研究課題/領域番号 |
23K04765
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34010:無機・錯体化学関連
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
野崎 浩一 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (20212128)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 配位高分子 / 励起緩和ダイナミクス / 構造変化 / 項間交差 / 銅(I)錯体 / 金(I)錯体 / 熱活性遅延蛍光 / 光緩和ダイナミクス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、発光性銅(I)錯体の中で重要な化合物群である銅(I)多核配位高分子について、それらの単結晶やナノ結晶が示す特異な発光物性の発現機構や光励起緩和ダイナミクスを明らかにする。含リン原子、含硫黄、含窒素配位子をもつハロゲン架橋銅(I)配位高分子を合成し、スプレー法などで作成した微結晶膜についてフェムト秒時間分解分光測定を行い、励起状態の構造変化や項間交差などの緩和ダイナミクスを解明する。配位子の種類や配位高分子間の電子的相互作用が励起状態緩和ダイナミクスや発光の発現機構にどのような影響を与えるかを明らかにし、今後の光機能性銅(I)錯体の分子設計に役立てる。
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研究実績の概要 |
銅(I)錯体は熱活性遅延蛍光(TADF)を示すものが多く、特に固体中で高い発光量子収率を示すことから、近年有機EL素子などの薄膜発光材料として注目されている。またナノ粒子化した銅錯体はCO2光還元触媒としての応用も期待されている。 近年の発光性銅(I)錯体の研究は、ハロゲンで架橋された銅(I)二核錯体[Cu2(μ-X)2]が主流となっている。[Cu2(μ-X)2]型錯体の励起状態は、MLCT と XLCTとの混合状態であり、固体状態で強いTADFを示す。XLCTではヤーンテラー変形が小さく、発光スペクトル幅がMLCTよりも狭いという優れた特徴がある反面、銅原子のd軌道の寄与が小さいため、一重項と三重項間の項間交差速度が遅くなるという欠点がある。本研究では、固体薄膜用のフェムト秒時間分解分光装置と微結晶の固体膜化技術を用いて、発光性多核銅(I)錯体の中で最も重要な化合物群である銅(I)配位高分子の単結晶やナノ結晶中での内部変換や項間交差、励起状態での構造変形などの励起状態の緩和ダイナミクスを解明することによって、これらの物質が示す特異な発光物性の発現機構を明らかにする。 今年度は、塩素およびヨウ素が単座配位した銅(I)二核錯体の微結晶膜について、項間交差や構造変形などの励起状態の緩和ダイナミクスを観測した。励起直後の発光スペクトルのダイナミックストークスシフトの大きさから、ヨウ素配位の錯体は塩素配位の錯体よりも励起直後の構造変化が小さいことを明らかにした。一方、ヨウ素錯体の項間交差速度は塩素錯体に比べて著しく大きかった。これらの結果は、ヨウ素錯体では励起状態においてハロゲンの非結合軌道からのXLCT性が高いため、励起状態での構造変形が小さいこと、ハロゲンの非結合軌道は縮重軌道であることから、ヨウ素のスピン軌道結合が強く働き項間交差が非常に速ことなどを、初めて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固体薄膜用のフェムト秒時間分解発光測定装置を改良し、ハロゲン配位の銅(I)二核錯体の微結晶膜中での項間交差や構造変形などの励起状態の緩和ダイナミクスを観測した。励起直後の発光スペクトルのダイナミックストークスシフトの大きさから、数百cm-1以下の振動数の基準振動座標に沿った再配列エネルギーを決定したところ、ヨウ素配位の錯体は塩素配位の錯体よりも励起直後の構造変化が小さいことを明らかにした。一方、ヨウ素錯体の項間交差速度は著しく大きかった。これらの結果は、励起状態においてハロゲンの非結合軌道からのXLCT性が高いこと、ヨウ素錯体ではXLCTが縮重していることによると考えられる。 発光性多核銅(I)錯体の中で最も重要な化合物群である配位高分子[Cu2(μ-X)2(PR3)2(L)]nの微結晶膜について、励起ダイナミクスを測定した。この錯体での励起緩和ダイナミクスは、高い励起状態からの内部変換が起きている可能性があるため、現在励起波長依存性などを検討している。この高分子錯体は、結晶内での分子鎖間の相互作用により、励起状態のエネルギーや構造変形が影響を受けている可能性があり、現在リン原子の置換基Rによる発光物性の違いや、項間速度の違いについて検討している。
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今後の研究の推進方策 |
今後も様々な発光性多核銅(I)錯体の微結晶膜を作成し、励起ダイナミクスを測定する。 フェムト秒時間分解発光スペクトルの波長による時間補正に関し、今年度後半に波長による100fs程度の時間のずれの原因が特定できたことから、今後配位高分子やハロゲン配位銅(I)二核錯体の微結晶膜について、励起後1ps以内に起きる発光スペクトル変化を決定し構造変化の大きさを評価する。 本研究を通して、ハロゲンを配位子として有する銅(I)錯体では、結晶中での励起状態での構造変化や電子状態が、近接する高分子鎖や錯体との電気的相互作用の影響を受ける可能性があることが分かった。そこで、今後、結晶やポリマーについての大規模な量子化学計算の手法を確立し、錯体間の電気的相互作用の影響を定量的に明らかにする方法について検討する。
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