研究課題/領域番号 |
23K04730
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分33020:有機合成化学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
梅宮 茂伸 東北大学, 理学研究科, 助教 (10802754)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 不斉ラジカル反応 / 有機触媒 / 不斉四級炭素 / 励起カチオン / 光反応 / キラルリン酸触媒 / アルカロイド |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は励起カチオン種を利用することで、従来のイオン反応では達成困難だった非極性官能基の変換を可能にする点が特徴である。特に本コンセプトに基づくインドールアルカロイド類の合成戦略は、従来法では合成困難な誘導体を供給できる可能性を秘めており、新たな生物活性や機能を持った分子の創造へと繋がる事が期待される。申請者はキラルブレンステッド酸の作用によりインドールなどの含窒素化合物から触媒的に生じるカチオン種を光励起し、一電子酸化剤として利用することで、金属触媒を使わずに多彩なキラル含窒素化合物の触媒的不斉合成を行う。
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研究実績の概要 |
持続可能な社会への貢献に向けて、効率性や選択性を追求した高度分子変換法の開発や環境負荷の軽減に配慮した合成法の開拓は、有機合成化学における最重要課題の一つである。近年、単純オレフィンなどの安価で豊富な化学原料を、直接的に高付加価値な光学活性化合物へと変換する手法の開発は、反応工程数や廃棄物の低減の観点から注目されている。しかし、一般的にそのような化学原料は反応性が低く、高価な金属試薬・触媒の利用や過酷な反応条件が必要とされる。この課題を解決する方法として、申請者はキラルブレンステッド酸の作用により生じたカチオンを光励起し、一電子酸化剤として機能させることで、単純オレフィンなどの反応性の低い原料を直接利用して高付加価値化合物へと変換する手法を考案した。実際にインドール環を含む基質を用いた反応を試したところ、電子豊富なインドール環の酸化反応が競合してしまい、目的物はごく少量しか得られなかった。インドール環の電子密度を下げるために電子求引性の保護基を導入して検討を行ったところ、酸化反応自体は抑制されたものの、反応そのものが進行しない事が分かった。インドール環から生じるカチオンを励起することで酸化剤として利用する戦略は光触媒を必要としない利点こそあるものの、望みの反応のみを進行させることは困難であることが分かった。一方、関連する研究において電子豊富なドナー分子を一電子酸化したのち、脱プロトン化することでラジカル種を温和な条件下発生させられることが分かった。この知見を利用すれば、当初の予定とは違う戦略・ルートで有用天然物の効率的合成が達成可能と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定ではインドリルメタノール誘導体に酸触媒であるキラルブレンステッド酸触媒を作用させることで生じるカチオン種を光励起し、酸化剤として利用することでこれまで困難であった非極性化合物の直接的変換を行う予定であった。一方、初期検討の結果、インドリルメタノール由来のカチオンは酸化剤としては一部機能するものの、望みの変換を達成させるには酸化力や安定性などの観点から本反応の実行には不適であることが分かった。ラジカル種の利用を検討する中で、一電子されたドナー分子を塩基により脱プロトン化することで対応するラジカル種が生成することが、研究の途中で見出された。これにより、あえて励起カチオン種を経由することなく、望みのラジカル反応を達成できる可能性がある。例えば、我々はチオアニソールを光触媒存在下、キラルリン酸のナトリウム塩を添加しておくことでオレフィンへのラジカル付加が進行することを見出した。これは光触媒によりチオアニソールが一電子酸化されラジカルカチオン種となったのち、触媒のナトリウム塩によりチオアニソールのsp3水素が脱プロトン化されることでラジカルとなることで進行する。この新たな知見を利用すれば、励起カチオンを利用した直接的変換を行う予定であった本研究テーマの適用範囲を大きく拡大することができる。以上の理由により、目的の反応自体は進行していないものの、当初の研究計画を大きく刷新することができるデータが得られたため、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定であった励起カチオン種の利用ではインドール環を含む化合物の直接的変換が困難であることが分かった。一方で、インドール環はその電子豊富さゆえに容易に一電子還元を受ける事から、光触媒を用いた一電子酸化と続く脱プロトン化を行う事でラジカル種として利用し、続く求電子剤への付加を不斉触媒であるキラルリン酸触媒、あるいはキラルブレンステッド酸触媒を用いて適切に制御することとした。これにより、当初の研究計画であったインドール環へのラジカル付加およびアルカロイドの効率的合成法の研究のみならず、様々な化合物の直接的不斉変換への可能性が見出された。今後は2位あるいは3位に置換基を持つインドールやチオアニソール誘導体をドナーとする光ラジカル反応について検討し、キラルリン酸触媒の金属塩を始めとする種々の不斉触媒を反応系に関与させることで直接的な不斉ラジカル反応の開発を行っていく予定である。
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