研究課題/領域番号 |
23K04687
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32020:機能物性化学関連
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
野本 知理 千葉大学, 大学院工学研究院, 助教 (00510520)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 界面 / 界面張力 / マランゴニ流 / 自己駆動系 / アクティブマター |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,自己駆動系の運動の鍵となる界面張力・流れ分布について,歪んだ界面でも計測可能な手法の開発を行うことを目的とする。これにより未だ不確定性要素が多い自己駆動系の設計の指針を得るとともに,界面張力不均衡が役割を果たすにもかかわらず従来法の測定が困難だった種々の系に適用可能とすることを目指す。それゆえ本研究では,はじめに比較的小さな界面形状変化に対応する界面張力・流れ計測法を確立し,従来法で測定困難だった系の運動機構について議論する。さらに液滴内部など,より大きな界面変形に対応した界面張力・流れ計測法の開発も併せて行うことで,従来法では踏み込めなかった自己駆動系の内部機構に迫りたい。
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研究実績の概要 |
本研究は,自己駆動系の運動の鍵となる界面張力・流れ分布について,歪んだ界面でも計測可能な手法の開発を行うことで,さまざまな自己駆動系のメカニズムを解き明かしていくことを目的としている。このため,歪んだ界面でも界面張力と界面流速の測定が可能な手法の開発として①界面変形によるレーザー出射方向変化を検出して参照光を常時検出器に追尾・導入する測定系の構築を行い,②自走系である樟脳船やBS液滴への適用を行った。 界面変形によるレーザー出射方向変化を検出して参照光を常時検出器に追尾・導入する測定系の構築としては,4分割フォトダイオードとピエゾベンダまたはガルバノミラー,PIDコントローラを使用したフィードバック系を構築してQELS法の参照光が常時検出器に入射されるような測定系の構築を行った。同時に,この手法の有効性の確認のため,水のメニスカスを用いて界面傾斜を作り出して理論値との比較を行い,10度程度の界面傾斜までは本研究の手法で対応可能であることを示した。 さらにこの手法の自走系への適用例として,自己駆動系として有名な樟脳船の運動の解析を行った。樟脳船前後の表面張力差の樟脳船速度依存性を測定したところ,樟脳船速度が大きくなるとともに前後の表面張力差が大きくなる現象が観測された。本研究の結果により,従来測定できなかった100 mm/sに近い速さの速い樟脳船においても前後の表面張力差に由来することが示されることになり,自走系の駆動力測定に対する本手法の可能性が示された。 自走液滴の測定においても,界面活性剤水溶液上を自走するサリチル酸ブチル液滴の一方向自走運動について表面張力差・表面流速の液滴速度依存性測定を行い,樟脳船とは異なり,前方の表面張力勾配に誘起された流れが液滴駆動の原因であることを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,自己駆動系の運動の鍵となる界面張力・流れ分布について,歪んだ界面でも計測可能な手法の開発および応用であり,比較的小さな界面形状変化に対応する界面張力・流れ計測から,液滴内部などより大きな界面変形に対応した界面張力・流れ計測法の開発までを目指している。 このうち本年度は,歪んだ界面でも界面張力と界面流速の測定が可能な手法の開発として,①界面変形によるレーザー出射方向変化を検出して参照光を常時検出器に追尾・導入する測定系の構築を行い,②自走系である樟脳船やBS液滴への適用を行った。 界面の小さな変形から大きな変形に至るまで,光学的界面張力測定においては界面変形に応じたレーザー追尾測定系は重要となる。実際に水のメニスカスの測定を行ったところ,界面傾斜が数度までならは参照光の追尾のみで,傾斜角10度程度までは傾斜角を使用した解析で対応できることが分かった。こうした結果は,本研究の手法の有効性および限界について考察するための基礎データとして重要である。 さらに,本年度の研究においては自走樟脳船への適用とサリチル酸ブチル液滴の一方向運動への適用も行った。本研究の手法により従来測定できなかった速さの樟脳船の駆動力について議論できるようになった点は,本手法の可能性を示すものとして重要である。また,サリチル酸ブチル液滴の自走においても,本研究の手法により表面張力と表面流速の分布を一度に測定できるようになり,表面流速分布と界面張力分布という,これまで得られなかった物理量が明らかになり,曖昧に取り扱われてきた流れと界面張力分布の関係についての議論も可能になった点で意義は大きい。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては,本研究の手法を応用した自走系の運動メカニズムについての研究を引き続き行う。類似の自走運動を行う系としては液滴やリキッドマーブル,固体,固体液体複合系など様々な系があることから,本研究で構築した測定系がこれらの系に適用できるかどうかの検証を行っていきたい。また既に研究を進めているサリチル酸ブチルの自走系においても,これまで扱ってきた一方向運動だけでなく小振幅往復運動モードについても検証をおこなっていく,小振幅往復運動モードは一方向運動とは異なるメカニズムが期待される一方,駆動力についての実験的な検証は十分とはいえない,界面張力分布測定技術のさらなる改良によりこうしたモードでも流れと界面張力についての議論を可能にしていく予定である。単純な一方向運動に似た自走運動を行う系についても,メカニズムが同様であるかどうかは明らかではない。たとえば水深によって速度が異なることは知られているが,水深と自走メカニズムの関係については明らかではない。今後はこうした系についても解析を予定している。 液滴内部など,より大きな界面変形に対応した界面張力・流れ計測法の開発についても今後の展開として進めていきたい。そのため,液滴表面のように,大きな界面変形を伴う界面の界面張力分布を測定可能な手法の確立を目指す。界面の傾斜が大きな場合は界面の傾斜角を使って散乱角変化を補正する必要があると考えられる,液滴界面の曲率によるレンズ効果の影響も考慮する必要がある。それゆえガラス基板上の大きな水滴の界面張力の検証から研究を進めていく。さらに液滴に界面活性剤を接触させたときの界面張力時間変化・液滴変形についての振る舞いについても考察の予定である。本研究の手法開発を第一歩として,液滴内部のような動的変形を伴う系にも対応可能な測定法になるように展開していきたい。
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