研究課題/領域番号 |
23K04712
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分33010:構造有機化学および物理有機化学関連
|
研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
富永 昌英 徳島文理大学, 薬学部, 准教授 (60361507)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
|
キーワード | 大環状化合物 / 多孔質有機結晶 / 水系 / 吸着 / 分離 / 揮発性物質 / 細孔 / 有機結晶 / 多孔質結晶 |
研究開始時の研究の概要 |
無機ゼオライトや金属-有機構造体などの多孔性物質に加えて、大環状化合物を基盤とした多孔質有機結晶が、貯蔵・分離、触媒、センシングなどの機能と関連して注目を集めている。本研究において、脂溶性アダマンタンと芳香族化合物からなる大環状化合物群を、一ステップで合成する。また、官能基導入・修飾化を実施する。これらの大環状化合物群から水系で安定な多孔質有機結晶を探索する。水系での汚染物質の除去、水溶性の生体関連化合物や医薬品の吸着を通じた特定成分の抽出・分離と構造決定、など高性能吸着剤の開発と新機能の創出に取り組む。
|
研究実績の概要 |
本研究課題は新規大環状化合物群の構築、これらを基盤とした分子性結晶群の作製と水系でも安定な機能性多孔質結晶を創出することである。本年度は、以下の項目を実施した。 (1)1,3-アダマンタンジオールとメトキシ基を有するp-テルフェニル誘導体を、メタンスルホン酸存在下で各種条件を最適化することにより、2+2型の大環状化合物を64%の収率で合成した。また、p-テルフェニル誘導体の中央のベンゼンをカルバゾールなどに変換して行ったところ、同様の環状化合物が得られた。また、ニトロ基などを有するm-テルフェニル誘導体を用いた場合も、同様の環状化合物が得られた。各種溶媒で結晶化を行ったところ、一次元細孔をもつ層状、ネットワーク構造の結晶が生成した。p-テルフェニル誘導体をもつ環状化合物の結晶をジエチルエーテル中に室温で浸漬した。得られた結晶は、環状化合物の構造と配列は維持されており、単結晶-単結晶形式でゲスト交換していた。すなわち、アダマンタン架橋シクロファンは多孔性有機結晶として有用であることが分かった。 (2)6つのメトキシビフェニルを3つのメチレンと2つのアダマンタンで架橋した大環状化合物は、結晶状態では二次元状に配列した層状構造を形成する。2種類の異なる空孔からなる一次元細孔を有しており、これが交差した二次元ネットワーク空間が生成する。水中でも結晶性は維持されており安定な構造体であり、発がん性が高いベンゼン、ジクロロメタン、ジオキサンなどを含んだ水中に浸漬した後、得られた結晶の構造解析から、細孔内にはゲストが包接されていることが確認された。また、シクロヘキサンなどの多様な揮発性物質も水中から除去することが可能であることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、(1)新規大環状化合物の合成によるライブラリーの拡充と、(2)水系で安定な結晶群の探索と有機汚染物質に対する吸着について検討を行った。(1)に関して、メトキシ基を有する多様な芳香族化合物と1,3-アダマンタンジオールをメタンスルホン酸存在下で反応させることにより2つの芳香族ユニットを2つのアダマンタンで連結した内部空孔を有する環状化合物を効率良く合成できることが分かった。また、この反応は汎用性が高く、モジュラー合成により、環骨格のサイズや形状、空孔特性の異なる約20種類の大環状化合物の構築に成功した。大環状化合物の分子性有機結晶を作製し、これらを液体性のゲスト化合物に浸漬したところ、結晶性を維持したまま単結晶-単結晶型でゲスト交換することが分かった。すなわち、大環状化合物の有機結晶は多孔性を示すことが示された。 (2)に関して、水中で結晶性を維持できる有機結晶を見出した。また、水中に含まれる揮発性有機化合物、発がん性が高いベンゼンなどを効率よく吸着でき、得られた結晶は単結晶X線構造解析により構造解析が可能であった。すなわち、大環状化合物の有機結晶は、浄水器のろ材として活用できることが示唆された。これは、アダマンタンの脂溶性に加え、大環状化合物の他の構成ユニットである芳香族部位との多点相互作用に起因すると考えられる。 以上の結果は、昨年度の目標をおおむね達成していると考えられる。このような知見を利用して、本年度は、官能基化した新規大環状化合物群の作製、コンビナトリアル結晶化による有機共結晶などの多孔性結晶群の拡充、水中での高選択的なゲスト吸着と分離について実施する。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、水中でも安定な多孔性有機結晶を活用して選択的ゲスト吸着・分離に取り組む。特に、ベンゼンなどの揮発性有機化合物を複数分子種の混合系から選択的に分離することを目的とする。そのため、特定のゲストに高い選択性を示す大環状化合物・多孔質結晶を効率良く見つけ出すために、より高次の複雑な大環状化合物の合成と多孔性有機結晶の作製を実施する。 (1)2つの異なる芳香族部位を有する対称性の低い大環状化合物の構築、ハロゲン原子や各種官能基を導入した環状化合物の修飾を通じて、空孔のサイズや形状の制御、立体構造の剛直性のチューニング、表面特性の改変、非対称空間の構築、に取り組む。また、ゲストと多点相互作用が期待できる三次元空孔を有するシリンダー状の新しいタイプの大環状化合物の合成を実施する。 (2)多彩な混合溶媒での結晶化スクリーニングによる、環状化合物の分子・充填構造が異なる分子性結晶群を作製する。環状-直線状化合物、環状-環状化合物の二種類の異なるコンビナトリアル結晶化を通じて、共結晶の作製を実施する。特定のゲスト分子に対応するために、細孔のサイズ・形状・表面特性を改変した結晶、二つの異なる空孔をもつ結晶などの高次の構造体をもつ結晶を探索する。 (3)以上の多孔性有機結晶群による水中での吸着スクリーニングを通して、特定ゲストの分離を行う。得られた結果を基に、大環状化合物の芳香族ユニットの構成成分、結晶状態での充填構造、空孔特性と分離能との関連性を明らかにし、大環状化合物・多孔性結晶の再デザインを通して、高いパフォーマンスを示す分離材料の解発に取り組む。
|