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 固体バイオ燃料 / 水熱半炭化処理 / 高位発熱量 / 固体質量収率 / 水熱半炭化固体バイオ燃料 / バイオマス / エネルギ特性 |
研究開始時の研究の概要 |
「脱石炭」対応の一方策が“固体バイオ燃料による石炭の代替”である。水熱半炭化(Wet Torrefaction)処理は高含水率バイオマスを石炭と同等の特性に改質し得る有望な熱処理技術である。しかしながら、石炭用の炉・ボイラといった設備側からの要求に見合う所定のエネルギー特性を有する水熱半炭化固体バイオ燃料(WTB燃料)の汎用的デザイン・制御手法の検討は未だ不十分である。本研究では、バイオマスを構成する有機高分子の水熱半炭化反応時におけるエネルギー特性評価モデルを構築することで、任意の実バイオマスで製造されるWTB燃料に所定のエネルギー特性を付与するための汎用的デザイン手法の開発を検討する。
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研究実績の概要 |
石炭を代替する固体バイオ燃料の改質方法として水熱半炭化(WT)処理を取り扱った。バイオマス試料としてスギ及び稲わらを用いてWT処理実験を行い、WT条件(温度及び保持時間)が水熱半炭化固体バイオ燃料(WTB)の化学特性・エネルギー特性(元素分析、灰分、固体質量収率SMY、高位発熱量HHV)に及ぼす影響、及びWTBのエネルギー特性の解析的な推定法について検討した。当該年度に得られた成果は以下の通りである。 本実験条件におけるWTプロセスでは脱水反応が主反応であり、乾式半炭化(DT)プロセスにおける熱分解反応と同じである。稲わらのWTプロセスでは灰分浸出が確認され、稲わらWTBの灰分浸出特性をSMY の関数として表すことができた。WT及び DTプロセスによる固体バイオ燃料のHHVもSMYの関数として実験相関式を提案した。WT稲わらとDT稲わらのHHVの差異、及びスギと稲わらのHHVの差異は、初期灰分の差異及びWTプロセスでの灰分浸出効果と密接に関係していることがわかった。 WTプロセスにおける固体質量の減少に及ぼす灰分浸出の影響は、SMY>0.6の範囲では数%未満であり無視し得る。このため、WTプロセスにおける反応速度解析は、灰分浸出を含む SMYデータを使用して行った。WTプロセスを揮発分生成反応に対する反応速度定数を持つ単一素反応とみなして反応速度解析を行い、スギでは12次反応モデル、稲わらでは1次元拡散反応モデルでWT反応速度モデルを構築できた。 WT反応速度モデルとHHV実験相関式に基づいてWTBのSMYとHHV の推定方法を提案し、両バイオマス種共にいずれのエネルギー特性も±10%の精度で推定できることがわかった。スギと稲わらについて構築したエネルギー特性推定法に基づき、所定のSMYとHHVを有するWTBを製造するためのWT条件を推定・制御し得ることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水熱半炭化固体バイオ燃料(WTB)のエネルギー特性として、スギ及び稲わらを用いたWTB製造実験を行い、WT条件がWTBの化学特性・エネルギー特性に及ぼす影響を検討した。WT条件としては、WT温度180、200、220、240℃、WT保持時間0,30、60、120分、バイオマスと水の質量比B/W=1/5であり、得られた知見は以下の通りである。 本実験条件におけるWTプロセスでは脱水反応が主反応であることが示され、これは乾式半炭化(DT)プロセスにおける熱分解反応と同じ反応が進行したものであることが明らかとなった。稲わらのWTプロセスでは灰分の浸出が確認され、稲わらWTBの灰分浸出特性を固体質量収率SMY の関数として表すことができた。WT及び DTプロセスによる固体バイオ燃料の高位発熱量HHVもSMYのみの関数として実験相関式を提案した。WTプロセスにおける固体質量の減少に及ぼす灰分浸出の影響は小さく、固体質量の減少は主として熱分解による揮発分放出に起因するとみなすことができる。このため、WTプロセスは、熱分解による揮発分生成反応に対する反応速度定数を持つ単一素反応として反応速度解析ができるものと仮定し、反応速度モデルを検討した。この結果、スギでは12次反応モデル、稲わらでは1次元拡散反応モデルでWTプロセスをモデル化できた。WT反応速度モデルとHHV実験相関式に基づいてWTBのSMY及びHHVの推定方法を提案し、両バイオマス種共にSMY及びHHVを±10%の精度で推定できることを確認した。 上記の成果は実バイオマスに対するWTプロセスの基本特性及びWTBのエネルギー特性推定に関するものであり、次年度以降で検討する汎用的WTBエネルギー特性推定モデル評価のための基礎となるものである。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の成果として、スギと稲わらのWT反応速度解析に基づいてWTBのエネルギー特性推定法を提案した。これにより、所定の固体質量収率及び発熱量を有するWTBを製造するためのWT条件を解析的に推定・制御し得ることを示した。これらの結果は、WT条件とWTBのエネルギー特性を双方向に関連付ける実用性のある研究成果ではあるが、特定のバイオマス種(スギ、稲わら)に対して得られた知見である。本研究の目的である「汎用的エネルギー特性デザイン手法の開発」のため、次年度以降バイオマス種に依存しないWTBエネルギー特性推定法を検討していく必要がある。 このため、バイオマスを構成する高分子(セルロース、ヘミセルロース、リグニン)に対してWT処理実験を行い、各高分子のWTBのエネルギー特性を推定するためのモデル構築を、反応速度解析または適切な実験相関式に基づいて検討する。各高分子のWTBエネルギー特性推定モデルがバイオマス種に依存せずに適用可能な場合、実バイオマスの初期高分子割合が既知であれば、バイオマス種に依存せずにWTBのエネルギー特性の推定が可能になると考えられる。 一方、使用する予定の高分子試薬は、実高分子と異なり水溶性の性質を有するものがある。このため、高熱水媒体中でのWT処理実験では、各高分子の正確なWTプロセスを再現し得ない可能性がある。この場合には、実バイオマスを用いて以下の方法で対応することとする。スギを用いてWT処理実験を行い、スギWTBにおける高分子割合を計量することで、各高分子のWTプロセスにおける固体質量収率を得る。この結果に基づき各高分子のWTBエネルギー特性推定モデルを検討し、この結果が他のバイオマス種にも適用し得ることを確認することで、「汎用的エネルギー特性デザイン手法の開発」を進めていく計画である。
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